香友会主催講座・講習会
令和5年度第2回「専門家講座」開催報告

テーマ:
オーラルフレイルに陥らない!
「食べること」を通した健康維持に栄養と食の専門家に期待すること
~歯科医師の立場から~

講 師:齋藤 真由 先生
(地方独立行政法人東京都立病院機構 東京都立荏原病院 歯科口腔外科歯科医師・栄養士)

講演画像  令和5年度第2回専門家講座が、令和5年8月20日(日)14時より、オンラインライブ配信で開催され、後日オンデマンドでも配信されました。講師の齋藤 真由先生は、平成6年女子栄養短期大学卒業後、昭和大学歯学部に進学、一貫して食生活支援を追究されています。現在は、都立荏原病院 歯科口腔外科 摂食嚥下支援センター口腔・嚥下ケアチームのチームリーダーとしてご活躍中です。
 ご講演では、テーマに沿って、口から食べることの大切さ、口腔と全身の関係などわかりやすく解説してくださいました。

 人は人らしく過ごすことが最も正常に機能するようにできています。口腔機能・腸のはたらき・廃用予防・コミュニケーションの面からも「口から食べる」ことが必要です。
 噛めない・喋れないオーラルフレイル(口腔機能低下症)の予防のためには、歯のケアだけでなく口と喉を動かす筋肉も非常に重要で、きちんと嚙んで食べ、人とおしゃべりすることが大切です。
 また、よく噛んでしっかり食べるには全身運動が重要となります。筋力維持に負荷が必要で、起立運動やつま先立ちなどの「少し疲れるくらい」の筋トレを毎日続けること。元気な時からの体づくり。歩ける人は食べられます。
 低栄養とは、生きるために必要な栄養素が摂れていない状態です。健康回復の土台は栄養。栄養が良ければ回復しますが、栄養素の数字合わせで終わらせるのではなく、おいしいことが大前提です。「食事を他人ごとにしない」ことが鉄則。食べる意欲を引き出すおいしい食事を提供・提案することが食のプロには求められます。
 個人に合わせた食の提案として、全身的なアドバイス(できることを見つけてのばす、生活目線で考える、栄養素の指導にならない、無理なら最低限のポイントだけ)をおこない、さらに、自分で調理ができれば、栄養・季節・嗜好・彩りなどあらゆる面から提案ができます。そして必要に応じて入れ歯などの局所的なアドバイスをおこないます。
 食べる機能の障害がおこる理由は、口の機能に合わない食事が考えられます。幼児期での口の機能に合わない食事は、よく噛まない・丸のみ・飲み込むまで時間がかかる・偏食などを引き起こします。幼児期の咀嚼嚥下機能の習得が、高齢期のいつまでもおいしく食べられる動作につながるのです。

 最後に「栄養と食の専門家に期待すること」として。

 食を通した健康を考える場合、食事や栄養のアドバイスは食のプロとして「人が食べること」という広い視野で健康を支えて、楽しい食事にすることが何よりも重要です。鍵となるのは「観察力」と「発想力」。対象者の食べる動作、歩き方等しっかり観察し、課題や背景を推測します。広い視野で全体を把握する。食を他人ごとにしない。共感しながら本音を引き出し、できることを提案する。理想に近づけつつスモールステップの改善案を提示する。
 必要な栄養素を食事に翻訳して提案できるのは、栄養と食の専門家だけです。その上で、栄養素の数値だけにとらわれず、楽しく美味しい食から健康を支えられる専門家が増えることを期待しています。その人の食べる状態に合わせた食形態の提案や食支援をおこなってほしい。「栄養」だけでなく、社会生活や身体活動を含めた広い視野で「健康」を支え、「楽しい食」とすることを食と栄養の専門家に期待しています。

 盛りだくさんの内容でしたが、広い視野を持ち、対象者の全体像を捉えて「おいしく・楽しく・食べて健康」を支えることの大切さが深く心に刻まれました。


 〔取材 香友会広報部〕