香友会主催講座・講習会
平成30年度第2回「専門家講座」開催報告

 平成30年11月10日(土)13時30分より、女子栄養大学駒込キャンパス(生涯学習センター)において、第2回「専門家講座」が開催されました。講師は浜岡さおり氏(女子栄養大学出版部『栄養と料理』編集長)。「情報の読み解き方」のポイントを編集者ならではの具体的・実践的なトークでまとめてくださいました。

テーマ【食と健康情報のリテラシー】
    〜雑誌編集者から正しい読み方を学び、伝え方を考える〜
第1部  プロジェクターを使用した講演
   *食と情報のリテラシーとは?(情報の読み方)
   *「伝える」ための編集とデザインの話
第2部 参加者の質問を共有する場+まとめ

講師画像

講師の浜岡さおり氏

■食と情報のリテラシーとは?(情報の読み方)

 食や健康にかかわる情報が氾濫している今、役立つ正しい情報にたどり着くための基本的な知識と個々人の取り組み方を考えました。

[リテラシーとは情報の読み解き方]
 いろいろな場面でリテラシー(Literacy)という言葉を耳にします。ここでは食や健康情報を見分けるための知識や技術を学び、必要な情報を活用する能力について考えます。SNSで誰もが簡単にインターネットにつながる時代、収集した膨大な情報を正しく選ぶことは非常に難しいものです。情報を読み解くには受け手に、ある程度の知識がないと判断しにくいこともあります。

[栄養と料理10月号 特集「ヘルスリテラシー入門」等 から考える]
 ヘルスリテラシーとは、健康や医療に関する情報を入手し、理解し、評価して活用する力をいいます。これらの情報はいくつかの確認が必須です。いつ(の情報か)? なんのために? 書いた人はだれ? もとネタはなに? 違う情報と比べた? という5つの検索ポイント「い・な・か・も・ち」を覚えておきましょう。複数の情報を読み比べてバイヤス(偏り)がかかっていないかもチェックします。信頼できる情報はエビデンス(根拠や信頼度)で探ります。
中山和弘:健康情報 それ、ホント? ヘルスリテラシー入門.栄養と料理、10月号:p.9〜21、2018.

(例1)ブルーベリーは目にいい?

  • 栄養成分:β-カロテンが多い
  • 機能性成分:アントシアニン
  • エビデンス:ヒトでの有効性・安全性については、信頼できるデータが充分ではない(国立健康・栄養研究所)

中村宜督:食品に見る機能性成分のひみつ ブルーベリー.栄養と料理、8月号:p.104〜105、2018.

(例2)牛乳で背が伸びる?

  • 栄養成分:カルシウムが多い
  • カルシウムの働き:骨の成長を促す
  • エビデンス:通常の成長以上に背が伸びるとはいえない

佐々木敏:佐々木敏がズバリ読む栄養データ.栄養と料理、11月号:p.117〜119、2018.

(例3)“ベジファースト”は糖尿病を防ぐ?

  • 食べ方:野菜を食事の最初に食べる
  • エビデンス:「糖尿病の人でも健康な人でも、野菜を先に食べるとごはんを先に食べた場合よりも食後の血糖値の上昇がゆるやかになっています」この研究結果をもって私たちのいつもの食べ方を野菜先食べに変える根拠にするには少し無理があります

佐々木敏:佐々木敏のデータ栄養学のすすめー氾濫し混乱する「食と健康」の情報を整理する.p.227,女子栄養大学出版部,2018.

[情報の確かめ方のいろいろ]
 食や健康の情報を得るためのツールには、SNS、書籍・雑誌などの文献、テレビや新聞、専門家の話。独自のアンケート調査などがあります。浜岡さんは、インターネットでは公的機関サイトのほか、YahooやGoogleなど、ありとあらゆるもので検索し、一方、日頃から立場の違う人の声を聞き、周辺で何が話題になっているかにも気にとめるよう心がけているそうです。

■「伝える」ための編集とデザインの話 

 大事なことは「伝えたいこと」を明確にすることです。いつ? だれに? なにを? どのように?伝えるかをより具体的に考えます。
[イメージを形にする手順]
 書いたり話したり絵にすることで、具体的に何をどのように読者に伝えるかが見えてきます。さらに、限られたスペースの中で優先順位と並べる順番を考えます。お弁当を例にすると、主食・主菜・副菜と要素はほぼ決まっています。お弁当箱の容量のなかで確かな情報をどう料理してどのように詰めるかにはセンスやアイデアも必要になります。

[構成のヒントと記事の構成要素]
 読んでほしい順番を考えて何をどうレイアウトするか、これらの作業はデザイン力が要求されます。記事の構成要素はタイトル、リード、本文等。料理の場合はレシピ、図表、写真等です。また、原稿チェックでは、新しい情報かどうかの確認や著作権や版権の許諾も必要になります。特に健康記事では、できるだけ出典を記載し誇大表現をしないこと、わかっていることと不明な点を明らかにし、選択肢が1つにならないように可能性をできるかぎり探ることです。

■ 参加者の質問を共有する場+まとめ

 会場でのさまざまな質疑応答を通して、情報を正しく選択し、いかに人に伝えるかの心構えが見えてきました。
[Q&A:メディアからの発信に“はてな”と思うことがある]
 健康によいとうたっている商品はよく売れるという事実があり、そこには、メーカーやスポンサー、メディアとの力関係がある場合があります。そのような発信に対しては、情報を過信しないこと、だまされないセンスを磨くことです。センスは努力や歳を重ねることで養われていくものです。医療者からの発信でも目的が何かを探り、引用文献などの出典に戻ること、発信者の専門分野は何かという情報収集も大切です。

[Q&A:情報を過信する人や信じて疑わない人に対してのアプローチ]
 からだにいい○○を使いたい、○○は○○に効くというがどうなのか等の相談を受けることがあります。現実には相談者の生活習慣や考え方を変えることは難しい場合が多いのですが、そんな時には、正しい情報を自信をもって提供し続けること、そして、これからも気軽に相談してもらえるような敷居の低さを相手に残すコミュニケーション能力も必要です。

[Q&A:編集力や文章力を高めて本づくりに携わりたい]
 実践して身につく力もありますが、自分を客観視できて自信をもつことや人に評価してもらうことも大切では、と浜岡さんからの編集者としてのアドバイスがありました。日常的に心がけることは、知識をアップデートするために内外の刺激を受けて多くの情報を得ること。これはインターネットを介してでもよいと思います。そして気付いていないことに目を向けることです。
 会場では編集の仕事がしたいという学生さんが真剣に質問する姿が印象的でした。

◇◇◇

 食と健康情報のリテラシー(食や健康を決める力)を養っていくことで、正しい情報の伝え方を見直す機会を得ました。また、雑誌編集

からの視点で情報をカタチにする大変さを知りました。これを機に『栄養と料理』を開くとき、さまざまな角度からの読み方が楽しめるのではないでしょうか。

講座風景画像

 

 

 

 

 

 


〔取材 香友会広報部〕