JOURNAL KAGAWA ヨクシル
【第7回】『食』から子供のSOSに気づく

学びと教育

【第7回】『食』から子供のSOSに気づく

子どもや若者の心の不調は、どのように気づけるでしょうか。「元気がない」「学校に行きたがらない」「眠れない」といった変化であれば、周囲も異変を感じます。しかし、心の苦しみは、分かりやすい形で表れるとは限りません。なかでも摂食症(旧:摂食障害)は、外からは見えにくく、本人が周囲に打ち明けない疾患の一つです。食べること、体重、体型への強いこだわりの背景には、言葉にしにくい不安や自己否定感、孤立感が潜んでいることがあります。

摂食症というと著しくやせる「神経性やせ症」を思い浮かべがちです。しかし、摂食症には「神経性過食症」や「むちゃ食い症」も含まれます。これらは外見上やせて見えないことも多く、体型や体重だけで「問題はない」と見過ごされやすいです。本人も過食や嘔吐、下剤使用などを隠したい思いが強く、発見が遅れ深刻化している場合があります。近年、日本では子供の自殺者数の増加が大きな課題です。警察庁の統計では、令和7年の小中高生の自殺者数は538人で、統計のある1980年以降で最多となりました。自殺の背景は一つではなく、家庭、学校、友人関係、健康問題、進路不安などが複雑に絡み合います。その中で、摂食症や摂食行動の乱れは、見逃してはならない重要なサインの一つです。摂食症のある人は、そうでない人に比べて自殺で亡くなるリスクが高く、神経性やせ症では約18倍、神経性過食症では約7倍とする報告があります。

現在、国は「心の健康観察」を推進し、いじめ、不登校、自殺リスクなどの早期把握につなげようとしています。一方で、朝の健康観察を紙媒体で行う学校が多く、情報の集計や共有には時間がかかります。そこで私たちの研究では、心身の健康観察アプリを開発し、小、中、高等学校で実施しました。子供たちは毎朝、体調や気分を自分の端末から短時間で入力し、教員は集計結果から、いつもと違う不調や心配な変化をすぐに把握できます。

実施後には、児童生徒から「自分の体に関心を持つようになった」「先生に相談しやすくなった」という評価も得られました。健康観察は、不調の発見だけでなく、子供自身が心と体に目を向け、必要なときに助けを求める力を育てる健康教育でもあります。もちろん、アプリを導入すれば全てが解決するわけではありません。大切なのは、入力情報をどう読み取り、どのように声をかけ、必要な支援につなげるかです。そこに養護教諭(保健室の先生)の専門性が生きます。養護教諭は、身体症状と心理的背景の両方を見つめ、担任、スクールカウンセラー、保護者、医療機関をつなぐ要の役割を担っています。

日本栄養大学では、こうした時代の課題に対応できる養護教諭の養成に取り組んでいます。摂食症や子供の自殺予防は、医療だけでなく学校保健の重要な課題です。子供が「助けて」と言える学校をつくることは、子供たちの希望を育み日本の未来を明るくしていくと考えます。

遠藤伸子 教授

女子栄養大学卒。女子栄養大学大学院栄養学研究科修了。博士(保健学)。2003年より女子栄養大学にて養護教諭養成に従事。専門は学校保健学、日本養護教諭養成大学協議会会長、日本養護教諭関係団体連絡会会長