- EIDAI卒業生の姿
- 短大:EIDAI卒業生の姿
若林 槙さん Wakabayashi Kozue
子どもたちの未来を健康にー
パラグアイで学童の肥満予防に取り組むー
独立行政法人国際協力機構(JICA) 栄養改善アドバイザー | |
2013年 | 短期大学部食物栄養学科卒業、大学へ編入 |
2015年 | 大学栄養学部実践栄養学科卒業 |
若林さんは、2021年10月、国際協力機構(JICA)の個別専門家栄養改善アドバイザーとしてパラグアイ共和国に派遣されました。パラグアイでは、循環器疾患、がん、糖尿病等の非感染性疾患(NCDs:Non-Communicable Diseases)による死因の増加という問題が起きていています。NCDsの原因の一つとなる肥満の予防を促進するために、これから2年間、現地でパラグアイの人たちとともに、学校給食メニューの改善からパラグアイ国の栄養政策立案支援まで、複合的なアプローチで挑んでいきます。
今回の派遣は、JICA がパラグアイ政府からの要請を受け実施される協力で、パラグアイにおける学童期の栄養改善への支援を行い、将来的な生活習慣病の減少に貢献することが期待されています。
具体的な活動は、パラグアイ厚生省関係者に対し、国民の肥満を減少させるための幼児期からの肥満対策等の政策立案支援を行う他、学校現場における栄養改善や運動促進、栄養教育教材の作成支援のための助言・指導などを予定しています。
若林さんは、早稲田大学(第一文学学部)卒業後、日本生命保険相互会社にて生命保険のリテール営業として働いた後、本学短期大学部キャリアコースに入学し、栄養学を学び、さらに実践栄養学科に編入・卒業し、管理栄養士資格を取得しました。外国語が堪能で、短大時代には食の世界を広げるための香川学長の授業でセカンドハーベスト・ジャパンの路上生活者の炊き出しボランティア活動に参加し、授業終了後も個人的にボランティアを継続し海外の食品企業の方々とも積極的にコミュニケーションをとるなど、様々なことに関心をもち意欲的に活動していました。また、大学での卒業研究では「小学5年生の母子世帯における食物へのアクセスならびに子どもの食事内容」 をテーマに、社会的に脆弱な立場にある人たちの食事の実態について分析を進めました。卒業後は、青年海外協力隊(現:海外協力隊)の栄養士職としてボリビアでの健康増進活動に携わり、帰国後は開発コンサルティング会社のアイ・シー・ネット株式会社に勤務し、バングラデシュ人民共和国やバヌアツ共和国等でJICAのプロジェクトに従事しました。
(掲載日 2023.10.2)
パラグアイでの活動報告
若林さんは、2021年10月より国際協力機構(JICA)の個別専門家栄養改善アドバイザーとしてパラグアイ共和国に派遣されており、パラグアイの地で国民の肥満対策等の政策立案支援他、様々な取り組みにかかわっていらっしゃいます。 ここでは、連載「パラグアイでの活動報告」として、現地の状況や取り組み等について、貴重なお話をご紹介いただきます。
第5回 パラグアイ子どもの日とカウンターパート協働による健康啓発活動(2023年12月)
8月16日はパラグアイの子どもの日で、パラグアイ国内ではこの日にちなみ、様々なイベントが開催されます。学校の先生方がピエロに扮したり、子どもたちはプレゼントをもらったりしてクリスマスとも並ぶ特別な日です。本プロジェクトでは8月17日にアスンシオン市内の小学校を訪れて栄養・身体活動の啓発イベントをしました。カウンターパートである国立栄養・食品院(INAN)は、児童を対象とした健康的な間食と身体活動を推進するための『健康的な休み時間』という教材を作成しており、それを国内で普及して実践を推進するためのファシリテーションガイドを本プロジェクトの中で作成したため、その有効性を検証することが目的でした。
