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大手外食チェーン  吉野家ホールディングスの社長に聴く
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大手外食チェーン 吉野家ホールディングスの社長に聴く

2023.09.06
この方に聴く 栄養学でイノベーションを起こす<第2回>

栄養学の特徴の一つに学問領域の広さがあります。このため、様々な領域で活躍されている方々に、現在の取組みやその背景にある考え方、大切にしている視点などについてお聴きし、栄養学の可能性を追求していくことにしました。多様化していくこれからの社会において、栄養学が人々の幸福や健康に貢献し続けていくためには、民間のイノベーション力や創造力を積極的に学んでいくこ必要です。 今回は、「うまい,やすい,はやい」のキャッチフレーズで知られる、株式会社吉野家ホールディングス 代表取締役社長 河村 泰貴さんにお話をうかがいました。
※文中の「吉野家」の「吉」:正式には「つちよし」。

―新型コロナウイルスの影響は、外食産業に従事される方々にとって大きな変化であったと思いますが、ご自身や会社の変化はいかがですか。

自分自身の生活は大きく変わりませんでしたが、本社部門では社員のリモートワーク化が進みました。現在もコロナ禍以前より出社数は少ないです。 全国の店舗については大きな打撃を受けました。テイクアウトのみの営業期間もありましたし、テイクアウトに適さないはなまるうどんは営業停止しました。今でこそ昼間の時間帯の売上は回復しましたが、夜はまだまだです。これは飲食店の開店が20時までと制限されていた期間が長かったことで、人々の生活習慣そのものが変化したことによるのだと思います。

―そのような中で、吉野家さんは子どものいる家庭向けの支援をされていらっしゃいましたよね。

お子さま支援(※1)ですね。実は、吉野家で働くキャストを助けたい、という気持ちではじめました。新型コロナウイルスの影響で学校の一斉休暇が行われると、主婦のキャストが出勤できなくなってしまう事態となりました。給食もないですし、家庭が大変な状況になってしまう、と。これは日本中で子どものいる家庭が同じ状況に陥ってしまっているのでは、ということで、子どもの牛丼半額というキャンペーンを実施しました。
もともと営利目的ではじめたものではありませんでしたが、世間の皆様に好意的に受け入れていただいたと感じています。今も給食のなくなってしまう夏休み期間に割引キャンペーン(※2)を行っています。
これは、今まで吉野家に訪れたことのない方が、テイクアウトでご利用いただくことが増えたというビジネス面でのポジティブな結果にもつながりました。

―人々の日常の食事に寄り添うことを大切にしていると感じます。

それは常に意識しています。吉野家は日常食を提供しているお店、ブランドです。
「おいしいから」「安いから」「手軽だから」といった理由で来店される方が多いからこそ、人々の健康にも責任があります。
普段の食事として食べてもらい、知らない間に健康を支えている、ということが理想で、そこを目指したいと考えています。

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―今回、牛丼ON野菜を浅尾専任講師が監修しましたが、そもそも健康に寄与すると謳った商品は多くの方に受け入れられるものなのでしょうか。

正直過去のメニューにおいて、「健康」と打ち出したものはまだ商売にはなっていません。
社長就任後初めて手がけたものが、2014年に発売した「ベジ丼」「ベジ牛」「ベジカレー」でした。これら「健康」を打ち出したものは「そう簡単には売れないけれど日常食を提供する企業の使命としてやる」と社内で意識の共有をして行いました。健康への意識は、コツコツ続けていくことが大切だからです。その時のブームや雰囲気、感情だけで突っ走ってしまうことなく、とにかく続けていくことが重要です。
そういった意味で、牛丼ON野菜はベジ丼の進化系であり、定番の牛丼をベースにしていることからも、既存のお客様にも受け入れていただきやすいと考えています。
さらにクッキング&コンフォートの店舗限定品にしたことで、コロナ禍以降に新たに吉野家のお客様となってくださった方に、新たなご提案のできる商品となりました。

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牛丼ON野菜リンク_アートボード+1

―監修の立場としてご一緒に、吉野家さんのメイン商品である牛丼でスマートミール(※3)を実現できたことが嬉しいです。 スマートミールは、食の外部化という社会の変化の中で必要と考え作ってきた認証制度です。日常的に外食する方が、健康のことを考えたときにバランスの良い食事を選択しやすいように、という願いがもととなっています。

吉野家はファストフードのチェーン店というジャンル分けをされますが、ファストフード=ジャンクフードではないのです。決してPFCバランス(※4)も悪くありません。 これは普段の生活を送る上で、何気なくお店に入ることができるチェーンレストランの社会的意義だと考えていますが、お客様が満足して食事をし、実はその食事が健康を支えている、ということが理想です。
一方で、単独の店舗ではなく、企業化された飲食店だからこそ、素材、機械、プランに独自性と新規性を生み出し、それを全国に届けることができます。今回のコラボレーションも吉野家だからこそできたと思います。

―素材、機械、プランはこれからも試行錯誤をしながら生み出され、吉野家ブランドを支えていくのですね。そういった部分において、本学との包括連携協定に期待されることはどのようなことでしょうか。

