JOURNAL KAGAWA ヨクシル
自然に健康になれる食環境づくりの効果を栄養データサイエンスで検証!

栄養イノベーション専攻

食生態学研究室
武見 ゆかり 教授

自然に健康になれる食環境づくりの効果を栄養データサイエンスで検証!

 世の中には,野菜や果物を食べた方がよいとわかっていても実行できない人,そもそも栄養や食生活に関心の低い人がいます。
 そこ で,コンビニやスーパーマーケットで,何となく栄養的に望ましい食品・食事を選んでしまう売り場を作ることを,「自然に健康になれる食環境づくり」といいます。その効果をデータサイエンスの手法を用いて検証しました!

コンビニで食環境づくり

 実際に,大学院生と一緒に,コンビニで品揃えを健康的なものに変え,利用者の行動の変化を検証した研究をご紹介します。場所は,東京都内の病院内のコンビニ。食環境づくりとして,①甘い飲料の品数を減らし,②カップ麺では食塩摂取量の少ないものを目の高さの位置に並べて選びやすくし,③果物や乳製品の品数を増やし,④既存商品を組み合わせて「セットメニュー」として栄養バランスを考えたセットを販売しました(写真参照)。

飲料コーナーの商品構成を、加糖:無糖=7:3から4:6に逆転させ、無糖飲料(青の部分)を半分以上にした。

食塩含有量の少ないカップ麺を目の高さに置いて、実物の塩を小袋に入れて見せた。

食環境づくりの結果は?

 こうした取組みを約半年実施した結果,カップ麺では,食塩含有量が2-3g,4gと少ない商品の販売数が増え,6g,7gの商品の販売数は減少しました。全体の売上は変化なしでした(減らなかった)。また,飲料では,無糖飲料の売上が増加し,加糖飲料の売上は減少トータルの売上は増加しました。

 売り場の商品構成や並べ方を変えただけで,利用者が栄養的に望ましい選択に誘導されたのです。これが「自然に健康になれる食環境づくり」です。

 結果として,利用者である病院従業員の尿中ナトカリ比が低下し,尿中カリウム(ミネラルの一種)排泄量が増えました。つまり,尿中ナトカリ比とは,尿に排泄されるナトリウムとカリウムの比のことで,日本人がめざすべき値は2.0。尿中ナトカリ比が低いほど,心臓病や脳卒中などの生活習慣病のリスクが低いことがわかっています。

ここでデータサイエンスの活用!

 しかし,取組の何が,人々の商品の選択を変え,望ましい結果につながったのでしょうか。それを知ることが重要です! 

 ここでデータサイエンスの活用! 取組前後の病院従業員の食行動の変化を確認し,「パス解析」というデータ解析手法を用いて検討しました。図はその結果です。

図  尿中ナトカリ比の低下及びカリウム排泄量の増加に影響した要因

 コンビニから情報を得て,バランスの良い食事をする自信と野菜をたっぷりとる意識が高まり,コンビニのヘルシーセットを利用する頻度とサラダを買う頻度が増えたことで,尿中カリウム排泄量が増え(つまり,カリウムをたくさん摂った),尿中ナトカリ比が低下したということ。データサイエンスを活用したことで,これらの関係性がわかりました! 

≪参考文献≫
1)川畑輝子,武見ゆかり,他. フードシステム研究. 2021; 27: 226-231.(PDF)
2)Kawabata T, Takemi Y et al. BMC nutrition. 2024; 10:113.(PDF)

先生からヒトコト

 栄養データサイエンスの手法を使うと,このように,さまざまなデータを使って栄養改善の取組の効果を検証したり,消費者の販売動向を分析することができます。栄養データサイエンスを学んで,誰一人とり残さず,すべての人の健康寿命の延伸に役立つ食環境づくりを進めていきましょう!

 尿中ナトカリ比については,タレントの杉浦太陽さん・辻希美さんと共演したイベント「野菜をとろうフォーラム」を見てくださいね!(画像からCheck!)

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