香友会主催講座・講習会
平成29年度第4回「専門家講座」開催報告

時間栄養学の進歩とこれからの栄養学
~基礎から最先端まで~

平成30年2月11日(日)13時30分より、女子栄養大学駒込校舎小講堂において、第4回専門家講座が開催されました。
2017年のノーベル生理学・医学賞は、サーカディアン・リズム(体内時計)を発見したホール博士、ロシュバシュ博士、ヤング博士の3氏に授与されました。人の体は24時間のリズムで変化し、体内時計は私たちの健康に大きく関わっていると言われています。体内時計の調整に重要な役割を果たしているのが食事です。

講師は、女子栄養大学副学長そして「時間栄養学」の第一人者である香川靖雄先生。参加者は57名。2時間たっぷり、先生は休むことなく、濃く幅広い内容を多くのデータを用いてわかりやすくお話いただきました。以下、講座の内容を簡単にまとめました。

  1. すべての動植物は時計遺伝子を持ち、昼夜を予知して効率的に行動している
    私達は誰もが「時計遺伝子」をもっています。時計遺伝子は日の出、日没を予測して、体調を準備しています。体温や血圧の日内変動やホルモンの分泌や自律神経の調節などの生体リズムを刻んでいるのです。
    視床下部にある視交叉上核という神経細胞が、主時計(中枢時計)で朝の光をあびることで、24時間の周期にリセットしてくれます。また体の末梢臓器すべてに末梢時計があり、朝食を摂取することで動き出すことがわかってきました。
  2. 朝ごはんをバランスよく規則正しくとることが重要
    朝食を摂取した学生は学業成績もよく、体力テスト結果も良好。朝食欠食により肥満が増える、脳出血・脳卒中・認知症のリスクが高まります。また2型糖尿病も誘発することなど、様々なデータを用いて朝食欠食の問題点を説明していただきました。また川島隆太先生の脳の磁気共鳴画像により、バランス朝食摂取により脳機能が向上すること。知的活動の向上効果などバランスのよい朝ごはんの重要性を説かれました。
  3. 食事の速さ、順序、時刻、バランスなど、時間栄養学で生活習慣病予防を
    早食いは肥満や糖尿病のリスクが高まります。魚や肉を米飯より先に摂取すると血糖値上昇を抑制できます。典型的な和食は、ごはんを最後に野菜類が最初に多く提供されています。朝・昼・夜と3食均等にたんぱく質を摂取した場合、筋肉合成が保たれます。
    21時以降はビーマル1が脂肪合成酵素を活性化するため、夜食は肥満に繋がりやすくなるので「分食」がおすすめです。分食は、21時以降に食事になる場合には18時くらいにおにぎりやサンドイッチなどを食べ、夜は主菜や副菜を摂る食べ方。多くのデータそして高齢者の消化能に関する具体的な説明など含めて、高齢者のフレイル問題や生活習慣病予防など、これからの栄養指導にも時間栄養学の考え方を大いに利用することの必要性も熱く語られました。
  4. 日本人の栄養素摂取量低下の問題から寿命のお話
    国民栄養調査値からみると、様々な栄養素特に葉酸や食物繊維が摂取できていないことが問題であること。埼玉県の坂戸市での朝ごはん摂取運動や葉酸プロジェクトの調査データを含めた活動の紹介もしていただきました。
    米国の葉酸推奨量は400μgであるのに対して、日本では240μgと少な量であり、世界的にも少ないこと。葉酸不足により組織を損傷し、テロメア長が短縮してしまい寿命が短くなってしまうなど生理学的なお話も盛り込んで話されました。
  5. 精神栄養学も重要
    運動と知的活動を能動的に行うことで、神経細胞が増えます。永平寺の宮崎奕保住職は106歳まで生きましたが、その具体的な過ごし方から座禅や作務などの規則正しい生活などが心身活性化、寿命延長などの遺伝子発現にも寄与していること。また声を出して笑うこと、美味しい料理を食べることなどによりドーパミンが出てストレスを防ぎ、脳卒中や心疾患にも罹り難いなどのデータも紹介いただきました。

以上、メタ解析による膨大なデータに基づいて、様々な角度から時間栄養学の重要性について語られ、最後の結論を以下にまとめてくださいました。何をどう食べればよいのか?行動変容を伴う栄養指導の在り方にも直接アプローチできるお話が盛りだくさんでした。

時間栄養学で健康寿命を延ばす方法

①食事:
摂取時間 朝食を必ず摂り、夜食は避け、朝・昼・夕=3・3・4 摂取速度 ゆっくり1口20回噛む(血糖とインスリン上昇速度抑制) 摂取順序 野菜から先に食べ、炭水化物を後に摂る 栄養バランス 毎食の栄養バランスが必要 GI(グルセミックインデックス) 胚芽米、食物繊維
②減量:
1月に体脂肪1kg=腹囲1cm、骨密度と筋肉量維持
③運動:
1日8000歩、運動時間分割、速歩20分、筋トレ加味
④休養:
毎日7時間睡眠、短い昼寝も可。座業には体動休み
⑤精神:
抗ストレス、瞑想。日常の社会活動と交流

香川先生の時間栄養学のお話は「栄養と料理」にも掲載されています。ぜひ、チェックしてみてください。

〔取材 香友会広報部〕