令和2年度 食文化栄養学実習

向後千里ゼミ■特任教授


富士太々神楽の食事から見る日本の食文化
〜御師料理の保存と継承〜


 「いただきます」という言葉に代表される日本独自の食に感謝する気持ちや、食事の場におけるコミュニケーションを大切にするべきではないかと考えた。きっかけは、御師料理である。御師料理というのは、御師町に住み、富士山参詣者の宿泊や食事の世話をはじめ、神職者として集落の神事や行事を長年支えてきた御師の方々によって形成されたものである。富士山は、日本国内はもちろん、海外でも日本の象徴として広く知られている山だ。古くから信仰の対象として、人々は富士山に畏敬の念を抱き、崇拝してきた。山梨県富士吉田市は、そんな富士山の麓にある。そしてそこには、室町時代から続く御師町が今も大切に残されており、富士山信仰を中心とした年中行事や、富士山に育まれた自然観、生活観による独自の文化が存在する。その中で私が着目したのが、富士太々神楽奉納の際の食事である。現在の日本は世界的に見ても食が豊かな国である一方で、食品ロスや個食など、食生活の変化に伴って生まれた問題を数多く抱えている。今こそ、一度日本の食の原点を見直すべきではないか。
 御師料理は、神に感謝し、神人共食を行うことが基底にあるため、神事における神饌や直会として用意される食事も特徴の一つとして挙げられる。富士太々神楽奉納の際も直会が行われ、日本料理の原型ともいわれる本膳形式の食事とともに、神人共食が行われてきた歴史がある。この食事に関する記録には、現在ではあまり使われていない儀礼や料理の名称、食材名が並んでいる。それらの言葉について文献調査を深め、内容を少しでも明らかにし、日本の食文化を見つめ直す。方法としては富士吉田市の日常食や行事食との比較と、他地域の太々神楽との比較を行う予定だ。そして、食へ感謝する気持ちも含めた生活文化の継承を考え、今後の地域支援に繋げたいと考えている。