JOURNAL KAGAWA ヨクシル
【第8回】見える調理 見えぬ科学

学びと教育

【第8回】見える調理 見えぬ科学

本学の校門を入って直ぐの場所に、「食は生命(いのち)なり」と刻まれた石碑があります。本学創立者の香川綾先生の言葉です。「食べる」ことは人間の原点であり、生きていくために必要であることを一言で表現しています。私たちが口にするものの多くは調理されたものであり、人は調理に支えられて生きていると言っても過言ではないでしょう。

食品の中には、食中毒の原因となる有毒成分を含むもの、そのままでは消化が悪いもの、食味がよくないものなど、いくつかの課題があります。調理はこれらの課題を解決・改善することで、食べられるものの範囲を広げ、人類の繁栄に貢献してきました。生命維持には栄養素の摂取が必要ですが、それだけでよいか―「食べ物のおいしさや見た目などは、どうでもよいか」と問われると、肯定することは難しいでしょう。食べることの継続性を考えると、食べ物のおいしさは無視できない重要な要素だからです。生命維持という基盤が満たされると、調理の意義はおいしさの追求や嗜好性の向上に移行します。その結果、私たちは多様なおいしい食べ物を楽しめるようになりました。

食べ物のおいしさを大きく左右するのは、調理です。食卓に並ぶ白飯やみそ汁のおいしさは、あまりに身近で、その価値に気づきにくいものです。経験の少ない学生の調理をみていると、思うようにできないことが多くあります。その際、「失敗には理由があり、成功にも理由がある」と述べています。現象には必ず原因があります。この科学の基本原理は、日常の調理にも数多く潜んでいます。調理は目に見えますが、その背後の科学は目に見えません。実は、失敗はその科学に気づく絶好の機会です。さらに、観察力の鋭い人は、失敗せずとも同じ気づきを得ることができます。小さな気づきを積み重ねて確かめることで、失敗や成功の理由は科学として理解できるようになります。

おいしさは、偶然ではなく必然で生まれます。科学を知らなくても調理はできますが、上達にはある程度の時間が必要です。短時間で調理技術を習得し、安定した品質を実現するには、調理の科学を味方にすることが一番の近道です。

教育現場にとどまらず、調理の科学は研究・開発の質の向上にも寄与します。例えば、原理を活用した技術により、新しい食感構造や風味を設計したり、未利用資源を付加価値の高い食材へ転換したりすることが可能です。このように調理の科学は可能性を広げる鍵となり、これからも食の新たな扉を開いていくでしょう。本学の産学官連携においても、調理が関わる分野では、地域・社会の実情に応じて研究成果を還元しています。

調理は単なる手作業ではありません。その背後には科学があり、新しいおいしさを生み出します。科学を理解すれば、おいしさは再現でき、さらには自分で創り出すことも可能になります。この視点に立てば、調理が少し違って見えてきませんか。

柴田圭子 教授

女子栄養大学卒、女子栄養大学大学院栄養学研究科修了、博士(保健学)、管理栄養士、専門は調理科学。近年の産学官連携の事例として、坂戸市の歯に優しいグミ(葉酸、キシリトール配合)の品質向上への協力がある。

※柴田教授が開発にあたって協力した、歯に優しいグミ「ハピグミ(HAPPY GUMI)」に関する情報はこちらからご覧ください。
 現在、本学坂戸キャンパスの販売課(サムシング)にても、販売中です。