令和2年度 食文化栄養学実習

宮内正ゼミ■文化学研究室


行事食の新しい顔
「買うもの」から「提供するもの」へ


 日本には古くから伝わる行事食が数多くあります。お節料理や七草粥など、そのどれもが地域の伝統的な食文化に根差しています。しかし、その行事食がいまやこれまでにはない様々な「新しい顔」をもつようになっています。中間報告では、「作るもの」から「買うもの」への変化を取り上げました。今回は、「買うもの」としての行事食のいくつかのパターン、さらには「提供するもの」としての行事食について考えます。たとえば1月15日の小正月に家族の健康を願って食べる「小豆粥(あずきがゆ)」という行事食は、名前そのものは知られていても、実際に食べられているかどうかはそれぞれの地域によって大きな差があるようです。行事食とは本来、こうした地域的な違いがあるものです。ところが、最近とかく話題になる「恵方巻」はこれとはずいぶん異なります。1980年代から1990年代にかけて、コンビニやスーパーなどの業界を中心とした販売促進キャンペーンによって、当初はおもに大阪で見られた食習慣が、一気に全国へと普及したのです。こうした全国への広がり方は、もともと欧米の行事であったクリスマス、ハロウィーン、バレンタインなどが、その食習慣とともに、日本に輸入され、核家族の年中行事として、あるいは、カップルや若者のイベントとして、都市部の中間層から全国各地へと広がっていったその広がり方とよく似ています。「買うもの」としての行事食のひとつのあり方といえるでしょう。家族の健康を願って「作る行事食」から、季節を感じるために「買う行事食」へと変化し、さらには高齢者施設などで、昔の思い出を懐かしむために「提供される行事食」というあり方にも注目したい。このように、行事食は、時代や社会状況の変化に応じて、その役割や意味が変化しつつあることがわかりました。