令和7年度 食文化栄養学実習

向後千里ゼミ■特任教授


和を味わう食卓づくり
テーブルコーディネートを通した食育実践

   みなさんは普段の食卓でどのような器を使用していますか?普段使用している器にあまりこだわりはないという方も多いのではないでしょうか。私自身も普段自宅で使用している器は、DAISOや、Seria、3coinsなどの百均で手軽に揃えられる器ばかりで、和食器、洋食器に特にこだわりはなく器を選んでいましたが、昨年、ゼミのワークショップで、 和食器を使用したテーブルコーディネートを行ったことから和食器に興味を持ち、研究するきっかけとなりました。
   近年では、食の多様化に伴い、家庭の食卓では和・洋・中さまざまな料理が並び、器も和食器と洋食器を組み合わせて使用する家庭が増えています。しかし、和食は料理だけでなく、器や盛り付け、季節感を含めて一つの文化として成り立っており、器の素材や形、色合いは料理の美味しさや食卓全体の雰囲気に大きく影響を与えます。
   中間発表では、ゼミで取り組んでいる属人器と銘々器の調査として、2021年度の本学学生77名を対象に実施した集計の分析結果を紹介しました。和食器と洋食器のそれぞれの使用比率は和食器が8割、洋食器は2割に満たない程度でした。洋食器は日常ではあまり使用されておらず、洋食器だけを使用している人はいませんでした。多くの人が和洋の器を混在させている現状に気づきました。このことから、和食本来の美味しさや魅力をより感じてもらうためには、日常の中で和食器を積極的に取り入れる工夫が必要であると考えました。
   本研究では、器の素材・形状・色・模様といった要素が、食卓という場に与える影響を考察し、洋食器と和食器の違い、そして洋食器とは異なる和食器の魅力を探り、さらに、 「テーブルコーディネート」とは何か、について理解を深め、新たな食事提供のあり方、方法を模索していきます。現代の生活スタイルに調和する新しい和食器の可能性を提案し、和食文化の継承と発展につなげていきたいと考えています。

ふだん着のテーブルコーディネート
器の印象が食事の雰囲気に与える影響

   特別な日だけでなく、普段の食卓にも小さな幸せを感じられる瞬間があります。お皿の色がそろっていたり、花が一輪添えられていたり、好きなカップでお茶を飲んだり。ほんの少しの工夫で、いつもの食卓が少し特別に感じられることがあります。テーブルの上に広がる景色は料理だけでなく、器の形や色合い、光の差し込み方によっても変化し、そこにはその人らしい温もりが宿ります。
   私は、結婚式やクリスマスなどのイベントで美しく整えられたテーブルを見たとき、自然と心が弾んだ感覚を覚えています。場の雰囲気を味わうことは、食べることと同じくらい大切な時間なのだと思います。お気に入りの服を選ぶように、気負わず自然体で器や配置を楽しむことで、食卓もその人らしい空間に変わっていく。そんな瞬間に魅力を感じ本研究を始めました。
   本研究では、家庭の食卓を中心に季節や気分に合わせたテーブルコーディネートの在り方を探ります。テーブルコーディネートというと、特別の日やおもてなしの場を想像しがちですが、日々の食卓にこそ、その楽しさを見いだせるのではないかと考えています。器の組み合わせや並べ方を少し意識するだけで、食卓の印象は大きく変わります。色の調和や素材の質感、季節を感じる小さな工夫。そうしたひとつひとつの積み重ねが、食事をする時間そのものを穏やかで満ち足りたものにしてくれます。特別な道具や高価な器を使わなくても、手に届く範囲の中で工夫を重ねることが、暮らしを丁寧に紡ぐことにつながっていくのではないでしょうか。
   本研究を通して、テーブルコーディネートを「特別な日の準備」ではなく「毎日の暮らしの延長」として捉え直したいと考えています。日常の中に少しの彩りを加えることで、食事がより楽しく、心がほっとする時間に変わっていく。器を選ぶひととき、テーブルを整えるひと手間が日々の生活に小さな喜びをもたらす。そんな小さな豊かさを伝えたいです。