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アプリを通じて人々の健康に貢献する

2023.11.20
この方に聴く AI食事管理アプリの開発者に聴く<第5回>

栄養学の特徴の一つに学問領域の広さがあります。このため、「栄養学でイノベーションを起こす」をテーマに、様々な領域で活躍されている方々に、現在の取組みやその背景にある考え方、大切にしている視点などについてお聴きし、栄養学の可能性を追求していくことにしました。今回は、進化するAI×栄養学ということで、AI食事管理アプリ「あすけん」を開発し、その運営に携わっている道江美貴子さんにお話を伺います。

―現在のお仕事についてうかがいます。AI食事管理アプリ「あすけん」とはどういうアプリなのでしょうか。

「あすけん」はアプリで自分が食べたものを記録すると自動で栄養価計算をしてくれて過不足がわかり、「AI栄養士」の“未来(ミキ)さん”が食事のアドバイスをしてくれます。利用者の9割がダイエットをしたい方で、最近では筋トレブームもありたんぱく質についての要望もあります。昨年、新たに妊娠期、授乳期の方のためのサービスも始めました。

―いつごろから始まったのでしょうか。

2007年10月1日が創業ですので、ちょうど16年が経ったところです。

―この業界ではトップですよね。

おかげさまで、直近2年間では利用者数やダウンロード数が、食事管理のアプリの中で一番多くなっています。

―開始当初は、どういうものだったのでしょうか。

2008年の特定健診・特定保健指導制度、いわゆるメタボ健診の開始にあわせて、特定保健指導用のツールとして開発されたのが始まりです。私が就職したグリーンハウスには社員食堂にその当時1,500名ほどの管理栄養士・栄養士が在籍していたので、特定保健指導によって栄養士の活躍の場を広げることができるのではないかという考えもありました。まだスマホのない時代でしたが、IT活用の観点から、パソコンと組み合わせるとおもしろいことができるのではないか、というところから始まりました。いまでいうDX(デジタルトランスフォーメーション)の考え方です。栄養指導では、紙に食事記録をつけ、栄養士さんが栄養価計算して、その過不足から食べ方について指導するというのが一般的な流れでした。栄養士さんの栄養計算の負担を減らしたい、事前に栄養分析した結果をもとに実施できれば30分の面談での栄養指導の質があがるのでは、栄養指導の後でも使えるツールを提供すれば結果につながるのではないかと考え、今の「あすけん」のベースができあがりました。

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―道江さんは本学の卒業生で、グリーンハウスに就職した時には、こういう仕事をするとは思っていなかったのではないでしょうか。

はい、まったく思っていませんでした。グリーンハウスに就職したのは、大学の実習先が社員食堂で、1000人規模の食事が提供されるのをみて、毎日の食事の1食をバランスよく食べることで多くの人が健康になるのなら、やりがいのある仕事だと思ったからです。もともと病気になる前に食事を見直すことで、病気にならない人を増やしたいと考えていました。

―そこからどうなっていったのでしょうか。

入社当初はグリーンハウスの創業者である田沼文蔵会長の秘書として配属され、2年間務めました。貴重な経験をさせていただき、その時の経験が社内の人間関係を築くのに役立っています。その後、社員食堂の現場を3つほど経験し、管理栄養士として現場を束ねるウェルネス・スーパーバイザーになりました。関東圏内の100か所以上を管轄し、メニューづくりや本部との調整を行うほか、企業の健康セミナーの仕事も積極的に引き受けていました。そんななか社内のフリーアプライ(自由応募)制度として、「あすけん」の種ともいえる新たな健康増進に取り組む栄養士の公募があり、“やってみたい”と手をあげて、選んでいただくことができました。

―その時はどういうことをやってみたいと思ったのでしょうか。

社員食堂の仕事もおもしろかったのですが、栄養セミナーなどで対面で会える人は限られています。もっと多くの人に健康情報や食べ方を伝えられないかと考えていたので、とにかくおもしろそう、という気持ちでした。

―AIを活用したアプリも増えてきていますが、AI技術は具体的にどう利用されているのでしょうか。

例えば、画像解析の技術です。食事の写真からメニューを推定することができるのですが、私たちが保有するメニューデータベースと組み合わせれば詳細な食事記録をつけなくてもおおよその摂取栄養素が簡単にわかります。ここ数年の画像分析の進歩はすばらしく、ずいぶん細かいところまで判別できるようになってきました。

―そうなってくると栄養価計算はすべて機械がやってくれるというこのなのでしょうか。

画像解析でおおよその計算はできます。健康づくりのためのダイエットが目的で、行動を変えるためにおおよそのエネルギー摂取量を把握するためであれば、十分利用できます。実際にあすけんを3か月利用することで、初期体重がBMI25以上の方で、-4.6㎏の減量成果が確認されています。一方、例えばハンバーグの素材が、牛肉か大豆ミートかまでの判別はできないので、情報を補足し修正することになります。疾病がある方が対象で特定の栄養素量が病状に大きく影響を与える場合には、より正確性が求められますので、AI技術による分析にプラスして、管理栄養士の方々による確認や調整が必要になると思います。

