香友会主催講座・講習会
令和5年度第1回「専門家講座」開催報告

テーマ:行動変容ステージに応じた食生活支援とは
講 師:林  芙美   先生(女子栄養大学准教授 米国登録栄養士・医学博士)

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 令和5年7月30日(日)10時より、令和5年度第1回専門家講座がオンラインにて開催され、後日オンデマンドでも配信されました。

 テーマは「行動変容ステージに応じた食生活支援とは」。2024年より、第4期特定健診・特定保健指導が開始され、アウトカム評価の導入をはじめとした成果重視の指導が行われるようになります。対象者の特性に応じた質の高い保健指導が求められます。講演では対象者の行動変容のためのアプローチ方法について、講師の女子栄養大学准教授  林 芙美先生にお話いただきました。

 はじめに、変更となるポイント、アウトカム評価の導入についてお話いただきました。特定保健指導では、対象者自身が自分の健康に関するセルフケア(自己管理)ができるようになることを目的としています。改定では達成目標「腹囲2cm、体重2kg減」となっており、達成した場合に保健指導完了の180ポイントが付与されます。また、達していない場合にも、生活習慣予防につながる行動変容や、腹囲1cm、体重1kg減も成果として評価されます。プロセスについても評価され、180ポイント以上の支援を実施することで特定保健指導終了となります。このような成果をだすためには、初期面接において、対象者自身で具体的な目標設定ができることが重要で、その関わり方が大切となります。

 まず、「食行動変容のためのアプローチ」には、4つのステップがあります。ステップ1から3までは初回面接で行うべきことで、具体的にお話いただきました。

 ステップ1は、準備性や問題行動を明確にすることで、健診結果の受け止め方や食・生活改善への意欲、現在の食・生活上の努力や取り組みを確認します。その結果から対象者がどの行動変容ステージにあるのかにより、行動変容を促す支援のポイントが異なります。関心が低い人は自分自身で問題に気づくことが大切です。関心がある人には、メリットを実感し、デメリットを減らし、出来ていることに注目させるような支援を。準備が整っている人には、目標を設定し、目標実行の宣言をしてもらいます。行動目標を実行する直前の人には具体的な情報を提供します。そして自身で目標達成度を記録してもらいます。食生活習慣に関しては、「動機付け支援」「積極的支援」に必要な食生活に関する詳細な質問を実施します。

 ステップ2は、行動ときっかけ(刺激)との関係を分析することです。どんなときに、何をきっかけにして起こるのか。その結果、どのように感じるのか。周りの反応はどうなのか。きっかけとなる根本の原因をとらえ、その原因に対して働きかけます。

 ステップ3では、行動目標を設定し、実行に移します。何をしたら効果が出そうか。実行出来そうか。効果が期待できる無理のない目標か。実現するために必要な具体的な行動を確認します。それには対象者のレベルに応じた栄養素、食品や食材料、料理や食事、さらに食行動に関する情報提供などが必要です。

 ステップ4としては、結果とプロセスを確認しながら、続けることが重要です。自分で変化を実感できているか。決めた目標以外に自分なりの工夫があるか。誘惑や障害への対策ができているか。取り組みを肯定的にとらえているか。利用可能な社会資源や媒体を紹介し、健康行動を促進していくことが食行動変容へのアプローチとなります。

 そして、準備性の低い対象に向けたアプローチ法(動機付け面接を活用した食生活支援)について、具体的に紹介いただきました。一つは動機付け面接です。動機付け面接とは、クライアントの内側に存在し、支援者はクライアントがそれに気づくように支援する。矛盾への気づきを引き出す。聞き返して探っていく方法です。プロセスとして「関わる」「フォーカスする」「引き出す」「計画する」。クライアントが、望ましい変化の方向に向かう発言「チェンジトーク」を強化できるようにしていくことです。さらに中心的な技法として、「開かれた質問をする」「是認する」「繰り返しの傾聴」「要約」ができようにしていくことが大切となります。反対に、「説得する」「論じる」「教える」「警告する」という発言や行動は対象者の抵抗を増やす行動となってしまいます。支援者が技術をしっかり身につけていくことが必要なのです。

 もう一つのアプローチ方法は、ナッジを活用した食生活支援です。ナッジは選択を禁じることもなく、経済的なインセンティブを大きく変えることもなく、人々の行動を予測可能な方法で変える選択設計のあらゆる要素と定義されています。思考のシステムは、直感のシステムと理性のシステムが働きます。この直感のシステムは無意識の行動に働きかけ、支援の仕組みを変えてしまいます。選択肢を絞ってしまったり、不健康な行動を不便にしたりします。理性のシステムは情報提供の仕方を変えます。簡単で、わかりやすい、なんだかおもしろそう。このままだとまずいかもと思ってしまう、意識や感情に働きかけていきます。どのようなナッジをデザインしていくのかが大切になります。ナッジの枠組みの一つとして「簡単easy」「魅力的attractive」「社会的にsocial」「タイミングtimely」でチェックしていくことがあります。その他ナッジを上手に活用して様々な仕掛けを考える。媒体作りもターゲットを明確にし、ポイントを絞って作成していくなど、ナッジや行動経済学を活用した食生活支援の重要性を丁寧に紹介いただきました。

 対象者の指導において、成果をあげるためは、しっかりした「栄養アセスメント」の実施。そして対象者のチェンジトークを引き出すための「動機付け面接」の大切さや無意識の行動にアプローチするための「ナッジの活用」が重要で不可欠な要素であると学びました。先生の厚生労働科学研究費補助金の研究成果をもとにした「ナッジを応用した健康づくりガイドブック」や他の書籍の紹介もしていただきました。素晴らしい書籍を参考に、さらに学びを深め、管理栄養士としてアウトカム評価の導入における成果を上げられるよう、努力してきたいと強く感じる講演でした。

 〔取材 香友会広報部〕