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栄養と料理デジタルアーカイブスで日本人の健康課題を探る(5) 学校給食

栄養と料理デジタルアーカイブスで日本人の健康課題を探る(5) 学校給食

本学出版部が刊行する雑誌『栄養と料理』は今年90周年を迎えました。
1935(昭和10)年の創刊号から1998(平成10)年までの雑誌の内容が、図書館の「栄養と料理デジタルアーカイブス」に収録してあり、気になるテーマをキーワード検索することもできます。

前回に続き、昭和の時代から栄養士や栄養改善の制度とともに発展してきた「給食」に着目し、学校給食について、どういう姿を目指して取り組んできたのかを探ってみます。
そして、今また曲がり角にきている学校給食や給食全体のこれからについて、専門的見地から本学の教員におうかがいしました。

給食施設の今―管理栄養士・栄養士の配置は充実

1955(昭和30)年に栄養士のいる給食施設は3千施設でした。その後、管理栄養士資格が新設され、集団給食施設(現行の特定給食施設)における管理栄養士・栄養士配置に関する法的整備も進み、2023年には管理栄養士・栄養士のいる給食施設が6万5千施設までに増加し、配置されている管理栄養士・栄養士数は14万人に達しています。

直近(2023年)の給食施設別の状況をみてみると、下の表のとおり、管理栄養士・栄養士の配置されている学校の数は11,800施設で、児童福祉施設の次に多い施設数になっています。

50年前の問いかけ① 学校給食はだれのもの? 学校給食はほんとうに必要か?

今から50年ほど前の学校給食はどのような状況だったのでしょうか。
1972(昭和47)年の5月号には、戦後の“飢え”から救うために再開された日本の学校給食も20年以上が経過し、「学校給食はだれのもの?曲がり角に来た学校給食」とした記事が掲載されています。

このなかで、学校給食の必要性について、本学学長の香川綾(当時)は「学校給食に特別な熱情を持って取り組んできたわけは、栄養改善をしていくには小さな児童のときから必要で、学校給食がその基本になると思ったからです」と説いています。

豊かさとともに現れてきた問題

物資が豊富で食物の不自由さがなくなったこの当時、画一的な給食に反対する教員の声、食品公害の不安を訴える保護者の声、加えてセンター方式の導入が進む中で大規模センターにみられる不衛生な食器、食材の腐敗、異物混入など、様々な問題が生じていることが報告されています。

不十分な給食の運営体制

こうした課題への対応が求められるなか、栄養士の位置づけや職務内容が明確にされていない状況について、「働く人たちから」の声も紹介されています。

◉1校に1名の栄養士、それに調理師というのが給食従事者の切なる願い。
◉専門の栄養士さんが必要です。子どもの健康状態をチェックし、材料をチェックし、子どもの要求にあったものを提供してもらえれば、私たち教師は安心して本業にもどれます。
◉栄養教諭のような形で入ってきて、給食に関してはすべて安心して任せられるような状態を望みます。

また、現場の栄養士の一人は、栄養士自身も社会的教養を身につけ、広く話し合えるように向上すべきだと述べています。

給食費をめぐる問題

さらに、給食費について、国庫補助を求める声がある一方で、それが現実になると保護者はますます給食に無関心になる危険性があるとの指摘もあります。

本学創立者香川綾の「子供中心に考える」姿勢

最後に再び、香川綾の言葉があります。
「とにかく日本人は食べることはいつも後手後手に回しますね。・・・私は給食制度そのものは必要だと痛感しているのですが、今の中途半端なやり方には反対です。」「子供を中心に考えれば、センター方式だってどんなふうに取り入れるか、今とは違ったはずですが。企業や産業優先のセンターになるはずがありませんがね。」 
学校給食は“子どものため”という一貫した姿勢が読み取れます。

50年前の問いかけ② 繁栄の中の貧困 どうなる学校給食

1974(昭和49)年の7月号には、繁栄の中の貧困という視点で、学校給食のあり方を問い直す特集記事があります。当時と現在では社会状況が異なるため、改めて配慮の必要な面もありますが、本質的な考え方は参考になります。

学童の身長と体重の伸びが著しく、こうした成長を学校給食が支えてきた一方で、肥満の増加という新たな課題が出現してきたことについて解説しています。さらに、物価高騰のなか、給食費が安すぎるという視点で給食の状況についても分析しています。

給食運営の合理化としての給食センターの状況、残食量の多さ、量と時間に追われる調理作業の実態、大量調理器具や機器の課題、共同購入のメリットとデメリットなど、様々な実状と課題を拾いあげるとともに、給食の質を低下させている一因として給食費の不足を指摘しています。