最新の栄養学の知見をいち早く教えていただくことで、新たなビジネスを生み出すことができると期待しています。それがたとえ今現在のビジネスに即、繋がらなくても、5年後、10年後のビジネスに活きるかもしれません。
今の段階で簡単にできないことに挑戦しなければ、企業化されたチェーンレストランの社会的意義は果たせません。

―目先のことだけでなく、長期的な戦略として栄養学を活かしていくということですね。栄養学は進化し続ける学問なので、ぜひこの連携を機に学問を実践に活かす、栄養学という科学を社会に実装するということをご一緒に形にしていきたいです。

そうですね。大学での学びの実践の場として、吉野家は全国に店舗があることが強みになります。お客様の反応がダイレクトにわかりますし、マーケティング調査も可能です。
アカデミア分野に携わる方から、最近は「社会実装」というワードを聞くことが増えました。特に女子栄養大学での学びというものは社会実装しやすいと感じます。

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―ありがとうございます。本学は創立当時から、学びを日々の暮らしに活かすことを重視しているので、そう感じていただけて嬉しいです。 河村社長は毎年本学の授業で、ご講義にお越しいただいていますが、今の大学生へ伝えたいことはありますか。

10代、20代は将来がつかめない、想像できない、という方も多いかもしれません。もし今選んだ道が自分にとって間違ったものであったらどうしよう、という不安もあるでしょう。
ただ、これから70歳くらいまで働く社会になります。ぜひ長期スパンで物事を考えてみてください。
やりたいと思ったことに取り組み、後になってもしも「時間を無駄にしてしまった」と思っても、大丈夫です。そこからの人生のほうが長いですし、やり直しても間に合います。
20歳前後で、もし今、自分が望んでいた道を歩めていなかったとしても、人生はまだまだわかりません。これは50年以上生きてきた者として伝えたいことです。
女子栄養大学の学生さんについてですが、明確な将来の目標を持っている方が多いです。それは授業後に提出していただくレポートのレベルの高さにも表れています。今後社会に出て、日本の健康を担う“ソルジャー”になると思いますし、それくらい素晴らしいこと、立派なことを目指しているのだ、ということを知ってほしいです。

―嬉しいお言葉です。私たち教員もしっかり伝えていかなくてはなりませんね。学生の自信に繋がります。

今後海外で活躍する人材も出てくるのでは、と思います。社会に出てすぐにその知見を活かせなくても、活かせるようになるまでコツコツ働いていかなければならない、という覚悟も必要ですが、大学生活で得たことに自信を持って社会に出てほしいです。

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子どもが未来に期待できない社会はダメだと常々思っています。
子どもたちの将来について考えるようになったきっかけは、子どもの貧困率が17%に迫りそう、という情報を知った時です。
昔と比べて、貧困が見えにくくなっていることも、問題を難しくしています。
結果は平等でなくてよいが、機会は平等に与えられなければならない、と思っています。だから、子どもたちから学ぶ機会を奪ってはならない、という考えのもと、会社としてできることは奨学金制度(※5)でした。途中で辞めてしまう支援は返って迷惑です。吉野家は小さなサポートだとしてもずっと続けていきます。
その他の社会に貢献できる活動もコツコツとできる範囲で続けています。それは、社員やキャストのやりがいにも繋がります。無理した活動をすることで「やらされ仕事」としないことも重要です。
今を生きる子どもたちに早く大人になりたいな、大人になったらいいことがたくさん待っていそうだな、と思ってもらいたいし、そういう社会であるために取り組み続けていきます。


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●注釈
※1 お子様の食事準備支援
■販売期間
2020年3月10日(火)11時~3月31日(火)24時まで
■実施概要
12歳以下のお子様用のお食事として、テイクアウトでの利用に限り、「牛丼並盛」を通常本体価格352円(税込380円)のところ、本体価格278円(税込300円)で販売した。

※2 夏休み期間に割引キャンペーン
小学生以下限定、『お子様割』全品税込80円引きキャンペーン
■キャンペーン期間
2023年7月31日(月)11時 ~ 8月31日(木)20時
■キャンペーン内容
小学生以下のお子様は丼・皿・カレー・定食・御膳・お子様メニューを全品税込80円引きとした。

※3 スマートミール
健康的な食環境(禁煙など)で提供される栄養バランスのとれた食事メニュー。13の学会等からなる「健康な食事・食環境」コンソーシアム(協同事業体)が2018年から認証を行っています。
▶スマートミールに関する情報


※4 PFCバランス
総エネルギー量に占める、たんぱく質(P)、脂質(F)、炭水化物(C)からのエネルギー量の割合(%エネルギー)。日本人の食事摂取基準(2020年版)では,成人18~49歳のPFCバランスの目標量は,P:13~20%エネルギー,F:20~30%エネルギー、C:50~65%エネルギーとされている。

※5 奨学金制度
吉野家でアルバイトをしながら、経済的理由で大学進学などをあきらめている高校3年生を対象にした無利息の奨学金制度。将来吉野家ホールディングスや飲食業に就職した場合、返済が全部または一部免除となる特典がある。



この方に聴く 栄養学でイノベーションを起こす<第1回>
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