コロナ禍の中で~卒業生の職場では~

井川 弥生

株式会社ホットパレット(東京都墨田区)
マーケティング本部マーケティング企画担当
学部平成5年卒業


 株式会社ホットパレットは、「ペッパーランチ」の運営会社です。事業を譲り受けて9月にできたばかりの本部で、現在は、購買・商品開発・販促を一気通貫する部門を立ち上げているところです。
 私は、昨年11月まで株式会社サガミフードのメニュー戦略部で、手延べうどんチェーン「味の民芸」をはじめ、姉妹店となる都心の小型うどん店・パスタ店・ラーメン店のメニュー企画開発を担当していました。
 昨年4月の緊急事態宣言発出当時の職場は、国内に約60店を持つレストランの本部だったので、会社としてまずは各店の営業の決定と整理をしました。テナント店は施設の営業状況に応じるため、休業か時短かの情報収集。その他の店舗は状況に合わせて、休業(おもに都心の小型店舗)、テイクアウトとデリバリーのみ営業(集客が見込めない店舗)、閉店時間繰り上げで通常営業、といった振り分けをおこないました。
 営業部門は、人の采配。多くのパートアルバイトには手当をもらえるよう休業していただき、正社員を営業している店舗に振り分け。私のいた商品部門では、予定していた春の季節メニューを中止し、食材の仕入れ先への連絡。食材仕入れも減るため、納品の回数を減らす等の対応。テイクアウトやデリバリーのメニューを増やしチラシ作成するなど、予定していなかった急な動きに追われました。
 いずれも、売り上げが見込めなくなるために会社としてコストを抑えるための動き(人員配置・メニュー制作中止・配送回数減)をしつつも、少しでも売り上げをとるための動き(テイクアウトやデリバリーの強化)を一緒におこなっている状態でした。
 緊急事態宣言が解除されてからは、速やかに通常の営業に戻れるような取り組みをしました。店内のついたてや飛沫防止フィルム等の設置を強化し、メニューも予定していた季節フェアが導入できるように進めていました。合わせて、テイクアウトやデリバリーの需要も増えたため、春に急ごしらえしたものを見直し、戦略的に売っていけるようなメニューを組み立てていました。
 Go To Eatキャンペーンは予約可能な大型店でポイント付与を開始したところ、若い層のお客様が増えました(ふだんは価格帯が少し高く利用していなかった層が、スマホで予約やポイントを使いこなして来店されたという感じです)。秋頃までは、大型店ではGo Toの恩恵を受けて売り上げを戻しつつありました。一方、都心の小型店舗はすでにテレワーク等で街に人が減ってしまったことや、狭い店内を不安に感じるお客様もいたようで売り上げは戻っていませんでした。
 また、業界でいえば居酒屋チェーンが最も苦戦をしており、焼き肉店への業態転換等など、各社生き残りをかけた路線変更をおこなってきています。上場しているような外食チェーン企業では、各店の売上が下がっても個店への給付金はありません。個人店と違って「会社」なので、店舗家賃の支払いや食材仕入れの支払いは滞りませんが、会社が銀行から借入ができているだけの話で、経営状況が悪化していることに変わりはありません。企業により公表したりしなかったりですが、外食チェーン各社かなりの店舗数の閉店や人員整理等をおこなっています。
 ちょうど第三波の来るタイミングで現在の外食企業に転職をしました。いずれもまた苦戦を強いられています。ショッピングモール内のフードコート店舗と、独立した客席を持つレストラン型の店舗を比べると、フードコートのほうがまだ売上を保っています。ほとんどのモールには食品売り場もあるので施設としては集客できており、短時間で食事を済ませられるフードコートのほうが密をさけた外食ができるためでしょう。
 これまで、「店内でできたてを食べたほうが、テイクアウトより絶対おいしい。テイクアウトでは商品価値が下がる」と思って、しばらくテイクアウトを推奨したくなかったのですが、考えを改めました。テイクアウトやデリバリーの需要が増える中で、注文するお客様は店内飲食との比較をされていないようです(比較する人はお店で食べるのでしょう)。むしろ、「コンビニやスーパーよりおいしい」「温かいまま届けてくれる」といった価値を感じていただいているようです。
 外食の楽しみは、できたてのおいしさをその場で味わうこと。仲間との時間や店員とのやりとりを楽しむ、コミュニケーションの場と空間であることに変わりはないと思います。ただ、今回のコロナの影響で、人を介さなくてもスマホでオーダー・決済し、運ばれてきたものを食べる便利さという新しい価値も生まれてきたのは事実です。わざわざ外食しなくても・・・と感じる人もいるでしょう。
 生命を維持するための食事ではありますが、もっと食を豊かにしてもらいたい。おいしさや便利さだけでなく、楽しさと喜びを感じられる食の空間をもっと広げていくことが外食の価値づくりになると思っています。