学びと教育
【第6回】病気を知れば「食べること」が見えてくる
私は、本学で「臨床医学」を担当している医師です。普段は学生たちに、病気がどのような仕組みで起こるのか、どういう治療が行われるのか、を教えています。「栄養の大学でなぜ医学?」と思うかもしれません。しかし、病気の成り立ちを深く知れば知るほど、毎日の食生活や運動がいかに大切かということに気づかされます。学生たちからも、「病気を学んでから、自分の食事への意識がガラリと変わった」という声がよく届きます。
病気と栄養の関係には、大きく分けて三つのパターンがあります。
一つ目は、食生活そのものが「原因」で病気になるパターンです。今、世界では八億人以上の人々が深刻な食糧不足に苦しみ、栄養失調から命をおとす人も少なくありません。わが国では「飢餓」は関係ないと思うかもしれませんが、行き過ぎたやせ願望やネグレクトなどにより栄養失調になると、健康を大きく害することになります。一方で、世界中で肥満が深刻な問題となっています。消費する以上にエネルギーを摂りすぎることで体に脂肪がたまりすぎ、動脈硬化やがんを引き起こします。私たちの研究では、メタボリックシンドロームになっても体重を三〜五%減らすだけで血圧や血糖値が改善することを示しました。適切な食生活を無理なく送れるためにはどうしたらよいのか、病気予防の観点から研究を進めています。
二つ目は、病気になった後に、体に負担をかけないよう「食事の調整」が必要になるパターンです。心臓や腎臓、肝臓、消化管といった大切な臓器の働きが弱ったとき、普段と同じ食事は、弱った臓器にとって大きな負担となります。例えば、腎臓の働きが落ちれば、老廃物をうまく体の外に出せなくなります。病気の進行度に合わせて、食塩やたんぱく質の量を調整し、「体に負担をかけない食事」にすることにより、大切な臓器を長持ちさせる「食事療法」が重要な役割を果たします。
三つ目は、病気に打ち勝つための「体力」を作るパターンです。特にがんと闘う時や、高齢になって体が弱ってきた時、しっかり食べて体力を維持することは、どんな治療にも勝る土台となります。栄養が足りないと免疫力が落ちるだけでなく、「生きる意欲」まで低下します。がんと診断された直後から、しっかり食べて運動し、体調を整えることが治療の成果に直結することも証明されつつあります。
このように、栄養は単にお腹を満たすものではなく、病気を防ぎ、時に治療を支える「最強のパートナー」です。医学と栄養学、両方の知識を武器に、患者さん一人ひとりに最適な食事を提案できる管理栄養士など栄養の専門家を育てることにやりがいを感じています。
皆さんも、食事をするときに少しだけ想像してみてください。「この一口が、自分のからだを支えているんだな」と。その小さな関心が、一生の健康を支える力になっていくことでしょう。
津下一代 教授
1983年名古屋大学医学部医学科卒業、国立名古屋病院内科、名古屋大学第一内科にて糖尿病、内分泌疾患等の診療・研究に従事、1993年愛知県総合保健センター、2000年あいち健康の森健康科学総合センター、2020年より女子栄養大学。医学博士