JOURNAL KAGAWA ヨクシル
【第4回】魚の食品としての価値

学びと教育

【第4回】魚の食品としての価値

最近、魚を食べる機会は減っていないでしょうか。魚は私たち日本人の食生活を支えてきた重要な食品であり、良質なタンパク質に加え、EPAやDHAといった脂質成分を豊富に含む栄養源です。栄養学では、これらの成分が体の中でどのように消化吸収され、どのような働きをするのかが研究されてきました。栄養は、食品として食べられてはじめて意味を持つものでもあります。

日本では近年、価格高騰や調理の手間など様々な理由から魚の消費量が減少傾向にあります。その一方で、未利用資源として廃棄される魚がいるほか、可食部以外として扱われる部位も多く、食品加工の過程で皮や鰭、頭などは利用されない現状があります。これらにも栄養素はたくさん含まれていますが、食品として扱いにくいという理由から、十分に活かされてこなかった側面があります。魚を食べる機会が減る中で、未利用部分の価値をどのように捉えなおすかが課題となっています。

こうした点に向き合う上で重要なのは、栄養学の知識だけでなく、食品としての加工や利用の可能性を見極める視点です。例えば海に面していない埼玉県のような地域においても、流通や加工を通じて魚を対象とし、その価値を科学的に検討する研究を、私たちの研究室で行っています。魚を「獲る場所」だけでなく、「加工・利用の過程」から捉える視点は、今後、より重要性を増すと考えられます。ここに栄養学と食品学が重なり合う大切な領域があります。

魚に多く含まれるタンパク質は、食後体内で分解され、アミノ酸やペプチド(タンパク質が細かく分解されたもの)として吸収されます。近年、特定のペプチドが血圧の上昇を抑えたり、体の調子を整えたりするなど、生理的な機能をもつことが分かってきました。ただし、魚を食べたときの働きは成分そのものだけで決まるわけではなく、食品の加工過程によっても変化します。食品中のペプチドの種類は、原料や加工方法によって異なり、その違いが体への働きに影響することがあります。

食品学は栄養や機能の働きに目を向けながら、それを食品としてどのように活かすかを考える学問です。栄養素が含まれているだけでは、それが必ずしも食品として役立つとは限りません。魚の皮のように未利用とされてきた部位も、適切な加工によってコラーゲンやペプチドの供給源となり得ます。食べやすさやおいしさ、安全性などといった条件を満たしてこそ、食品として人の健康につながるものです。

魚は、栄養学と食品学を理解するためのよい題材です。栄養成分が豊富で、加工による変化も大きく、未だ十分に活用されていない部分も多くあります。魚をめぐる課題と可能性を探究する中で、栄養を知ることと食品として活かすことが切り離せない関係にあることが見えてきます。

西塔正孝 教授

東京水産大学大学院 水産学研究科修了。 博士(水産学)。女子栄養短期大学助手などを経て現職。特に食と健康の関連分野を対象に、食品成分の特性解析や素材研究を基盤として、食品開発や品質評価に取り組んでいる。