アメリカの臨床検査技師認定機関であるAmerican Society for Clinical Pathology (ASCP)では2007より国家資格であるASCP international(以下、ASCP)の認証を開始し、2009年より日本でもその国家資格が受験可能となっています。ASCPには20以上の認定資格があり、このうちのASCP HT(Histology Technician)の資格を最近取得した本学の 臨床検査技師課程の卒業生の海外で働く姿をご紹介します。
卒業生のいま
2007年3月 栄養科学専攻 臨床検査技師課程 卒業
【海外で働く姿】米国の臨床検査技師の国際資格を取得した田中亜沙子さん
【お名前】
田中 亜沙子
【出身学科・専攻】
栄養学部保健栄養学科 栄養科学専攻 臨床検査技師課程(平成18年度卒業)
【現在の勤務先】
転職活動中(2023年までMemorial Sloan Kettering Cancer Center, Histology Core Facilityに勤務)
【勤務地】
アメリカ
1.現在のお仕事(業務内容)について教えてください。
私の業務は、日本の臨床検査技師検査部門で行われる病理組織検査に相当するもので、研究者向けに提供しています。主な業務内容には、治験や研究のためのパラフィンブロックの薄切、凍結組織切片の薄切、研究用実験マウス組織のパラフィンブロックの作成および薄切、HE染色、研究用セルブロックの作成、TMA(Tissue Microarrays)ブロックの作成が含まれます。その他にも、免疫組織化学染色やFISH(蛍光 in situ ハイブリダイゼーション)などの業務も行っています。
2.なぜInternational ASCP HTを取得しようと思ったのですか?
当時勤務していたHistology Core Facilityでは、American Society for Clinical Pathology Histology Technician(以下ASCP HT)の資格は必要ありませんでした。しかし、今後、臨床病理組織検査を担当する検査室(臨床部門、研究部門に関わらず)で働く際に、この資格がほぼ必須であることを知り、受験を決意しました。
日本においては、臨床検査技師の国家資格を取得することで各検査室での臨床業務が許可されていると思いますが、アメリカではASCPが発行する認定資格がこれに相当します。研究分野では法律上必須ではないものの、この認定資格を取得していると就職活動の際に大いに有利となり、給与も(アメリカの臨床部門で勤務する場合は年間10万ドル以上など)大幅に異なります。
また、いくつかの州(ニューヨーク州やフロリダ州など)では、州独自のClinical LaboratoryやHistology Technicianの資格取得も必要となり、さらに複雑な状況です。いずれにせよ、これらの資格を持っていないと、職に応募すること自体ができないため、資格取得は必須となっています。
3.女子栄養大学にいた時はどんな学生でしたか?
女子栄養大学に在籍していた当時、私はごく普通の学生でした。卒業後の将来像は漠然としており、病院に就職できればという程度のものでした。この大学を選んだ理由は、栄養士資格と臨床検査技師の受験資格の両方を取得できることにメリットを感じていたためです。そのため、当時の私はどちらの資格を活かして就職するかについて、はっきりとした目標は持っていませんでした。
もともと食に興味があったため、1年次と2年次は栄養士に関連する科目が多く、とても楽しく過ごすことができました。しかし、学年が上がるにつれて臨床検査技師課程の科目が増え、苦手意識を持つ科目も出てきましたが、病理組織に関する授業には非常に興味を引かれました。
栄養士科目と臨床検査技師課程の両方の病院実習を経験した結果、私は臨床検査技師として働くことを決意しました。卒業後、都内の病院に就職し、希望の病理検査室に配属され、細胞検査士の資格も取得して約10年間勤務しました。
4.海外で働くことと、日本で働くことの違いを教えてください。
アメリカでは、就業時間が非常に厳密に定められており、労働者はその時間内で効率的に働くことが求められます。一般的に残業は年間に数回程度しか発生せず、サービス残業は一切行われません。もし残業が必要な場合には、必ずその分の賃金が支払われる仕組みが徹底されています。これにより、従業員は労働時間に対する対価を正当に受け取ることができ、仕事とプライベートのバランスを保ちやすい環境が整っています。
さらに、アメリカの職場では、各従業員の役割や責任が明確に定められており、仕事において曖昧さがないようになっています。従業員は、自分に依頼されたことのみを実施し、余計な作業を勝手に引き受けることはほとんどありません。このようなシステムにより、業務の効率化が図られ、全体の生産性が向上しています。
仕事の質に関しては、効率が重視されるため、必ずしも高い品質が求められるわけではありません。しかし、その一方で、自分が行った仕事については厳密に評価が行われます。この評価は定期的に実施され、結果は個々のサラリーに反映されます。つまり、成果を上げた従業員はその努力に応じた報酬を受け取ることができるため、モチベーションを維持しやすい環境が整っています。従業員は自分の仕事に対する評価を受け、それが正当に報酬に反映されることで、仕事に対する満足感を得ることができるのです。
5.栄大の後輩へのメッセージ
人生には、どんな転機が訪れるかわかりません。だからこそ、取れる資格や英語の準備はできるだけ早めに取得しておくことが大切だと思います。将来の選択肢を広げるためには、準備を怠らないことが重要です。私自身、夫の留学がなければアメリカで働くとは少しも思っていませんでした。そのため、日本にいる間に取得可能な海外の資格、例えばInternational ASCPや国際細胞検査士などを持っておらず、アメリカで働く際に苦労することになりました。事前にこれらの資格を取得していれば、もっとスムーズに新しい環境に適応できたのではないかと後悔しています。
もし、これから海外での仕事や生活を少しでも考えている方がいれば、ぜひ日本にいるうちに取得可能な資格を早めに取得し、英語の勉強も並行して進めることをお勧めします。準備が整っていれば、いざという時に迅速に対応でき、新しい環境でも自信を持って挑戦することができるでしょう。