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NEWS AND EVENTS

女子栄養大学のいま
学内座談会「栄養学でこれからの社会を切り拓く」
学園

学内座談会「栄養学でこれからの社会を切り拓く」

2023.09.07
栄養学の魅力は、様々な学問領域が関わっているという点にあります。栄養学の単科大学である本学は、そうした学問の魅力を最大限にいかして、栄養学でこれからの社会を切り拓いていくためになにができるかを考え、実行していきたいと考えます。
本学は、今年90周年を迎えました。建学の精神「食により人間の健康の維持・改善を図る」のもと、これまでもこれからも大切なことの一つが、「子どもの未来」です。
今回、学内の異なる専門領域の先生方にお集りいただき、「子どもの未来のために、私たちが取り組むこと」をテーマに学長を中心に話し合い、その内容を発信していくことにしました。


子どもの未来のために、私たちが取り組むこと

香川学長
食は生きる上で欠くことのできないもので、栄養学の本質といえます。人口問題、食料問題、経済、文化、教育問題など、様々な社会問題に食は関わっています。
どの子どももその子らしく・その人らしく生きていく、自分の願いの叶う生き方をしていく、そうした社会をつくっていくために、栄養学、そして女子栄養大学はどういう使命を担い、なにに取り組んでいくのかについて、3人の先生方の教育研究領域や考え方を交えながら、話し合いを進めていきます。
参加いただく先生は、生殖内分泌学がご専門で生殖医療の最前線に長年携わってきた石原理教授(医学博士、産婦人科医師)、給食・栄養管理がご専門で子どもの貧困と食生活、児童養護施設の栄養管理の調査研究を行っている石田裕美教授(栄養学博士、管理栄養士)、実践養護学がご専門で養護教諭の養成に尽力している大沼久美子教授(保健学博士、養護教諭)です。

1

石原教授
―栄養学はまだ広く知られている学問分野ではない
これまで長年にわたり医学生に医学の歴史を話してきたが、その中で栄養学を扱ったことがなかったというのが現状。本学に着任して1年半が経ち、栄養学の重要性を感じ、やり方や考え方を変える必要性を痛感している。
ー次代をつくるヒトの科学に挑戦
産婦人科医でリプロダクションが専門。次の世代、次の社会をつくるために、持続可能性という点からしっかり捉え、後世のことを考え続けていく学問領域である。特に、リプロダクション、ヒトの一生を考えた場合、女性では、妊娠・出産というステージがあり、バイオロジカルな機能や変化を認識しやすく、男性ではそれに匹敵する変化は見当たらない。けれど、医学におけるヒトを対象にした研究の多くが男性目線による科学であったことは否めない。女性目線で捉えることも必要。薬の使用や治療において随分性差が考慮されるようになってきたが、様々な研究にもっとジェンダーの視点を入れるべき。
―栄養学もジェンダーの視点で取り組む
これからはヘルスプロモーションとしての栄養学に、多様性を認めあう時代だからこそ、ジェンダーの視点をもって取り組んでいくべき。本学が女子大であるという個性もいかすことができる。私自身、これまで生殖補助技術や妊娠管理などに取り組んできたが、前成熟期の性教育やプレコンセプションケア、後成熟期も含め、栄養学で切り拓いていく可能性は無限にあると考えている。

2


ジェンダーを考慮した栄養学は、ライフステージ“ごと”ではなく、ステージをつなげる視点で展開
石田教授
成長スパートの発来や月経の開始、妊娠を控えての時期、妊娠中及び授乳中、更年期の骨量減少といったように女性特有の身体状況に応じて栄養管理をどう進めていくかは、個別栄養管理の基本である。ただ、ライフステージ“ごと”の理解、対応にとどまりがちで、ヒトの一生としてつながっていくという視点での理解、対応へ、もっと工夫・充実できると思う。ヒトが誕生し、その生涯を終えるまで、どう栄養学が支えていくのかという視点で体系化し、それを特に女性に焦点をあてて取り組むことは、本学の重要な役割だと考える。