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―こうした食事管理アプリによって、栄養学の可能性は広がっているように思いますが、いかがでしょうか。

実際に1~2年継続して使ってくださっている方のお話を聴くと、体調が良くなった、仕事がはかどるようになった、よく眠れるようになったなど、良くなったことを実感している方が多いことがわかります。アプリを使って自分が摂取している栄養状況を見える化することで、食事選びが変わって、減量だけでなくQOLも上がっていくことを長年見てきて、食事にはすごい力があると改めて感じています。

―今はどのくらいの方々がこのアプリを使っているのでしょうか。

現在の会員数は約900万人(2023年7月末現在)です。20~30代の女性の方々の利用が多く、2~3人に1人が「あすけん」のことを知ってくださっているくらいの認知度になっています。

―まさに栄養学で社会を変えていく可能性がありそうですが、ここは限界だと感じることはありますか。

やはり無関心期の方へのアプローチは難しいと感じています。アプリを使っていただける方は、関心期~実行期に入っていて、自分の食生活を変えようという意識をお持ちの方が多い印象です。本質的には無関心期の方にもアプローチする方法を見出さないといけないと考えていますが、まずはできるところからやっていきたいです。

―これからもっとここを変えていきたいと思っていることがありますか。

現在、ソフトウェア医療機器(SaMD)という分野で、糖尿病の食事療法に役立つようなアプリを開発中です。患者さんは60代以上の方も多いですし、アプリを使ってなにができるのか。限られた時間で診療を行う医師や栄養指導を行う管理栄養士の方々と一緒に食事療法の質をあげるためになにかサポートができないか。いろいろ模索しているところです。

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―これからさらにAI技術は進歩していきますが、栄養学を学ぶ人たちや栄養学をいかして働く人たちは、そのことにどう向き合っていくとよいでしょうか。

計算したり診断したりといったAI技術はますます進歩していくと思われます。ただ、いくら精緻化した正論を導き出し、それを伝えたからといって、人の行動が変わるわけではありません。栄養学にかかわる人たちには、人の行動を変えるための支援のスキルがもっともっと求められてくるように思います。また、最近話題のChatGPTなどのテクノロジーについて知っておくと、業務の効率化に役立つと思います。興味があればまず使ってみてはいかがでしょうか。使ってみれば何ができて、何ができないのかがわかりますし。

―AIだからすべて正しいというわけではありませんね。

与えられた情報が正しいかどうか判断、判別できるのも専門家の役割だと思います。健康情報はあふれるほどありますから、その中のなにが正しいかを知っておくことも重要ですよね。

―「あすけん」は、食事のメニューデータなど、まさにビッグデータをお持ちではないでしょうか。

現在保有しているメニューのデータベースは15万件です。コンビニを使う方が多いので、市販食品に関するデータも豊富にそろえています。また、これまでにユーザーの皆さんに記録していただいた食事記録は50億件にのぼります。食事のデータと体調や睡眠との関係について解析を進めていけたらとも考えています。最近の皆さんの関心は、カラダも心も整えるといったウェルビーイングに向かっているように思います。時代の変化とともに10代の男性の利用者も増えてきました。自分のカラダに興味があり、美容への関心や筋肉をつけたいなどニーズも様々です。

―食べることがいろいろなことにつながっていることを実感できますね。

実際にやせることができた方も多くいらっしゃいますので、どうやったらやせたのかという集合値データを提供することで、初めて利用する方でもどう実践すればよいのか、わかりやすい情報提供として活用いただけたらと思います。

―ヘルスケアの観点からは、やせることが重要になるのですね。

大切なのは適正体重を保って健康でいられることなので、やせすぎの方を増やしたいわけではありません。あすけんでは、BMI18.5以下のやせ型の人がさらにやせようとした場合、減量目標を設定できないようになっていて、設定できない理由としてやせすぎが続いた場合の影響などについて情報提供する仕組みになっています。こうした仕組みは、他の食事管理アプリにはないかもしれませんが、「あすけん」ではサービス開始当初から取り入れています。

―若い方々に興味をもって、アプリにアプローチしてくれているのはいいことですね。社会的使命としては、どのように考えていますか。

アプリでできることは限られていますが、栄養の大切さに触れる機会のない人もいますので、アプリを通してそうした機会を少しでも増やせればと考えています。親会社のグリーンハウスでは学校給食の提供も行っているので、子どもの栄養管理、食育という分野でも何かお役に立てることはないかと検討しています。早い時期から栄養管理の知識をつけることで、例えば自分が親になったときに子どもの栄養管理も考えるようになるといった、次につながっていく取組みができたらと思います。それが最終的には日本人全体の健康寿命を延ばすことに貢献できたらと思っています。

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〈道江 美貴子さんのご経歴〉
女子栄養大学栄養学部卒業後、株式会社グリーンハウスに入社。これまで100社以上の企業で健康アドバイザーを務める。2007年、「あすけん」の立ち上げに参画し、企画・コンテンツ制作・開発管理などに携わる。現在、株式会社asken(グリーンハウス100%子会社)の取締役


改★インタビュー後記_アートボード 1



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