令和7年度 食文化栄養学実習

髙島美和ゼミ■英語圏文化研究室


アボカドをスイーツに!

   アボカドは、わさび醤油やマヨネーズをつけて食べたり、クリームチーズと一緒に食べたり、一般的に生のまま食べられることが多い。その中でも、わさび醤油で食べるのが不動の人気である。私も普段食べるときは基本的に、生でわさび醤油をつけて食べている。近年増加したアボカド専門店では、ご飯の上にマグロやサーモンと一緒にのせたポキ丼やユッケ丼、タコライス、サラダボウル、サンドイッチやトーストの具として提供されていることが多い。しかし、本来アボカドは果物に分類されるのだ。スーパーの売り場を見ると、野菜と果物の境目に置いてあることが多く、普段の食べ方からも野菜だと思っている人も多いのではないか。アボカド専門店の中には、アボカドのスムージーやチーズケーキ、ティラミスなどを提供しているところもある。そこで、野菜として食べられがちなアボカドを、もっと果物としての使い道を考えたい、スイーツとして美味しく食べたいという気持ちから、本研究を始めた。
   スイーツの材料としての可能性を示すことを目標に、アボカドスイーツのレシピをリーフレットにして発信している。中間発表では、アボカドスコーンのレシピを発表した。その後、アボカドチーズケーキ、アボカドプリン、アボカドとマーマレードのクリームチーズマフィンのレシピを完成させた。市場調査としてアボカド専門店に訪れた際に、金柑のソースとアボカドの相性が良いとわかった。その事を踏まえ、マフィンにマーマレードジャムを使うことを決めた。その他にも、クッキーやパウンドケーキなどの試作をしたが、アボカドの良さが活かせないことや他の食べ物との組み合わせが難しいことがわかった。本発表では、これまで試作してきたもの、出来上がったレシピの作り方やコツについて、また、アボカドについての情報も発表したいと考えている。アボカドがスイーツの材料として使えるという新しい食べ方を発信すると共に、色々な食べ方ができるという可能性、さらにアボカドの魅力を広めたいと考える。

フレーバードティーで彩り華やかな日常を!
香りを楽しむフランス紅茶の魅力

   紅茶と聞くとどのような国や種類を思い浮かぶだろうか。多くの人は、紅茶と言えばイギリスやアッサム、ダージリンなどの茶葉を思い浮かべるだろう。
   私自身、幼い頃から紅茶に興味があり、調べていく中で、フランスではフレーバードティーが好まれていることを知った。そんなフレーバードティーを紅茶の楽しみ方のひとつとして日常のティータイムに取り入れ、フランス紅茶の魅力を広げていきたい。
   フレーバードティーとは香料や花びら、果実などで香りづけしたお茶のこと。その種類は多様で、フルーツ系、スイート系、フラワー系、スパイス系などがある。これまでの研究から、イギリスではフレーバードティーがあまり好まれておらず、飲むとしてもアールグレイくらいであるのに対し、フランスではフレーバードティーが日常的に親しまれていることを知った。その理由として、フランス人は香水をつける習慣や料理にも香りが重視されるなど、香りに対する意識が高いこと、日常的に飲むものがコーヒーなのに対し紅茶は嗜好品として位置づけられていること、ハーブティーがカフェなどのメニューに必ずあり、香りあるお茶を日常的に飲んでいることから、好まれているのではないかと考えた。またフランスの紅茶の特徴として、香りや雰囲気を楽しみ、ストーリー性のある芸術的なものが多いことがわかった。このように香りを楽しめるフレーバードティーを自宅でも作れるよう、オリジナルのフレーバードティーを提案する。
   フランスの紅茶文化を調査すると、茶葉にセイロン茶葉を多く使用していることがわかった。セイロン茶葉にはキャンディ、ディンブラ、ヌワラエリア、ウバ、ルフナといった種類があり、飲み比べた結果、最も飲みやすいと感じたキャンディを使用し試作を行った。
   本発表では、フランス菓子をテーマに考案した「フレジエ」「ピーチメルバ」「タルトタタン」の3種類のオリジナルフレーバードティーを提案する。試作を重ねた結果、沸騰した湯で抽出してしまうと香料の香りが飛んでしまうため、水出し紅茶を提案する。また、フルーツ系、スイート系、フラワー系、スパイス系に4種類に加え、フランスの紅茶ブランドで最も有名なマリアージュフレールのマルコポーロという紅茶のペアリングを提案する。