当日は幼稚園から小学6年生まで118名、並びに同敷地内に併設されている中学校の1クラスの参加がありました。また、JICAパラグアイ事務所の高畠所長もお招きし、冒頭でご挨拶を頂きました。ご挨拶の中で「本日学んだことを帰宅したらご家族に伝えてください」と言及して下さいました。プログラムの中でカウンターパートが『健康的な休み時間』のポスターを使って健康的な間食について説明をした後に、参加者である子どもたちに向かって「いつも間食に何を食べていますか?」と聞き、子どもたちはとても元気な声で「りんご!」「サンドイッチ!」「ミラネッサ(牛肉の揚げ物)!」などと答えてくれました。その後、挙げられた食べ物の1つ1つについて「これは今ポスターで説明した内容と照らし合わせると健康でしょうか?」と質問し、子どもたちに健康的な食べ物であるかを確認し、健康な間食を実践するための参加者参加型の双方的なワークを実践しました。
健康的な間食・並びに身体活動の促進の啓発活動をするカウンターパート
また、身体活動の推進の啓発には本プロジェクトのもう一つのカウンターパートである厚生省非感染性疾患監視課(DVENT)参加協力があり、DVENTの身体活動の専門家を迎えて休み時間に楽しくできる準備体操やリレー競技を実践しました。肥満予防・減少には食事と身体活動が重視されているため、今回のイベントは栄養と身体活動の専門家の協働となったため、肥満対策としても非常に重要な活動となりました。10月4日をもって2年のプロジェクトが終了しますが、今後もINANとDVENTが同じパラグアイ厚生省の機関で肥満対策を担っていく部署として協力しながら活躍することを願っています。
2年間に渡りこの投稿を見て下さった皆様どうもありがとうございました。そして、女子大学短期大学部・女子栄養大学香川明夫学長・学園ご関係者の皆さま、2年間のご声援ならびに女子栄養大学短期大学部卒業生のLife & Workへの寄稿という素晴らしい機会を与えて下さりどうもありがとうございました。
第4回 夏休みの地域住民への健康的な調理ワークショップと健康講話(2023年10月)
パラグアイの学校の多くは、2月に始まり12月に終了します。なお、パラグアイは南半球に位置する国で日本とほぼ季節が逆になるため、12月から2月までの約2カ月の休みは夏休みとなります。夏期(10月~4月)は日中最高気温が40℃を超える暑さに加えて太陽の光も大変強いため、日中は外を出歩けない日々も続きます。
2022年12月の夏休み期間を利用して、3か所の家庭保健ユニット(略称:USF、地域の保健医療サービスを担う小規模診療所)でカウンターパートの1つである国立食品・栄養院(INAN)による家庭の調理従事者に対する年末のホリデーシーズンに向けた健康的なハレの日の料理ワークショップならびに学齢期の子ども向けの健康的な間食の講話を実施しました。それぞれの回では子どもを含めて30名以上の住民が参加しました。USFの利用者のみならず、夏休み期間中でしたので親子で参加する方が多くみられました。
12月21日に紹介したレシピは①豚肉と野菜のオーブン焼き、②ヘルシーな“ソパ・パラグアージャ”(パラグアイの郷土料理でトウモロコシ粉や玉ねぎ、チーズなどで作る、甘くない主食系のパウンドケーキのような食べ物) 、③マンゴーアイスの3品でした。参加者の中から子ども3名にもデモンストレーションを手伝ってくれるように頼み、参加型のイベントとしたところ、子どもたちがデモンストレーションに加わった際に参加者全員の注意力が明確に上がったのが分かりました。イベントを実施する際はどうやったらより効果を上げられるかを考えて組み込む工夫が必要です。
また、デモンストレーション中は料理の作り方の説明やこつだけではなく、調理の前には必ず手を洗うということや生肉を扱ったまな板を使って生食をする野菜の調理をしないという衛生面への言及、調味料には塩が含まれているため高血圧予防のためにはなるべく食べ物が持つ自然な酸味や香草などの風味を使用することなど疾病予防策も具体的に伝えられました。
