JOURNAL KAGAWA ヨクシル
【第2回】遺伝子と栄養

学びと教育

【第2回】遺伝子と栄養

栄養素の働きは、私たちの持つ遺伝子と密接に関係しています。栄養素は遺伝子の働きを変えますし、逆に個人毎の遺伝子の違いによって栄養素の働き方が変わります。今回は前者について見ていきましょう。

私たちが生命を維持したり、体を動かしたり毎日の生活を楽しんだりできるのは、何万種類というたんぱく質が正しく働いているからです。そのたんぱく質を作るための設計図は、DNAに書き込まれた遺伝子という情報です。良く知られているように、DNAはAとCとGとTというたった四種類の文字が並んだものです。体の全ての細胞には、この文字が数十憶も並んでいるDNAが入っていて、その情報を読み取ることでたくさんのたんぱく質が合成されます。全部で2万数千種の遺伝子がありますが、どの遺伝子がどの程度働くかは厳密に制御されています。例えば、眼では眼の働きに必要な遺伝子群が働きますし、筋肉では筋肉に必要な遺伝子が働きます。こういった遺伝子の働きが、私たちの食べる物によって変わってくるということです。

少し例を挙げて説明します。例えばある人が糖をたくさん含む食事を腹いっぱい食べたとします。そうするとその人の肝臓の中では、糖から脂肪を作るのに必要なたんぱく質の遺伝子が一斉に働き始めます。別の例として、ビタミンAやビタミンDはどうやって作用するかというと、それぞれ特定のたんぱく質に結合して、それがDNAの決まった部位に結合することで多くの遺伝子の働きを変えることがわかっています。このように栄養の分野で、食品と遺伝子の関係を明らかにする分子栄養学というのがここ40年ほどのトレンドとなってきていて、膨大な種類の栄養素や栄養素以外の食品成分が実に多くの遺伝子の機能を変えるということがわかっています。

私たち自身が食べているものが自分の体の中で変化を起こすのはわかりやすいのですが、最近では親がどのような食生活をしたかによって子供の遺伝子の働きが変わることも知られてきました。妊婦さんが妊娠中に十分な栄養を摂らずに子供が小さく生まれた場合、苑子は成長後に生活習慣病になるリスクが高くなることが示されています。私自身の研究では、妊娠中に十分なたんぱく質を食べられなかった母ラットの子供は高血圧になることを示しています。こうした現象は、お母さんの食事によって、子供のDNAに変化が起こることが原因です。DNAに特別な印がついたりつかなかったりする、それが子供の一生に渡って継続するというということが明らかとなってきて、私たちの実験でもそれが証明できています。妊娠してからはもちろん、その前からの食生活が重要であることや、男性の食も子供の遺伝子に影響を与えることなども報告されています。次世代のことも考えてしっかり食べること、そのような栄養の教育が重要であることがおわかりいただけたかと思います。「Your children may be what you eat. (あなたの子供は,あなたの食べたものでできているかも)」。

加藤久典 教授

東京大学卒業。東京大学大学院博士課程中退。農学博士。東京大学特任教授等を経て現職。専門は分子栄養学、ニュートリゲノミクス、アミノ酸の栄養学。国際栄養学連合フェロー、第22回国際栄養学会組織委員長。