美容と健康に特化した機内食メニューの提案

   海外旅行が大好きな私が旅の中で楽しみにしていることのひとつは、飛行機の機内食だ。しかし機内食は塩分もカロリーも高く、フライト中のむくみが気になる。そのため私は美と健康に配慮した機内食のメニュー提案に取り組んだ。長時間のフライトによって起こる浮腫みや肌荒れ、便秘といった不調に着目し、体内からケアできるような食材選びと栄養バランスを意識した。塩分や糖分は控えめにしつつ、抗酸化作用のあるビタミンや食物繊維、カリウムなどを豊富に含む食材を取り入れる。また、機内という限られた空間でも満足感を得られるよう、見た目や香りにも工夫を凝らし、心も満たせるメニューを提案する。
   今回は「日本・タイ・フランス」の3カ国を結ぶ国際線で提供されることを想定し、それぞれの国の文化と味覚を大切にした機内食を考案した。日本便では「鮭の西京焼き」をメインに、栄養バランスのとれた和食に仕上げた。海外から帰国する乗客や、日本に来る外国人が“ほっとできる味”を感じられるよう、やさしい味付けにしながらも、見た目の彩りにもこだわった。
   タイ便では、現地で実際に食べて感動した「カオマンガイ」をメインにした。現地で食べたカオマンガイは、シンプルながらも鶏の旨みとソースの絶妙なバランスが印象的で、そのおいしさを機内でも再現したいと思った。脂質を抑えた鶏むね肉を使い、副菜にはヤムウンセン、きのこのエスニックマリネ、蒸し野菜のスイートチリソースがけを組み合わせ、塩分を控える代わりにライムで風味をプラスしたり、ハーブやスパイスを活かしてむくみ対策と満足感の両立を図った。
   フランス便のメインは、パリで実際に味わった「ポトフ」。寒い冬の日に食べた温かいポトフの優しい味が忘れられず、機内でも心を温められる料理として選んだ。日本で馴染みのあるポトフとは違い、本場のポトフは牛肉を使った煮込み料理に近い。副菜にはラタトゥイユ、キャロットラペなどを組み合わせ、彩り豊かで栄養価の高いプレートに仕上げた。
   この3カ国のメニューを通して、旅の中でも健康と美を保ちながら、それぞれの国の文化を味わえる“心にも栄養を与える機内食”を目指した。

映画をアフタヌーンティーに

   皆さんは、映画や映像を観た時に「ここのシーンを何かで表現してみたい!」と思うだろうか。私は、ディズニーの世界観が好きで、そのシーンを料理で表現することをテーマにした。ディズニー映画は、現実ではあり得ない事柄を体験したような気分にさせ、夢を持つことができる。
   前期は、「メリーポピンズ」をテーマとしたワンプレート料理、「サンデーロースト」を作成した。今回は、イギリス小説で、ディズニー映画にもなっている「不思議の国のアリス」と「ピーターパン」の二つの作品を「料理」で表現した。
   映画の舞台となっているイギリスには、多くの伝統料理がある。「不思議の国のアリス」と「ピーターパン」をイギリスの伝統的食文化「アフタヌーンティー」として作成した。下段には、「不思議の国のアリス」をイメージした食事系の料理を、上段には、「ピーターパン」をイメージしてデザート系のプレートを作成した。物語をそれぞれ二種類のプレートに分けたのは、物語の設定が影響している。「不思議の国のアリス」は基本的に地上を歩いて冒険する物語である。一方、「ピーターパン」は空を飛んで物語が進んでいく。今回、特に注目してほしい点は、物語をモチーフにしたことで、物語に出てくる人物や物を想像しながら食べることができるというところである。そうすることによって、物語に没入できる可能性が生まれるのではないだろうか。一つ一つの食べ物には、隠された意味がある。それをぜひ感じ取ってほしい。アフタヌーンティーには、ティーカップが必須である。ティーカップのカップは二つの物語に合ったものを、紅茶も同様に物語に合った茶葉を作成した。前回に引き続き、華やかで愉快な見た目の料理のイギリス料理とその背景について説明する。

ダイナソーレストラン
―現代で恐竜を味わうには―

   約2億3000万年前~6600万年前というはるか昔に生きていたといわれる恐竜。元々恐竜に関心のあった私は、その肉がどんな味なのかという疑問から恐竜の肉の味について研究することにした。しかし現在存在していない生物であるので味を知っている人はいない。再現することは難しいが、文献調査と専門家へのインタビューによって恐竜の味を推測できる手掛かりがあるということが分かった。その要素は「系統」、「生態」、「餌」の3つの側面である。この3要素から味を推測し、現生の動物を用いて料理を作ることにした。
   まず系統の面からは、恐竜はダチョウなどの鳥類やワニに近縁な生物であり、味もそれらに近いことが推測できる。また3要素のうち、最も影響力がある要素と考えられる。生態は、瞬発力と持久力のどちらを活かすタイプなのかで、白身と赤身に分けられる。餌は肉食(魚食)・草食で臭いなどが変わるとされる。
   次にワニとダチョウの肉を食べ、具体的な料理を考案することにした。ワニは白身で淡白な鶏肉のような味が、ダチョウは赤身であっさりした牛肉に近い味がした。その上で、恐竜の生態などを基に2種類の肉を使い分けて料理を考案することにした。
   メニュー例の1つ目は、「トリケラトプスのフィレステーキ 赤ワインソース」である。トリケラトプスは白亜紀後期に生息していた草食恐竜で、速く動くことが難しいと考えられていた。持久力を活かすタイプであることから赤身のダチョウ肉を用いることにした。    2つ目は「スピノサウルスのカオマンガイ ネギソース」である。スピノサウルスは魚食性で、水中で動くことができる恐竜であると考えられている。魚食性や水辺に生息していることがワニと共通していたり、頭部の形状が似ていたりすることから、ワニ肉を用いた。    肉料理の他にも、卵を使ったスイーツプレートも考案する。ワニの卵は8割が卵黄であるため、ダチョウの卵黄を主に使用してスイーツを作ることにした。
   他にも様々な料理を考案し、発表の中で紹介する。またメニューをまとめた冊子を配布する予定である。

