JOURNAL KAGAWA ヨクシル
「なにを」だけでなく、「いつ」食べるかも大事

栄養イノベーション専攻

栄養科学研究所
平石 さゆり 専任講師

「なにを」だけでなく、「いつ」食べるかも大事

末梢時計は食事の影響を受ける

 地球上の多くの生物には約24時間周期の概日リズムが備わっており、睡眠、体温、ホルモン分泌などの生理現象が24時間周期で変動しています。概日リズムは、全身の細胞に存在する複数の時計遺伝子から合成される時計タンパク質が24時間周期で増減し、この概日リズム信号を様々な遺伝子へ送っていることによって形作られています。

 全身の細胞がそれぞれ勝手な時刻を刻んでいる訳ではありません。脳に存在する中枢時計は、太陽の光刺激によって24時間周期の位相をリセット、つまり時計の針を合わせています。また、心臓、消化管、筋肉などの臓器や組織には末梢時計が存在しており、中枢時計からの指令を受けて時計合わせをしています。一方、末梢時計は食事摂取によっても時計合わせをすることができます。つまり、朝日を浴びるだけでなく朝食を摂ることが、全身の時計合わせには大事になります(図1)。

朝食を摂らないことで身体の不調に

 朝食を摂らず、夜食の生活を送っていると、中枢の時計遺伝子のリズムと、末梢組織の時計遺伝子のリズムが同調しなくなることによって、身体の不調、強いては肥満、生活習慣病、がんなどの様々な疾患を発症・悪化させると考えられています。

 血栓症から起こる脳梗塞は、早朝に多く発症することが知られています。実験動物のマウスの朝食を欠食させ夜食摂食状態にすると、末梢組織の時計遺伝子の概日リズムが乱れ、血栓形成を阻害するトロンボモジュリンというタンパク質の概日リズムが変化して、早朝時に高かったトロンボモジュリン量が低くなります。その結果早朝時に血栓が生じやすくなって、脳梗塞発症のリスクを高める一因となる可能性が示唆されています(図2)。

 このように、なにをどのくらい食べるかだけでなく、「いつ」食べるかも健康を維持するために大切なことになります。朝、カーテンを開けて朝日を浴び、朝食を摂り、生体リズムを整えましょう!

図2 摂食時間帯の違いによるマウス肺の血栓形成阻害因子トロンボモジュリンと時計遺伝子Per 2発現の変化
Takeda N. et. al.  J. Bol. Chem. 282 . 32561–32567(2007)を 改変

先生からヒトコト

▲平石 さゆり 先生

▲平石 さゆり 先生

いつどのような食事をすれば、健康でいられるかを探求する学問を「時間栄養学」といいます。まだ謎が多い時間栄養学の研究を、一緒にしてみませんか。