令和7年度 食文化栄養学実習

浅尾貴子ゼミ■フードマーケティング研究室


香りを楽しむ*四季のカフェメニュー開発
商品化に必要な7の条件とヒミツの舞台裏

   約1年半にわたるゼミ活動の中で、外食企業カフェ・カンパニー株式会社が運営する WIRED KITCHEN 川越アトレマルヒロ店にて、季節ごとに4回のメニュー開発に取り組みました。店舗でアルバイトをしながら現場のオペレーションを習得し、市場調査を行って得た知見を基に企画書を作成、試作・本社プレゼン・撮影・導入レクチャー・販売までを一貫して経験しました。自ら考案したメニューを実際にお客様へ提供し、反応を間近で見ることができたことは貴重な経験となりました。
   喜んでいただけるメニュー開発を目指して、香りをテーマにしました。肉メニューが中心でしたが魚介で新しい魅力を提案したいと考え、ターゲットである女性に人気の高い食材を選定して「えび×ハーブ×レモン」に設定しました。ハーブは料理の隠し味として使われることが多い食材ですが、本開発では準主役としてメニュー名やメニュー表にも打ち出し、楽しんでもらえる構成にこだわりました。春はディル、夏はバジル、秋はタイム、と、季節ごとに相性の良いハーブを選び、それぞれの個性を引き出す組み合わせを考えました。また、混ぜる・かけるなどのひと手間によって味が変化する体験型メニューを設計し、見た目・香り・食感の変化を楽しめる一皿を目指しました。
   一方で、開発現場では理想だけでなく、コストや仕込み、オペレーションなど、店舗運営上の制約が多く存在します。その中で、お客様が食べたいと感じる魅力とお店として提供できる現実の両立をどう図るかが課題でした。試行錯誤を重ねる中で、1.お客様目線/2.価値づくり/3.店舗運営目線/4.企業経営目線/5.販売促進の工夫/6.安心安全の厳守/7.コミュニケーション力──これら7の要素が商品化を支える重要な条件であると分かりました。
   活動全体を通して、メニュー開発は料理を考えるだけではなく、販売までの事務作業やレシピ作成、オペレーション設計、関係者との調整など、多くのプロセスが関わることを実感しました。そして、自分が考案したメニューが実際に販売されお客様からおいしいと言っていただけたことが、何よりの達成感でした。
   今回の発表では、外食企業の現場での経験を通して見えてきたおいしさの裏側にある7の条件と、香りを軸に季節を感じるカフェメニュー開発から得たことを紹介します。

外食企業の商品部ってどんなところ?
開発の3つのポイントと学生目線での難しさのまとめ

   外食チェーン吉野家ホールディングスの商品を開発する部署で1年以上の業務に携わり、「吉野家」と「はなまるうどん」の業務を経験しました。料理の考案・販売促進・サービス、が特にポイントになると感じたので、主にこの3つについてまとめることにしました。
   料理の考案では、まず前年までの実績を踏まえて販売時期を年単位で計画し、概要を考えます。常に人気店や競合店の市場調査を行い、持っている知識をもとに商品を具体化します。同時に複数の開発を並行して行うイメージです。ある程度の条件が揃ったら食材を手配し、レシピ作成と原価計算を行いつつ、店舗作業も考慮して試作します。社内で数回のプレゼンを行い、試作・改善を繰り返します。最終的には役員が商品化の可否を決定します。重要なことは、お客様の期待と満足しているかを想像することと、経営や運営の目線を持つことです。
   続いて販売促進についてです。吉野家のCM撮影やメニュー表用の料理撮影にも参加しました。例えばCMでは、15秒の動画を作るために5時間ほどかけて撮影します。器の角度や湯気の演出、具材のバランスや光など細かく調整し何度も行う根気のいる作業です。ネーミングや撮影画像の工夫なども経験しました。
   3つ目に、サービスです。5月から吉野家の新料亭業態でもアルバイトをしており、お客様の表情や仕草をチェックしながら最高のおもてなしになるよう心がけています。料理を提供するときは、加熱加減や味の濃さの好みが異なるなど個人差も考慮します。通常の店舗ではスピードが優先になりますが、どちらもお客様を思いやる大切さを実感しました。
   担当企業以外にも商品開発の経験をしました。コープデリ連合会のスマートミール基準に沿ったお弁当提案では、企画書作成とレシピ考案、栄養価計算、試作を行いました。坂戸市の野菜動画作成では、販売促進の手法を工夫する経験ができました。
   発表では、商品開発の難しさや学生のうちに習慣にしたいことなど、より具体的にお話しします!

カフェメニュー開発と価値を高める工夫のまとめ
さつまいもとフルーツの商品化やデザインと表現の事例

   カフェ・カンパニーが運営する「フタバフルーツパーラー新宿マルイ本館店」でのメニュー開発をはじめ、「コープデリ」のお弁当開発におけるパッケージデザイン、「女子栄養大学×JAいるま野×坂戸市」のさかど野菜レシピ動画作成などに取り組み、複数の角度から食の付加価値づくりに挑戦しました。
   外食企業でのメニュー開発では、幼い頃から大好きなさつまいもの魅力を多くの人に届けたいという想いから、”さつまいも×季節フルーツ”をテーマにメニューを開発しました。その中で、盛り付けと栄養訴求という2つの軸から、“かわいくておいしい、でも健康にもいい”を目指したレシピづくりに取り組み、付加価値づくりを意識して実習を進めてきました。盛り付けにおいては、見た目の華やかさでカフェらしい魅力を表現できるよう工夫しました。栄養面では、春は食物繊維、夏はたんぱく質、秋は鉄分、冬は食物繊維といった栄養素に注目し、さらにビタミンCと組み合わせることで、プラスαで健康イメージをアピールできるよう設計しました。
   コープデリのお弁当パッケージデザインでは、売り場で映える彩りを意識するとともに、中身が直感的に伝わる表現を目指しました。キャプションにはシズルワードを用い、お客様にポジティブに響くような付加価値の演出を心がけました。
   また、さかど野菜のレシピ動画作成では、旬の地元野菜を購入するきっかけにつなげることを意識しました。野菜の特徴を活かしつつ、少ない材料と手順で真似しやすいレシピとし、さらに動画のタイトルや編集にもシズルワードを盛り込み、魅力がより伝わる構成を工夫することで、付加価値づくりを目指しました。
   このように、ゼミ活動を通じて幅広く食関連の業務に携わり、それぞれの場面に最適な付加価値の表現方法を模索してきました。メニュー開発は、料理を考案するだけではなく、売り方も考える必要があります。さらに、原価を調整したり店舗作業を考慮したわかりやすいオペレーション設計が必要であることも実感しました。難しさもありましたが、販売後にお客様の反応を直接見ることができたことは大きな達成感となり、人生における貴重な体験となりました。成長を重ねた1年半の活動の集大成を、本発表でご報告いたします!