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探求:研究キーワード⑥「ワンカーボン代謝」

学びと教育

探求:研究キーワード⑥「ワンカーボン代謝」

本学教員の研究キーワードは実に多彩です。その中から、まだみんなに知られていない、興味深いキーワードをピックアップしました。学生図書委員による教員インタビューで、研究キーワードを探究していきます。

今回のキーワードは、「ワンカーボン代謝」

「ワンカーボン代謝」について、学生図書委員が、庄司先生にお話を伺いました。

ワンカーボン代謝とはどのようなものでしょうか。

栄養素としては葉酸やビタミンB12、アミノ酸のメチオニンがメインで関わってくる代謝経路です。
代謝経路をみると下の図のように複雑にみえますが、炭素1個と水素3個からなるメチル基を代謝経路の中でつぎつぎに受け渡していくのがワンカーボン代謝(OCM:One Carbon Metabolism)と呼ばれるものです。

ワンカーボン代謝はどういうはたらきをしているのでしょうか。

ワンカーボン代謝は、私たちの遺伝情報を担う重要物質であるDNAの合成に関わっています。また、メチオニンをつくる前の物質であるホモシステインというアミノ酸の分解に関わっていて、これが体内で増えすぎると血管を傷つけてしまうので、動脈硬化につながります。
ホモシステインの分解には葉酸が関わっています。葉酸が不足するとホモシステインが体内にたまっていきます。お母さんのお腹の中にいる赤ちゃんの発育にも影響して、神経管閉鎖障害が起きるリスクを高めます。産まれてくる赤ちゃんの背中の脊髄が閉じないなど、神経管がうまく形成されない原因になってしまいます。
葉酸をしっかりとることで、健康に悪影響を及ぼすホモシステインが体内に多くたまっていくのを防ぐことができます。

ワンカーボン代謝は、体内のどこで行われているのですか。

体の中のどんな細胞でも行われています。すべての細胞の中でこういう反応が起きているといわれています。その中でも活発なのが肝臓です。

葉酸は、特に妊娠期の女性に摂取がすすめられていますが、どういう時期から気をつけてとるとよいのでしょうか。

葉酸は、サプリメントでとることが推奨されている唯一のビタミンです。とる時期については、妊娠がわかる前から、妊娠を意識するようになったらとってほしい栄養素です。これは葉酸の不足が、妊娠のごく早い時期、受精卵から器官が形成されていく段階での胎児の発育に影響するためです。

また、妊娠の時期以外にも重要な栄養素です。ホモシステインが増えると動脈硬化になりやすく、心筋梗塞や脳梗塞などの冠動脈疾患につながります。さらに、高齢になってくると、認知症やアルツハイマー病にも関わってきます。
すべてのライフステージの人でとり続けてほしい栄養素で、それに深くかかわってくるのがワンカーボン代謝です。

インタビューぷらす

目立たないけど重要な葉酸に、注目したい
ワンカーボン代謝は、アミノ酸とも関わっているし、脂肪酸とも関わっている、広がりのある代謝です。また、遺伝情報の違いによってホモシステインが下がりにくい人とそうでない人がいたり、食べている量が人によって違っていたり、いろいろな要因を考慮して全体をみていく必要のある奥深さとおもしろさがあります。

日本でも世界でも、葉酸は摂取不足が課題となっている栄養素の一つです。世界的には小麦粉やコメといった穀類に葉酸を添加して摂取量を確保する施策がとられていますが、日本ではそうした施策はとられていません。神経管閉鎖障害の発症率も海外では減少していますが、日本では減少していません。個人の努力だけでは必要量を確保しにくいので、日本でもそうした取組を期待する声もあります。本学のカフェテリアでは、ビタミンBや食物繊維など不足しがちな栄養素が豊富な胚芽精米に葉酸米をプラスして、提供しています。

本学では葉酸に注目した研究や実践に取り組んでいますが、社会的にはまだまだ注目されていない栄養素です。
赤ちゃんのために妊娠前から、そして大人になっても、高齢になってからも、すべての方々にとってほしい栄養素です。

女子栄養大学・女子栄養大学短期大学部は、2026年4月より共学化に伴い、日本栄養大学・日本栄養大学短期大学部に名称変更いたします。