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令和8年1月24日(土)14時より、香友会主催・令和7年度第4回「専門家講座」をオンラインにて開催されました。講師の中嶋康博先生は、2025年4月より女子栄養大学教授に就任され、前職は東京大学大学院農学生命科学研究科教授、また国の農業政策に関わる多数の委員を歴任されている第一人者です。
本講座では、「なぜ米の価格はこれほどまでに高騰したのか」「今後、政府はどのような対応を進めていくのか」といった、社会的関心の高いテーマについて、最新のデータと政策動向を交えながら、分かりやすく解説していただきました。なお、講座の様子は後日オンデマンド配信もおこなわれました。

中嶋 康博 先生
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米は、野菜や畜産物のように年間を通して複数回生産できるものではなく、基本的に年1回の収穫で1年分を供給する作物です。そのため、出来秋の生産量と在庫水準が、その年の価格をほぼ左右します。
ところが、2022~2024年の3年間、主食用米(家庭・外食向け)の需要が生産量を上回る状況が続きました。これほど急激に価格上昇が見られたのは、過去に例のない事態です。
2023年産米では、消費が想定以上に伸びた一方、供給が追いつかず、端境期(新米が出回る前)の在庫が大幅に減少しました。
在庫不足への不安が広がると、卸売業者や小売業者による囲い込みが発生し、産地では買付競争が激化しました。その結果、JAと大手卸売業者の間で行われる相対取引価格が急騰し、続いて大手卸から中小卸業者の間で行われる仲間取引価格も上昇、最終的に小売価格へと波及していきました。
2024年8月、南海トラフ地震に関する臨時情報が発表されると、家庭での買いだめが発生しました。一度棚から米が消えると、「今後手に入らなくなるかもしれない」という不安が連鎖し、価格が上がっても需要が落ちない異常な状況が続きました。
かつては、JAを中心とした集荷・流通体制が需給調整の役割を担っていました。しかし近年は、JAを通さずに直接販売する農業法人が増え、流通構造は分散化しています。その結果、わずかな供給不足でも価格が大きく変動しやすい市場構造となっています。
今回の米価高騰は、日本の食料安全保障の脆弱さを浮き彫りにしました。日本のカロリーベース食料自給率は38%と、依然として低水準にあります。少し高そうに思われる畜産物についても、飼料の多くを輸入に依存しています。
この現状を踏まえ、政府は「食料・農業・農村基本法」を初めて改正し、平常時から非常時まで切れ目なく食料を守るという新たな方針を打ち出しました。
価格は単なる数字ではなく、「足りない」「不安だ」という社会の声が反映された結果です。「米の価格が下がればよい」という視点だけでなく、国内生産の維持、輸入とのバランス、食品へのアクセス(店舗まで500m以上かつ自動車利用が困難な65歳以上高齢者をアクセス困難人口と言うなど)といった、食料システム全体を捉える視点の重要性を学びました。
国民一人ひとりが食料安全保障の担い手であるという意識を持ち、合理的な価格形成のために、消費者としての役割も考えていく必要があることを、改めて認識する機会となりました。
取材・報告/香友会広報部