香友会主催講座・講習会
平成29年度第1回「専門家講座」開催報告

~食品開発の最新情報~

平成29年9月24日(日)13時30分より、女子栄養大学駒込校舎において、第1回「専門家講座」が開催されました。講師は、西村敏英先生と三浦理代先生のお二人。「食品開発の最新情報」というホットなテーマに多くの在学生も聴講していました。

■食品開発の最新情報:食べ物のおいしさを引き出すコクを科学する!

西村敏英先生(女子栄養大学教授、うま味インフォメーションセンター副理事長)

西村先生は日本発のコクを世界に発信するために、コクの「見える化」に向けて研究をされています。今回の講義でコクやうま味という言葉の定義を改めて学び直すことができました。

[おいしさを決める要因は、味・香り・食感、そしてコク]

おいしさの判断は個人で異なり、食習慣の違いや価値観、体調でも変化します。味と香りを合わせて味わいといいますが、おいしさを表現する言葉としてよく使われるコクは食べ物のよさを決める要因であって、おいしさと同音異義語ではないとのことです。コクとは、味・香り・食感により多くの刺激が与えられた結果、複雑さ、口の中での広がり、持続性を感じた時に認識できる現象と定義されます。
(体験1)フルーツ味のキャンディの香りと味を体感
目で見て味を連想し香りを嗅ぎ口に入れて味わいました。鼻をつまむと香りはわからなくなりました。香りの情報を鼻腔細胞で受け取り、口の中で味を感じるメカニズムが理解できました。

[コクの増強物質はうま味物質]

基本五味のうま味(Umami)はうま味物質であり、コクの増強物質です。おいしさを表現する旨み(旨味)(Deliciousness)と使い分けをします。
コクはうま味物質の相乗効果によって増強します。食べ物に含まれるうま味物質は、植物性に多いグルタミン酸やグアニル酸、動物性に多いイノシン酸です。実際の調理では、和食は昆布やかつおぶし等、西洋料理は玉ねぎ、にんじん、セロリ、肉類。中国料理では長ねぎ、キャベツ、鶏肉等の食材がよく使われます。うま味物質を添加することでコクが強まりますが、コクが強すぎるとくどさやしつこさにもつながります。ちなみに、市販されているうま味調味料は、砂糖キビを微生物の力により発酵生成したものです。グルタミン酸とイノシン酸の含有量が異なるものや、うま味物質にかつおぶしや昆布などの香りをプラスした商品もあります。
(体験2)「うま味」と「旨味」を体験
ダシなしの味噌汁に適量のうま味物質(うま味)を加えるとおいしくなる(旨味)ことを確認しました。また、うま味物質である白い粉末を単独で味わい、うま味物質を添加した味噌汁との味わいの違いを比較しました。

[コクを有する食品の分析例:脂質の効用とコクの増強効果]

コクは熟成や発酵、加熱などで形成されます。肉を加熱すると香り成分が出て(複雑さ)、さらに肉の脂は香りを保持してコクを増強させ、口の中の粘膜に脂が残って刺激が長く続きます(広がり・持続性)。

[専門家として現場で取り入れたい工夫]

会場からの質問に関連させ、素材の味わいを引き出す工夫と、提供する対象に合わせてうまみ調味料を使いこなすスキルが重要であるとまとめてくださいました。さらに食習慣の多様性がおいしさの評価につながることから、よく噛んで素材の味わいを感じ、噛むことで旨み(おいしさ)が引き出されることを食教育で指導し、素材の味わいを最大限に引き出すコツを身につけてほしいと話されました。商品開発においても、地域や対象を考慮して塩分やコクの強さを加減する必要があるということです。本講義を実践に役立てていきたいと思いました。

■食品開発の最新情報:宇宙日本食へのチャレンジ

三浦理代先生(女子栄養大学名誉教授、有人サポート委員会宇宙食分科会専門委員)

日本食は2003年にNASAの標準メニューに組み込まれ、加工技術と品質保証が認められ「宇宙日本食」と名付けられました。今回は宇宙食開発の歴史から、健康長寿食としての和食が宇宙食に認められたトピックスを解説いただきました。

[宇宙食は厳しい環境に耐える究極の非常食]

宇宙食は宇宙飛行士の健康を守る食事であり、高度な衛生性と長期保存性が要求され、包装容器にも厳しい条件があり軽量な包装が工夫されています。加温器はあるものの調理設備が限られているため、電子レンジや冷凍冷蔵庫を使わない乾燥食品やレトルト食品が主体で、微小重力環境のなかで飛び散らない粘度をもたせています。加工品が中心ですが、フレッシュな野菜や果物が届けられることもあり、長期滞在者に喜ばれているそうです。

[宇宙食に求められる栄養学的特徴と機能性の強化]

宇宙日本食は、飛行士の栄養要求量を満たし身体に役立つ機能をもった食事です。放射線汚染により酸化ストレスが上昇する宇宙環境では、活性酸素から身を守る抗酸化力をもった食材を増やす工夫が必要です。放射性防御食としては、ウコン(ターメリック)の色素であるクルクミンの抗酸化力を期待し、ウコン2倍量をカレーに加えた抗酸化メニューが考案され、また、骨量減少を考慮したカルシウム強化食(ビタミンD、イソフラボン添加)も開発されました。

[宇宙日本食に認証された食品は14社30品目]

宇宙空間での楽しみの一つは食事です。そのなかでもヘルシーな和食は海外の飛行士にも人気があり、また、わが国が考案したカレーは好評です。3種類のカレー(ビーフカレー、ポークカレー、チキンカレー)は味覚が鈍くなる宇宙滞在中にもおいしく食べてもらえるように香辛料を工夫したスパイシーなカレーです。その他、バランス栄養バー、低アミロース米を使った赤飯や山菜おこわ、鮭おにぎり、粘性の強いおかゆ、マヨネーズ(生野菜用)、しょうゆラーメン、ワカメスープ(完食しやすいようにワカメを小さくカット)等です。缶詰はサバのみそ煮、イワシのトマト煮 サンマのかば焼きが認証されています。嗜好品としては、キャンディ、ベークドチョコ、小倉羊羹、キシリトールガム、抗酸化物質を多く含む濃縮プルーン、緑茶茶葉から抽出した顆粒茶や吸い口をつけた飲料などが認証され、2017年8月には新たに亀田製菓のピーナッツ入り「柿の種」がプラスされたということです。 

[健康長寿のヒントは宇宙にある]

2017年末から国際宇宙ステーションに滞在予定の金井宣茂宇宙飛行士には、健康長寿のヒントを研究する新たなミッションがあります。重力がない状況で筋力低下をいかに早く回復させるかというノウハウや、免疫力を高める乳酸菌の実験です。宇宙空間でのさまざまな研究が、高齢化社会の私たちの健康にも多いに役立てられると期待されています。

〔取材 香友会広報部〕