
2025.03.31
学園
第11回香川芳子学術奨励賞授賞式、受賞講演会開催
第11回香川芳子学術奨励賞授賞式と記念講演が令和6年10月19日に坂戸校舎で執り行われました。
受賞講演タイトル『科捜研に検査技術を活かして』
谷田部さんは栄養学部保健栄養学科を1991年度にご卒業後、埼玉県警察本部刑事部科学捜査研究所法医科研究員として入職され、現在に至ります。お話は、懐かしい学生時代の写真や思い出を交え、そして、なぜ『科捜研』に就職することになったかのいきさつを聞かせてくださいました。
私たちにとって『科捜研』と言えば、必ずと言ってもよいほどドラマや映画によく登場しますので、非常に馴染みやすいものです。「現場で指紋ポンポンする人」のようなイメージがあることでしょうから、と言うことで、『科捜研』の紹介から本題が始まりました。
科捜研は、各都道府県警察本部に設置され、犯罪現場で採取された各種資料を科学的に分析し、犯人の特定や捜査の裏付けなど、犯罪捜査を支えているところで、谷田部さんは埼玉県警が扱う事件等の鑑定を担うお立場です。地方公務員の警察職員ですが、警察官ではなく一般職員で、また、事務職員ではなく技術職員であり、技術職員にはその他に音楽隊員、整備士、建築士、栄養士なども含まれます。
ある事件が発生すれば、現場での聞き込みなど捜査を担うのは警察官です。また、鑑識担当の警察官が現場に残された指紋や足跡、鑑定資料を採取します。科学捜査研究所では、依頼された鑑定を実施し、場合によっては、裁判で鑑定した研究員が出廷することもあるそうです。科学捜査研究所の組織は50数名からなり、化学系の材料化学科、乱用薬物科、毒性物資科、そして、物理科、心理科、文書鑑定科などと細かく分かれ、それぞれ応用化学や薬学、農芸化学、物理学、理工学、情報工学、心理学などの学部出身の研究員が勤めています。また、法医科では、薬学、保健学、農学、理工学などの学部出身の研究員がいて、体液種別の鑑定及びDNA型鑑定、白骨死体の鑑定や顔画像の鑑定などに日夜取り組まれています。
法医科における鑑定では、犯罪現場に遺留されたヒトに由来する資料について、何の体液なのか、誰のものかを明らかにすること、つまり個人識別が目的になります。ヒトに由来する、血液・血痕、唾液・唾液斑、精液・精液斑・膣液との混在、皮膚・筋・爪・骨などの組織片や毛髪などが鑑定の対象だそうです。
そこで、よくニュースに出るような生々しい事件例を挙げ、その追跡と解決に至るプロセスを話してくださいました。私たちにとっては、まさにドラマのワンシーンです!そして、臨床検査技師を目指す学生たちにわかりやすく体液ごとの検査法も関連付けてくださいました。たとえば、血痕の鑑定では、その形状から、滴下・飛沫・擦過の違い、付着量や落下距離などが推測可能とのこと。
一つ目の事件は、河川で身体に損傷のある溺死体が発見されたもので、捜査により関与が疑われた車両内の座席シートが持ち込まれ、血痕の鑑定を実施した結果、殺害場所がこの車両内てであることがわかりました。
二つ目の事件は、被疑者の部屋で被害者を殺害後、その遺体を解体、遺棄したもので、その部屋の捜索で、部屋の床に尿様の反応が認められ、米粒大程度の肉片が発見され、鑑定の結果、被害者の遺体を解体したことが裏付けられました。
臨床検査では、血液や尿などを検査して異常値や病気の有無やその程度、治療効果などを定量的に求めるのに対し、法医鑑定では体液に当たり前に存在するものを指標として定性的に判定する点が違うと説明され、なるほど!と目から鱗で伺いました。
以前は、個人識別法として、ABO式血液型鑑定が行われていて、その検査法は、通常のオモテやウラ試験ではなく、解離試験や吸収試験を実施していたとのこと。そして、新たな個人識別法としてDNA型鑑定が1994年に導入され、その後10年の間に、鑑定の時短と感度がアップし、全国一律条件で実施されているとのことでした。谷田部さんが関わった件数は、これまで約3万件にもなるそうです。この鑑定によって、犯人の特定や犯人でない人物の捜査対象からの除外などの個人識別に活用されているほか、身元不明事案などの身元の特定にも貢献されています。また、警察で行っているDNA型鑑定の検査プロセスもお話があり、学生たちは親近感をもって、聞き入っていた様子です。
最後に、DNAを利用した新たな鑑定法の導入についての質疑がありましたが、鑑定には、学術的にも技術的にも確立された確実な手法で結果を出すことが重要であることを強調されました。難解の事件もあり、大変なご苦労もあるのだろうと察します。今回の講演で、私たちは、日々の悲惨な事件を聞くたびに、解明にあたっておられる谷田部さんの姿を思うことでしょう。本校卒業生が使命感をもって、社会に貢献されている姿は非常に眩しく、同時に誇り高いものです。最近は職場に女性スタッフも増えてきたそうですので、広い視野をもって挑む後輩たちもきっといます。
本校の検査技師養成課程の歴史は50年、これまでに輩出した技師数は2000名です。栄養学を学ぶ重要性、栄養士資格をもった強みを存分に活かした女子栄養大学の伝統は、今後も受け継がれていきます。


香川芳子学術奨励賞
この賞は、学園創立80周年記念事業として創始されました。検査技師課程卒業生の中から、栄養学領域、または臨床検査学領域において優れた研究を行っている者、あるいは当該領域業務の発展に貢献した者を表彰し奨励します。検査技師課程同窓会「若葉会」総会において授与され、受賞対象の研究や評価された内容についての記念講演を行っていただきます。2020年度は新型コロナ感染拡大により1回見送りましたが、今年で第10回を迎えることができました。式典を見守り、講演を聴講するのは、栄養科学専攻臨床検査学コース在籍全学年です。さらに、同期や同窓生、職場の上司や仲間などもお祝いに駆けつけられることもあります。
応募方法は本校ホームページに掲載され、自薦、または推薦された応募者の中から、検査技師課程委員会において選考されます。是非、あらゆる方面でご活躍されている皆様のご状況を後輩達、母校にお知らせください。多数の応募をお待ちしております。