そして、最後に、学校給食の意義と今後の展望について次のように記されています。

栄養教諭制度ができてから20年が経過した今

長年にわたり、学校関係者や栄養関係者の願いだった「栄養教諭」制度が、2005年に施行されました。
2005年は「食育基本法」が施行された年でもあり、栄養教諭は学校における食育の推進の中核的役割を担うこととなりました。栄養教諭の配置状況は、2005年度の34名から、2025年度では5,356名へと、進んできています。

これからの給食を考える

これからの社会では、人口減少、加速する少子高齢化、労働力の不足、気候変動など、食料システムに影響する様々な課題に対応していくことになります。
給食の現状を踏まえ、これからの給食が目指す姿について、本学の中西明美先生と石田裕美先生にお伺いしました。

現在、学校給食はどのような課題に直面しているのでしょうか。

経済的にも社会的にも厳しい状況が迫っている
中西先生:大きな課題の一つは、物価高騰により給食の質が下がりつつあること、もう一つは、自治体間、学校間の格差が広がりはじめていることです。また、子どもたちの食の体験が乏しくなっていることで、おいしく残さず食べる、地域の食文化を継承するなど食に関する様々なスキルが十分に身についていない状況もありますので、そうしたスキルを育むことも学校給食に求められている課題です。

これからの学校給食はどういう姿を目指していくことになるのでしょうか。

将来に向けて食品の選択力や健康的に食べる力を育むための日々の実践の参考になる給食に
中西先生:将来、社会が大きく変化したとしても、子どもたちがそれぞれの人生で、自ら食品を選択し、健康的に食べていくことのできる力を身につけていくために、学校給食は、なにをどのように食べたらよいか、日々の実践の指針になるものだと捉えています。
一律にこう食べましょうということではなくて、学校給食という食の体験を通して、自分の身体や心の状況に応じて適量をおいしく食べるためのスキルを育んでいくことのできる姿を目指していくことになると考えています。

合理化や省力化の視点を加えた総合的な見直しの必要性
石田先生:そのためにも、今のやり方を変えていく必要があると考えています。
子どもの数はますます減少していくので、例えば共同調理場に集約化することが効率的なのか、小学校だけではなく保育所や幼稚園なども集約した給食センターへの転換はあり得るのか、夏休みにも稼働することで安定的な雇用につながらないかなど、合理化や省力化の中で、子どもたちにとって、働く人にとって、そして社会にとって望ましい給食の提供形態を模索し、検討し、選択していくことになります。その際、給食は計画の立案、食材の調達・保管、調理・配膳、片付け・残菜処理など様々な工程からなる複雑な作業で、経済面や安全面、嗜好面など様々な配慮も必要なため、進展する技術の積極的活用を含め、総合的な見直しを行うことが重要です。

これから社会が縮小していくなかで、学校給食も含め給食はどのような課題に直面していくのでしょうか。

「給食を提供できない」が現実の課題に
石田先生:労働力の不足や給食運営に必要な経費の削減が進めば、「給食を提供できない」状況に直面していくことになります。
一方で、1日の食事の中で、給食は必要な栄養素を部分的に補うのではなく、欠かすことのできない栄養源になっている現状があります。例えば、学校給食では1日に必要な栄養素量の3分の1を一律の目標とするのではなく、不足しがちな栄養素についてはその40~50%を確保できるよう計画されています。もしこれがなくなってしまうと、必要な栄養素量を確保することが困難な状況が生じてしまいます。

これまで長い年月をかけて構築されてきた日本の給食制度は、これからどういう姿を目指していくことになるのでしょうか。

大切なのは社会に適合する「新しい形」で持続していくこと
石田先生:給食制度は維持していくべきだと考えています。一定の数の人たちに継続的に食事を提供するという制度は、どの世代においても、健康という観点から有益なシステムだからです。
日本において、給食はすでに一つの食文化として位置づいているといえます。社会に定着し、人々が意識するしないにかかわらず、その恩恵を受けてきています。意識しないまま、貴重な給食制度を失くしてしまうことのないよう、これからの縮小社会を見据え、これまでにとらわれない「新しい形」に整え直していくことが必要です。
社会そのものが大きく変わるのですから、国や各自治体の長、食料システム関係者、技術開発者、給食関係者、地域の方々など、多様な領域の多様な人たちの考えや発想をもとに議論を進めていかないと、持続可能なシステムにはなり得ません。そうした社会全体での議論の先に、給食の「新しい形」があると考えています。私たちも積極的に議論に参加することで、「新しい形」の給食の実現に一緒に取り組みたいと思います。

昭和の時代に、食と健康にどう取り組んだのか、リサーチしたい時は、「栄養と料理デジタルアーカイブス」をご活用ください。

月刊『栄養と料理』は、令和の時代も、食と健康の課題に役立つ情報を発信しています。スマホやパソコンでも読める「デジタル版」も2015年9月号からご覧いただけます。

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