令和2年度 食文化栄養学実習

平野覚堂ゼミ■ビジュアル・コミュニケーション研究室


手塚治虫の性食
─漫画から読み解く食の可能性─


 漫画の神様とも呼ばれており、「鉄腕アトム」や「ジャングル大帝」などの国民的人気漫画から、黒手塚と呼ばれるショッキングな内容の多い「奇子」や「ばるぼら」など、数々の人気作品を手掛けた手塚治虫。手塚治虫作品では可愛らしい描写が多い印象だが、その反面、性的な描写も多い。「命・性・愛」をモチーフにした作品が多いとされ、それらの多様な在り方を表現している。漫画における性描写は低俗なものとして扱われることが多いが、手塚治虫の描くエロティシズムは決して低俗なものではない。手塚治虫は性を低俗なものとして捉えず、エロティシズムを自分の漫画の魅力の一部として取り入れていた。手塚治虫の描くエロティシズムは、私たちにとって身近でとても神秘的なものであり、命の根源であり、命の変容していく様を表現しているのである。五感は『感じる』ために人間の外側に向いている感覚であり、本来人間や動物が環境の変化に対する生体防衛のための感覚系である。漫画から読み解く手塚治虫のエロティシズムを通して、五感で感じる『性』と『食』をフードアートという形で表現していく。
 視覚やグラフィックだけでは伝えることができない、感覚的なものや目に見えないようなデザインを表現することができる素材が『食』であると私は考えている。『味わう』という表現方法は食にしかできない表現方法であり、その複雑さはもはや芸術とも言えるのではないだろうか。表現手段としての『食』の最大の魅力は『食べられること』であると私は考えている。食は五感で表現し、受け取り手も五感で感じることが可能であり、また体内に入れることができる。内臓まで届いて、その人の肉体や思考の一部になるという点では、究極の表現方法だと言える。そのため私は実際に食べられる料理でフードアート作品を作成し、手塚治虫作品の描くエロティシズムを食で表現する。