第3回 栄養学の学びをいかし、挑戦する女性たちのストーリー、子どもたちの未来を健康に-パラグアイで学童の肥満予防に取り組む-(2023年1月)
10月はカウンターパート両機関にとってとても重要な月です。10月11日はパラグアイの『肥満と戦う日(Día Nacional de Lucha contra la Obesidad)』であり、16日は国連の定める『世界食料デー』のため、これらに関連するイベントが数多く実施されました。その中で、カウンターパートと一緒に実施した2つについてご紹介させて頂きます。10月14日は国立食品・栄養院(INAN)による小学生を対象とした「健康的な料理ワークショップ」、23日は厚生省非感染性疾患監視課(DVENT)による「健康の日イベント」が実施されました。
「健康的な料理ワークショップ」は子どもたちが自分の家にある材料で準備することができる健康に良いおやつの作り方を伝えることを目的として開催されました。今回は、パラグアイの首都アスンシオンから約2時間東に位置するパラグアリ県の小学校で実施しました。当該小学校4-6年生までの46名の児童が参加し、INANより健康的なおやつを食べる大切さの講話、前回ご紹介したパラグアイのフードガイドである『栄養の鍋』を使用した子どもたちも参加する「身体を動かす・考える」を取り入れた食育ゲーム、そして今回のために新たに作成した健康的なおやつのレシピ(オートミールとバナナのクッキーとフダンソウとチーズのマフィン)のデモンストレーションが実施されました。子どもたちからも自分たちが学校菜園で育てた野菜を使ったジュースやキッシュなどの説明があり、試食の時間も設けられました。
「健康の日イベント」は健康増進の啓発を目的としてアスンシオン市内にある大きな運動公園で開催されました。当日はDVENTによる身長体重とBMIの測定や栄養相談、ズンバや太極拳ならびに5kmのウォーキングイベントが実施されました。私もこのイベントに参加し、開発途上国の飢餓と先進国の肥満や生活習慣病の解消に同時に取り組んでいるNPO法人TABLE FOR TWOが毎年世界食料デーにちなんで実施しているアジア・アフリカの子どもたちに給食を届ける「おにぎりアクション」への参加を呼び掛けるため、イベント参加者の前でおにぎりの説明やおにぎりの作り方のデモンストレーション、そしておにぎりを使ったバランスの良いお弁当などを紹介しました。
また、これら10月の一連の活動にちなみ、JICAパラグアイのFacebookにてカウンターパートの皆さんの学齢期の子どもの肥満予防ならびに減少のための啓発ビデオがリリースされました。是非ご覧ください。
(https://fb.watch/ggfNnJevOY/, https://fb.watch/gggxsw7qCD/)
第2回 パラグアイでの研修の様子(2022年7月)
早いものでパラグアイに来て8カ月が過ぎました。2021年10月の着任当初は新型コロナウイルス感染症のパンデミックの真っただ中で、マスク着用義務や商業施設に入る際に手洗い消毒の義務がありましたが、現在、両者の義務は解除され、パンデミックにより延期されていた活動も実施できるようになりました。一度延期された若林によるカウンターパート(厚生省非感染性疾患監視課、及び国立食品・栄養院)向けの研修も2022年5月に3回にわたり実施することができました。なお、「カウンターパート」とは開発途上国に派遣されたJICA 専門家やコンサルタント、海外協力隊員等と活動をともにし、技術移転を受ける相手国側の関係者をさします。
カウンターパートの要望に基づき、3回の研修は以下の内容で構成しました。1回目は「日本の栄養政策の歴史、日本の栄養士の役割、国民健康・栄養調査、学校保健統計調査」について、2回目は「日本の食育・食事バランスガイド、日本の学校給食制度、学校や医療機関における学齢期の児童の肥満の予防・改善の取り組み」について、3回目は「日本の学校における学齢期の子どもたちを対象とした身体活動を推進する取り組み」について。
