女子栄養大学の複数の研究室は、埼玉県坂戸市と協働で、平成19年度から坂戸「食育」プログラム(以下、食育プログラム)を開始し、市内全小・中学校での食育推進に取り組んでいます。
小・中学生の頃に、この食育プログラムを学習したか、しなかったか、により青年期の健康・食生活に違いがあるかを検討しました。

栄養イノベーション専攻
栄養教育学基礎研究室
松下 佳代 准教授
小・中学生の時に食育プログラムを学習した20歳青年の健康・食生活は?
食育プログラムは・・・
食育プログラムの全体のねらいは、「望ましい食習慣を身に付け、心身ともに健康な児童・生徒を育成する」ことで、このねらいを達成するために、
①充実した朝食をとろう
②健康を考え、バランスの良い食事をとろう
③みんなで楽しく食事をしよう、
の3つの具体目標を掲げています。
学習者は、小学4年生から中学2年生までの市内全児童生徒。道徳、家庭科、学級活動、体育科(保健)の教科等を用いて全13時間から成る食育プログラムです。
学習内容は、現場の小・中学校教諭が中心に考案し、オリジナルキャラクター「さかどん」の活用(図1)、食事バランスガイドや料理カードを用いた料理レベルでの食事バランスの学習、間食マッピング(PCソフトウエア)や食品カード等独自の教材を使って“楽しく”学ぶ工夫などの特徴があります。
4年生から中学2年生まで学ぶ食育のスタートは、間食のとりかたを振り返り、考える学習です。児童自身が食べた1週間の間食を「間食しらべ」に記録し、それを見ながら各自の端末に間食アイコンを「間食マッピング」の画面に貼りつけます。すると、どの時間帯に間食をとる傾向があるのか、1日あたりの平均摂取量(エネルギーや塩分など)などの結果や、その内容をふまえたメッセージが表示されます。結果は、児童自身が今後の間食のとりかたを考えるツールとなるほか、各家庭への配布教材としても活用されています。

結果は・・・
データを確認すると、興味深い結果が見えてきました!20歳女性において、食育プログラムを学習した学習群は、学習していない非学習群に比べて、主観的健康感が高く(図2)、「健康のことを考えて食事をすること」の重要性(図3)、「『バランスのよい朝食』を食べること」の重要性(図4)、「健康や身体によい食事をもっと知りたい」者が多い、の3つの食態度が良好であることが分かりました。一方、20歳男性では健康・食生活が良好であるという一定の結果は得られませんでした。
図2 主観的健康感(女子)
図3 「健康のことを考えて食事をすること」の重要性(女子)
図4 「『バランスのよい朝食』を食べること」の重要性(女子)
今後は・・・
小・中学校における食育プログラムの青年期の健康・食生活への効果に言及するためには、健康・食生活の食育前後の変化量が2群で異なるかの検証が必要です。今後は、小・中学生の頃の健康・食生活と20歳時の健康・食生活の変化を検討し、食育プログラムの効果検証をすすめます。
先生からヒトコト

▲松下 佳代
子どもから高齢者まで、それぞれに人にとっての生活の質の向上をめざす食育。新しいアイディアで楽しい食育プログラムの開発、教材作成など一緒に取り組んでみませんか。
参考文献
衞藤久美,中西明美,松下佳代,藤倉純子,田中久子,香川明夫,武見ゆかり:坂戸市出身20歳青年の健康・食生活~坂戸「食育」プログラム学習群と非学習群の比較~,女子栄養大学紀要,29-39(2018)