3

石田教授
―学校給食が貧困対策を担う時代に
給食を通して人々の栄養状態を改善していくことが研究テーマの一つ。その中でも学校給食に力を入れている。学校給食の成り立ちは貧困対策で、戦後は子どもの体格の改善に大きく寄与してきた。身長や体重の伸びが横ばい傾向となって以降学校給食の意義も問い直されてきたが、最近では子どもの貧困の実態が少しずつ明らかとなり、今また、学校給食は貧困対策を担う時代になっている。
―子どもの日々の食事に学校給食の存在が大きい
私たちが厚生労働科学研究で実施した調査研究でも低収入の世帯でたんぱく質摂取量が少ないなどの結果がみられた。同様の結果が、すでに大人や高齢者の研究でも確認されている。現在の子どもの摂取状況には、学校給食の存在が大きい。収入があっても豊かな食生活とはいえない状況もある。学校給食でなんとか一定の栄養素摂取状況を保ち、食に関する体験を増やし、食文化に関する教育も行われている。このように学校では様々な取組みが行われ、一方家庭ではその機能が薄らぎつつある。そうした中、より早期からと考え、保育所給食の調査研究に携わり、児童養護施設の調査にも参加している。
―児童養護施設で食はどう営まれているか
今、国の施策として、家庭養護の拡充が進められ、児童養護施設も小規模化へ移行している。生きづらさや困難さを抱える子どもたちが生活しているが、食がどう営まれているかについての研究は乏しく、その実態は明らかになっていない。どうあるべきかの議論もこれからである。従来型の多人数の施設だと管理栄養士・栄養士といった専門職が食事管理を行っているが、少規模タイプだと児童指導員や保育士が献立の作成や食事づくりを行っている。
―すべての子どもの食の自立を目指す
養育環境が異なっても、どうすれば、食の自立に向けて子どもが食を営む力を身に付けていけるのか、関係する大人たちや専門職種が共に考え、整理していく必要がある。従来の給食の概念では対応できない。施設を巣立ち一人暮らしを始めた時に、何をどう用意して食べたらよいか、困らない状況にしなければならない。家庭での食の機能についても、社会との関わりの中で見直す時機にきているすべての子どもの食の自立に、栄養学そして本学がどう寄与できるかは、これからの大きなテーマ。このことが生涯継続していくので、しっかりと丁寧に向き合う必要がある。

香川学長
子どもの食の自立に、公的機関や他者がどこまで関われるかという難しさがあるのは事実。
だからこそ、日本の社会構造やそこに生じている課題をきっちり捉え、社会としてなにをすべきか、本学になにができるか、真剣に考え、実行していくことになる。
貧困の子どもに限らず、経済的に問題のない家庭の子どもも食の自立に必要な力を身に付けることができているのか。子どもの食べたいものを大人が用意して食べる日常が繰り返されているとしたら、それでほんとうに子どもの食の自立ができるのか。常に問題意識をもって、子どもの食の自立に取り組みたい。

4


人と食べ物と社会の接点が給食。だから、アプローチの可能性も広がる
石原教授
いま、お年寄りや一人暮らしの家庭で利用が進み始めている配食サービスについても給食と捉えてよいのか。家庭のあり方も共働きなど多様になっていて、日々の食事も食材の宅配や出来合いのものの宅配の利用など様々な形態が想定される。給食が、従来のように一か所に集まって同じものを食べることだけではなく、個々の家庭に届けるタイプのものも含んでいくとすれば、学校だけではなく、社会全体にとって給食は意義深いもののように思う。

石田教授
届け先が個々の家庭でもあっても提供側は集団を対象に作っているので、給食の一形態と捉えることができる。一見個人対応のようにみえるが、宅配サービスは利用者に応じたいくつかのメニューを用意し、利用者側がその中から選択するという仕組み。そこで、利用者が適切に自分にあったものを選択できるかどうかが大きなポイントとなる。サービス提供者が、食事の提供にあわせて、利用者の適切な選択につながる情報の提供を行うことが必要。給食と捉え、専門職が関与することで、利用者の健康の維持・増進につなげる仕組みにしていくことができる。

5

大沼教授
―養護学はこれからの学問
養護に関しては、学会等において養護「学」としての学問体系の構築に着手しているところ。子どもの心身の健康の管理と教育を通じて発育・発達を支援する教育活動を支え、養護教諭の実践と理論を支える学問としての構築が求められている。私自身は、健康相談活動を支える学問領域に関心があり、その構築に取り組んでいる。
―子どもをめぐる社会問題にどう向き合うか
学校や子どもをめぐっては、いじめや不登校など様々な社会問題が生じているが、その根本にあるのが「不安」だと感じている。子どもも保護者も不安が大きい。そうした中、学校は様々な教育活動のための施設が整い、指導・支援する教職員が揃い、共に学びあう子どもたちがいる場所であり、社会の中で安全・安心が担保される場所である。そこで子どもたちの健康管理を行い、生涯にわたって健康な生活を送るために必要な力を身に付けていけるよう、専門職として子どもたちに個別と集団で関わるのが養護教諭である。
本学では1980年に養護教諭養成を開始してから、すでに1,500名を超える採用実績がある。養護教諭は、子どもの成長を第一に、学校現場や地域、社会で、健康に関する様々な調整役を担うプロフェッショナル。現代社会では、子どもをめぐる健康課題が複雑かつ多様化していてその解決は容易ではなく、養護教諭は、そうした課題やその背景をしっかり見極め対応していく力が求められる。
―実践を重視した養護学へ
本学の栄養学が、時代の変化にあわせて健康の保持・増進を図るための実践栄養学として発展してきたように、養護も養護学として、学校現場や日常生活で生かされ、子どもの健康を支えられるよう、理論の構築と実践の検証に取り組んでいきたい。養護の学問としての構築に貢献することは、実践を重視し栄養学に向き合い続ける本学の使命だと考えている。