3日間の研修にはのべ52人が参加しました。一方的な説明で終わらないように質疑応答の時間を設けたり、日本の健康的な食生活を実践するためのツール(フードガイド)である食事バランスガイドの使い方について事例を出して学んだり、身体活動の促進では動画を見ながらラジオ体操を一緒に実践してみました。「食事バランスガイドを使えば目に見えて1日の食事のバランスを知ることができる」、「今後の打合せの前にも皆でラジオ体操を実践したい」などの感想があり、高い関心が伺えました。
最終日には、3日間の研修を通して学んだことを今後パラグアイ国内の学齢期の児童の肥満対策でどのように生かせるか、というテーマでグループワークを設け、最後に発表してもらいました。カウンターパートからは、「日本の食事バランスガイドを参考にパラグアイのフードガイドである『栄養の鍋』(Olla nutricional)にも運動の情報も盛り込みたい」、「パラグアイ国内での栄養士の法整備や地方分権化を通した栄養士による地域の実情に合わせたメニュー作りができていない」、「調査実施を通して政策に反映することはとても重要である」といった発表がありました。今後はこれらの意見を具体化するために日本の知見も踏まえてパラグアイ国内での学童の肥満対策を彼らとともに実施していきます。
第1回 パラグアイの食文化―マテ茶とチパ(2022年4月)
¡Hola! ¿Cómo está? (オラ!コモエスタ?)
これはスペイン語で「こんにちは。お元気ですか?」という意味で挨拶によく使われる表現です。私が赴任しているパラグアイ共和国は南米大陸のほぼ真ん中に位置する南米の「おへそ」の内陸国であり、面積は406,752㎢で日本の約1.1倍、人口は約715万人で日本の約1/18です。主要産業は農業で大豆・トウモロコシ・米などの生産、並びに牧畜が盛んで牛に関しては人口の約2倍もいると言われています。日本とのつながりも深い国であり、1936年から日本人の移住が始まり、現在は約1万人の日系人がいると推定されています。また、日本のスーパーではパラグアイ産のごまが売られているのを見かけることができます。スーパーでごまを見かけた時は是非原産国を見てみてくださいね。
今回はパラグアイの食文化について少しご紹介させて頂きます。パラグアイには数々の料理がありますが代表的な食べ物の1つは「Chipa(チパ)」と「Tereré(テレレ)」です。チパとはキャッサバの粉とチーズ、豚脂、卵、アニスなどの材料を混ぜ合わせて、オーブンで焼いたものです。味や食感は「ポンデケージョ」に近いです。焼きたてのチパは暖かく、ふっくらしていてとても美味しいです。時間が経つと固くなるので電子レンジで温めて食べるとまた美味しく食べられます。チパは真ん中の空いたドーナツ型、ころころと小さなボール型、細長いものまでいろんな形のものがあります。4月のセマナサンタと呼ばれるキリストの復活祭には各家庭で手作りのチパを食べます。
テレレは飲むサラダとも呼ばれている「マテ茶」の茶葉を冷水と氷を入れて冷たくして飲むものです。「グアンパ」と言われるカップに入れて、銀のストローで吸い上げて飲みます。レモンやミント、生姜などを入れて好みの味にカスタマイズして飲んでいる人が多いようです。また、テレレはお茶として消費されるだけでなく伝統民間療法としても用いられており、体調に合わせて必要なハーブを足して飲むこともあります。1つのグアンパを複数人と共有して飲む文化があり、テレレはパラグアイ人にとって人とつながりを深めるための大事な習慣の1つです。コロナ禍で政府からテレレの回し飲みをしないよう勧告が出されましたが、それ以前は軒先で椅子に座って寛ぎながらテレレを飲む人々の姿がよく見られました。