旅しない旅ご飯!
〜東京で地方巡り〜

   「旅行に行かずとも地方の味を楽しめるお店」をテーマに、東京近郊で日本各地の食文化を体験できる飲食店を調査した。私はもともと国内旅行が好きで、旅先でその土地ならではの食材や料理、そして地元の人々とのふれあいを通して地域の魅力を感じることが好きだった。しかし、時間や費用の都合でなかなか遠出ができない場合も多い。そのため、東京にいながら各地の魅力を味わえる場所を探し出し、実際に訪れ、現地の魅力を味わえるかを調査した。その情報を紹介することで、「食を通した小さな旅」を提案したいと考えた。
東京近郊には、地方出身の店主がふるさとの味を再現している店や、現地から直送された食材を使用する郷土料理店が数多く存在している。その中には、まるで現地を訪れたかのような臨場感や温かみを感じられる店もあり、食事を通して地域の空気感まで伝わってくる。私はSNSや食べログサイトの口コミ、地元の人々の声をもとに候補を選び、実際に訪れて調査した。調査項目は「雰囲気」「値段」「交通の利便性」「メニューの充実度」「現地らしさ」の5つとし、それぞれの視点から魅力を評価した。
   本発表では、実際に訪れたことがある北海道、新潟県、大阪府、福岡県、沖縄県の5つの都道府県に焦点を当て、それぞれの地域を代表するお店を報告する。たとえば、近年ジンギスカンを提供する店舗は増えているが、その中でも北海道で食べるようなジンギスカンのお店を紹介する。また、各店舗の特徴や料理のこだわり、店主の思い、食材の背景などをまとめ、リーフレットとして配布する予定である。地方の食文化を身近に感じ、遠くへ行かずとも旅気分を味わえるような「食の旅体験」を届けたい。地方の魅力を発見し、遠くへ行かずとも「食」を通して地域を感じるきっかけを提供したいと考えている。

馬刺し文化のかたち
馬刺しが地域の食文化として定着した背景

   私は幼いころから、家族と食卓を囲む時間が好きだった。その中でも馬刺しは特別な料理だった。普段は出てこないけれど、お祝いの時や親戚が集まる日にだけ登場し、辛味噌の香りが漂うと、少し大人になった気がした。そんな記憶から、私は卒業研究のテーマに馬刺しを選んだ。会津地方と熊本県という二つの地域を比べ、同じ馬刺しでもなぜ違いが生まれたのかを探りたかったからだ。
   調べを進めると、会津では赤身を薄く切って辛味噌を添えるのに対し、熊本では霜降りを厚めに切り、おろししょうがやニンニクと一緒に甘口の醤油で食べるのが一般的だった。食べ方の違いには、気候や流通、歴史など地域ごとの背景が影響している。具体的には、地域の地理的条件や歴史が深く関係している。会津は海から遠い内陸にあるため、昔は魚の刺身が手に入りにくく、馬肉の方が手軽で安価だったとされる。そうした生活の中から、馬刺しが地元の味として親しまれるようになった。
   また、地域の人々が馬刺しに込める思いも異なっていた。熊本ではお祝いの席の定番料理や熊本三大名物として親しまれているのに対し、会津では地元の味として静かに受け継がれている。どちらにも共通しているのは、家族や仲間と食べる温かさ、そして誰かと分かち合う食の喜びだった。
   研究を通して私は、食べ物が単なる栄養や味の問題ではなく、人と人、土地と人をつなぐ文化そのものであると感じた。馬刺しは地域の歴史や暮らしを映す鏡のような存在であり、そこに生きる人の誇りや記憶を今に伝えている。
   これから先、食文化の形は変わっていくかもしれない。しかし、地元の味を大切に思う心は変わらないだろう。馬刺しを通して見えたのは、同じ料理でも地域によって異なる美しさがあるということ。そして、食べるという行為の中に、地域の生き方が息づいているということだった。私はこの研究を通して、食べるという日常の中にある文化の深さを知った。