香友会主催講座・講習会
2019年度第4回「専門家講座」開催報告

テーマ:食とSDGs(持続可能な開発目標)について考える
                〜食の専門家が知っておきたい基礎知識〜

講 師:井元 りえ(女子栄養大学教授)
講 師:加藤かおり(パルシステム生活協同組合連合会 広報本部商品企画部部長)

講師画像

井元りえ先生

講師画像

加藤かおり氏

 

 

 

 

 

 

 



 2020年(令和2年)2月15日(土)13時より、女子栄養大学駒込校舎において、「食とSDGs(持続可能な開発目標)について考える~食の専門家が知っておきたい基礎講座~」をテーマに、第4回専門家講座が開催されました。

 第1部では女子栄養大学教授、井元りえ先生が「食でつくる持続可能な社会」と題してSDGs(エスディージーズ)の概要を解説しました。

●SDGsは国連の開発目標

 SDGsは2015年9月に国連で採択された「我々の世界を変革する持続可能な開発のための2030アジェンダ(行動計画)」で、17の目標と169のターゲットからなる持続可能な開発目標のことです。目標には「飢餓をゼロに」「すべての人に健康と福祉を」「貧困をなくそう」「ジェンダー平等を実現しよう」「平和と公正をすべての人に」などのテーマが掲げられています。日本では2016年に推進本部の設置、実施指針の策定が行われました。日本の達成度は162カ国中15位です。
一見、食や健康とは関連しないと思われる目標もありますが、環境学者のヨハン・ロックストーム氏は「食物はすべてのSDGsに結びついている」との見解を示しています。

●LCAの視点からSDGsを考える

 原材料の取得から生産、輸送、消費、廃棄に至るまで資源とエネルギーの消費量と環境への負荷を総合的に評価する方法がLCA(ライフサイクル・アセスメント)です。LCAを考えることにより、企業は商品の寿命全体をとらえて商品設計を行い、消費者は環境負荷の少ない製品を選択することができるようになります。
食材の生産では現在、多くの野菜は一年を通して購入できますが、栽培にかかるエネルギーは季節によって大きく違います。夏が旬のトマトを冬に作れば10倍近くのエネルギーが必要となります。しかも栄養価を比較すると7月のトマトには2月の約2倍のカロテンが含まれています。旬に作られた野菜を食べる「旬栽旬消」は環境にやさしく栄養価も高い食材選びとなるのです。
 また食材の生産に必要な水の量を推定し数値化するバーチャル・ウォーターという方法で農産物をみると、日本のバーチャル・ウォーター輸入量は国内での年間の水使用量と同程度となっています。海外で起こっている水不足や水質汚濁の問題が、日本とも関係がある可能性が考えられます。
 食品の輸送・流通については、食材を生産地から食卓まで輸送する距離に着目したフード・マイレージという考え方があります。遠い所から運ぶ食品は輸送のために大量の化石燃料を消費します。日本の輸入食品のフード・マイレージをみると穀物の割合が非常に高い(食育・食生活指針の情報センターのホームページの資料)のですが、これは肉や乳製品を生産する動物の飼料等も含まれているからで、食料自給率を考える際にも考慮するべき点です。「地産地消」は輸送・流通による環境負荷を軽くします。
 環境への関心が高まり、環境に配慮した農産物であることを積極的に表示する動きが活発です。生産者が生物多様性を配慮した作り方へのこだわりをホームページで発信したりエコファーマー認定制度・フェアトレード・エコレールマークなどにより生産・販売にこだわりを持つ生産者や企業を支援する制度やマークがあったりします。私たちにはこれらの表示を参考にして食材を選ぶ視点も求められています。
 また家庭では調理方法で環境に配慮することができます。井元先生の研究室では本学の調理学研究室と共同で、じゃが芋を加熱方法や切り方を変えて調理し、省エネルギーでおいしく食べられる調理法を考える実験を行ったそうです。
日本の食品ロス量は年間約646万トン(平成27年推計)。1人当たり51キロになります。食品を廃棄するためにはエネルギーや費用がかかるし、廃棄を減らせば食材の輸入量削減につながる可能性もあります。 
 私たちの食生活のあり方が地球の環境や社会・経済環境に影響を与え、食生活の見直しによって社会の仕組みをも変えることができる――そのことが多くの例をあげた解説で理解できました。食の専門家として、今後SDGsを意識した行動が求められていることを強く実感しました。

 

 第2部はパルシステム生活協同組合連合会広報本部商品企画部長、加藤かおり氏による「企業における取り組み」です。

●ジャパンSDGsアワードSDGs推進副本部長(内閣官房長官)賞を受賞

 パルシステム生活協同組合連合会(以下パルシステムと略)は1都11県に150万世帯を擁し、「産地・地域・環境も守る持続可能な取り組み」の理念のもと、商品を提供しています。この考え方がSDGsの考え方と合致し2017年にはジャパンSDGsアワードSDGs推進副本部長(内閣官房長官)賞を受賞しました。
 パルシステムの商品づくりでは「7つの約束」とうたい、作り手と顔が見える関係を築くことで商品の信頼性を保つこと、国産を優先して食の基盤である農業を守ること、環境に配慮して持続できる食生産のあり方を追求すること等を挙げています。これによりパルシステムの消費者は商品の背景を理解し、社会性や環境面など価格面だけではない価値を知って商品を選ぶことができ、また作り手の思いを共有することは無駄のない消費、廃棄を減らす行動につながるといいます。

●パルシステムが発信する数々の活動

 パルシステムでは、ほかにも手作りを推進するために仕事を持つ人でも食事が簡単に整えられる「3日分の時短セット」や「常備菜セット」という組み合わせ商品を販売したり、廃棄量削減を目指して「食材管理アプリ」で食材を無駄なく使うサポートをしたり、という活動を行っています。
 また休耕田を利用して生産した飼料米を与えて育てた豚肉、冬も水田に水を張って地域の生態系を守りつつ農薬や化学肥料の使用を抑えた米の生産・販売、生産地ではバイオマス発電やソーラー発電によるクリーンエネルギーの創出、豊かな海を守り魚の自給率を上げるための植樹活動等、環境保全にかかわる幅広い活動が行われています。
さらに貧困や飢餓の解消に貢献する子供食堂の運営や、生協活動で残ったセット商品の食材をフードバンクに提供する活動も行われており、パルシステムの活動全体がSDGsの掲げる目標とつながっていることがわかります。

 

 今や国や企業の評価においてもSDGsが掲げる目標への取り組みが問われています。「食」がSDGsのいずれとも深くかかわっていることに理解を深め、一人ひとりがどのような形でアプローチできるかを考える貴重な機会となった専門家講座でした。

講座風景画像

講座の様子

 〔取材 香友会広報部〕