石田教授
養護教諭のための養護学にとどまるのではなく、これからはさらに広く深い視野で学問領域を捉え、その中でここが強いのが本学という見せ方ができるのではないか。本学が、看護ではなく養護を選択し、今に至っているのは、子どものケアに力を入れたいから。子どもの成長にとって安全・安心な場としての学校はもちろん、地域や社会全体を視野に入れて、栄養学部として養護や保健の領域を充実させることで、実践栄養学の真価を発揮できると思う。

6



目の前のわかりやすさに惑わされない。事象を多角的にとらえ、その背景にある様々な要因、その先にある将来の姿を捉えて判断する姿勢を大切に
石原教授
食への興味・関心、好奇心を持てるモチベーションをつけられると、食の自立にもつながる。
そこにあるものを食べていればいいという感覚では、食の自立にはつながらない。
本来子どもは、興味・関心、好奇心のかたまりのはず。

大沼教授
子どもが選択して食べることのできる社会をどうつくっていけるか。学校給食でも実際に組合せを考えて選択する体験など自ら選ぶ場面を設けることも、自立を促すために重要。
他者から強いられたり禁止されたりというのではなく、自ら律して行動できる、一方で、自ら考え選択できる、この両方ができるように、少しずつ体験を増やしていく。

石田教授
選択力を身に付けることも重要だが、一方で、それぞれの成長のステージで、皆で同じものを食べるから、共感を通して学べることもある。味覚の体験でも、味の感じ方を共有することで、他者の好みを理解したり、自分の好みに気付いたりできる。一定の時間内で、準備し、食べることも学べる。成長の過程で獲得していく様々な能力が家庭では身に付かないからといって、すべてを学校給食に依存しても、解決にはならない。本来家庭でやれることさえも学校に委ねてしまうことのないよう、熟考が必要。
そういう点で、給食の無償化についても、払える人が払うことで給食全体の質を担保していく、払うからこそ必要なことを要求していくという捉え方や考え方もできるので、総合的な検討と判断が必要だと思う。無償になることで提供側にすべてが委ねられ、食べる側の関心が薄れ要望もなくなり、質が低下しても放置されたままという状況にならないよう、双方の責務と行動が健全に機能する関係性を保ちたい。

香川学長
無償化により行政主体の運用になれば、自治体によってはコスト削減が優先し、給食の質の低下を引き起こすケースが出てくるかもしれない。無償という一見すると全員に対してメリットがあるようにみえる方策が、将来的によりよい給食の実施に有益に働くのか、しっかり動向を見守りたいと思う。
社会の動きによって食のあり方も変化するので、目の前のわかりやすさだけで安易に判断され評価されることのないよう、私たちは、栄養学を通して、女子栄養大学として、求められる問いに対して適切に応え、また、私たち自身がそうした問いを自ら見つけ、適切に対応していくことのできる存在でありたい。

社会で起きているあらゆる事象に、食からのアプローチの可能性を常に探求する


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石原教授
長年生殖補助医療に携わってきた経験から、家庭以外の場での養育も含めて、社会のあり方を見てきた。日本では、出産した子どもを養育できない場合は乳児院に引き取られ、その後は児童福祉施設で暮らすことになる。諸外国では、養子縁組により、家庭での養育が困難な子どもたちの多くが新たな家庭を得て生活している。だが、日本では、親のもとで生活できない子ども(約4万2千人)のうち、その約8割が施設で暮らしている現状にある。
日本にも特別養子制度や里親制度があるが、制度自体ほとんど知られておらず、国際的にも制度面でかなり遅れている。家族という考え方への許容範囲が狭いことも背景にある。

石田教授
近年、児童福祉法の改正をはじめ、子ども関係の法律は子ども主体になってきている。部分的ではなく、あらゆる制度が子どもの健やかな成長と幸せを第一に考えたものでなくてはならない。

大沼教授
基盤となる社会構造が整っていくことで、養育環境が異なっても、子どもの食への楽しみ、多様な食の体験が守られことが必要。社会全体で子どもを育てるという認識をもって、自立につながる循環を生み出さなければならない。

石原教授
変わりにくい一番の問題は、多くの人が自分には関係ないと思っていることにあり、知らないままでいること。変わりにくいことも、食からであればアプローチできるかもしれない。食を突破口にしていく。誰でも食事はするわけだし、食に関わらない人はいない。

香川学長
変わらないままにしておくと、必ず課題は次に残っていく。それによって、不安や困難感が増してくる。現実に起きている事象に対峙するために、食を突破口にするという意識を常に持ち、食からのアプローチの可能性を探求して、本学ならではの教育研究に取り組んでいく。
それぞれ専門領域は異なっても、本学では、皆が子どもの幸せを最終ゴールにするという共通認識をもって取り組んでいきたい。子どもたけではなく、高齢者や障がい者、様々な状況にある人たち・・・の幸せを目標に取組みを進めたい。



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