香友会主催講座・講習会
令和6年度第4回「専門家講座」開催報告

テーマ:中国料理の基本と実践〜プロから学ぶ調理のコツと大量調理への展開〜

講 師:第1部 土屋 純一(香川調理製菓専門学校助教授)

      第2部 長谷川 満(香川調理製菓専門学校教授)    

令和7年3月1日(土)に第4回「専門家講座」が駒込校舎にて開催されました。春らしい日和の14時から16時 まで、久しぶりの試食付きの対面形式での講義と調理デモンストレーションがありました。

講師2名の画像

左:土屋純一先生 右:長谷川満先生

まずは、講師の土屋純一先生(香川調理製菓専門学校助教授)より、4大中国料理の特徴と「蒸す」に焦点を当てた調理理論を学び、試食料理のテクニックを実演いただきました。

第2部では、講師の長谷川満先生(香川調理製菓専門学校教授)より、中国料理の大量調理(集団給食)への応用と大量調理機器について、長年の経験談を交えてのお話とともに試食時には調理のポイントの補足がありました。

 

第1部 中国料理の基礎知識   講師 土屋純一先生

 日本の食文化に浸透している中国料理は北京料理、上海料理、四川料理、広東料理の4つに大きく分類でき、中国大陸の気候風土の違いで食材や調理法が異なり、味にも違いがあり、その土地の生きる知恵が料理に表れているとのことです。特に四季がはっきりしている上海料理は和食と似ているところがあり、砂糖としょうゆを使った煮込み料理がよく知られているそうです。さらに、上海蟹ともいわれるもくず蟹は蟹味噌が濃厚でおいしく、もくず蟹の季節が来ると土屋先生も行きつけのお店で季節のごちそうを堪能するというご自身の話題にも触れられ、多くのエピソードに会場が引き込まれていきました

◎中国料理の味や調理法には文化的な特徴がある

 中国料理の五味は甘・塩・酸・苦・辛、日本料理には「うま味」が加わること、また、中国料理の調理法は掛け算・足し算の料理であり、日本料理は引き算の料理である、などの知識を確認しました。さらに、なぜ強火を使った料理が多いのか、なぜ調理器具が少ないのか、なぜ中華鍋は丸く鉄製なのか、なぜお玉は丸く中華包丁は長方形なのか等、中国料理のイメージを引き出すクイズが会場へ投げかけられました。それぞれの答えに調理の理論や文化が見えてくる中国料理の実践的な学びになりました。

◎中国料理の蒸す調理法の特徴

 中国では蒸籠で蒸す料理が得意であり、蒸しものは鶏肉や新鮮な魚介類など淡白な食材が向いているそうです。食材が形崩れしにくく、栄養や食材そのものの味や香りを逃さない、しっとり柔らかく仕上がる、器ごと調理ができて保温効果がある、茶碗蒸しのように柔らかい液体を固めることができる、生地を膨らませるなどの長所が多く、事前に仕込みやすいことも大量調理に応用できる手法といえます。

土屋先生画像

土屋先生による調理デモンストレーション

◎試食料理は蒸しもの3品とデザート1品

*北京の家庭風茶碗蒸し:器に肉や春雨などの具材を入れて卵液を流して蒸す。ソースはたまりしょうゆのようなシーズニングソースやナンプラーに似た調味料が隠し味になる。
*白味魚の広東式黒豆ソース蒸し:鯛の切り身に細かくした豆豉と調味料を加えて味をなじませ、皿に盛って蒸し上げる。仕上げは香味野菜や熱したピーナッツ油などで。
*豚バラ肉と根菜の四川式蒸しもの:肉に甜麺醤入りの合わせ調味料と上新粉をもみ込み、長芋などを添えて白菜を敷いた皿にのせて蒸す。上新粉のもちもち食感が特徴。
*豆花:豆乳とゼラチンと砂糖で手軽にできる素朴なスイーツで、塩味の豆花もあるという。中国ではトッピングは豆類が好まれる。今回は黒蜜と小豆あんを添える。

 

 

右手前:北京の家庭風茶碗蒸し  中央:豚バラ肉と根菜の四川式蒸しもの
左手前:白身魚の広東式黒豆ソース蒸しもの  左奥:豆花

第2部 中国料理の大量調理(集団給食)への展開   講師 長谷川満 先生

中国料理の理解を深めようという話題から、まずは世界三大料理の一つである中国料理の文化的背景を解説いただきました。また、薬膳は薬食同源という中国最古の思想から生まれた料理であり、中国の精進料理である普茶料理は、豪華でボリューム感があり食を楽しむことを目的とし日本の精進料理とは異なるなど、中国の多様な食文化が紹介されました。

長谷川先生画像

長谷川先生の講義

◎大量調理向きの中国料理と調理法の工夫

 四川料理や広東料理、上海料理は大量調理に応用しやすく、特に調理法の単純化と大量調理器具の利用により使えるメニューが多くなります。今話題の「町中華」ブームも相まって事業所給食や学校給食に中国料理の要望が多いとのことです。
 人気の中国料理の例として、焼きそばは麺と具を別々に調理して最後に合わせる工夫、麻婆茄子のように材料の品数が少ない料理を選択すること、麻婆豆腐や家常豆腐は崩れやすい豆腐を厚揚げに替えて扱いやすくする、油淋鶏は大きな肉を揚げてから切り分けて提供すること。また、中国料理以外でも例えば、スパゲッティナポリタンはパスタソースを上からかけるという発想の転換が必要です。さらに時短には合わせ調味料を事前に用意することもポイントといえます。 
 大量調理機器は個々の機能を理解して効率的に利用します。蒸しものやご飯の蒸し直しには大型コンベンションがよく使われているそうです。

◎試食料理は大量調理にあった工夫がされている2品

*芙蓉蛋(かに玉):具材を炒めて卵液を加えて卵を半熟状になるまで加熱し、天板に流し入れてオーブンでしっかりと火を通す。切り分けて甘酢あんをかける。
*炒飯(チャーハン):中華味のスープを入れて炊き上げた白飯に炒めた肉や卵などの具と合わせ、調味料を加えて手早く炒める。

炒飯(チャーハン)画像

炒飯(チャーハン)

芙蓉蛋(かに玉)画像

芙蓉蛋(かに玉)

 

 先生方の中国料理に対する熱量が参加者に届いた講義でした。中国料理の特徴を改めて学び直し、また、大量調理への応用・工夫はプロならではの説得力があるレクチャーでした。大量調理に対する要望は進化しているため、献立の立て方や調理法にも工夫が不可欠とのこと。会場からの質疑応答では、食や料理に興味を持って知識や感性を深めていくこと、職場ではチームでうまく連携をとることなどのアドバイスもいただきました。
 講義の最後には、香川綾先生が残された言葉「うまいものは、手の中にある。そんな手を持つ人は生涯の宝物である」の一文が紹介されました。

                            [取材:香友会広報部]