令和2年度 食文化栄養学実習

山下史郎ゼミ■フードマーケティング研究室


食べる手紙
手紙に味を付けてみたい。


 あなたにとって印象に残っている手紙はありますか。それはどんな味がすると思いますか。
 この研究は、ある時「手紙を食べたい」と思ったことがきっかけで始まりました。私は、もし手紙に味が付いていたら、より一層手紙に込められた想いを受け取ることができるのではないかと考えました。
 最近はSNS の普及によりLINEやメールでのやりとりが当たり前です。実際「普段から手紙を書きますか」という質問に対して91.7%の人はいいえと回答しました。では、手紙の良さとは何なのでしょうか。それは、書き手の想いが強く伝わることや書き手と読み手の間に時差が生まれることだと考えます。
 私はこのような手紙の要素をふまえて「食べる手紙」を制作することにしました。「食べる手紙」とは、手紙とお菓子(または料理)がリンクしているものを指します。感謝の気持ちを表す手紙ならほんのり甘い味のお菓子にしたり、申し訳なさを含む手紙なら甘塩っぱい味のお菓子にしたり。しかし、これはあくまで私の場合であり、書き手によっても送り相手によっても味付けは変わってきます。このように感情に対する味は人によって違いますが、「食べる手紙」を私以外の人でも作れるようにガイドブックを作成しました。実際の手紙をもとにお菓子を作り、そのときの改善点や気づきをふまえたものです。例えば「怒りの感情を含む手紙の味を辛くしたり、美味しくないものにしたりするのは禁止」というものです。あくまでお菓子(料理)は美味しく食べてもらうものであり、手紙も食も“ 相手のことを想う” ことが根底にあると考えているからです。
 食べてなくなるからこそ伝えられる想いがあるのかもしれないし、より相手の記憶にとどめておくことができるのかも知れません。この研究が誰かの手紙を書くきっかけになりますように。



「食べ合わせ」再考
無駄なく栄養素を摂る方法


 皆さんは、食材の食べ合わせについて考えたことはありますか。「食べ合わせ」と聞くと、給食で牛乳とみかんが一緒に出てきて食べ合わせが悪いと感じたり、鰻と梅干しは食べ合わせが悪いと聞いたことがあるなど様々な言い伝えがありますが、実際にそれが正しいのかまで考える人は少ないと思います。私は、よく卵かけ納豆ご飯を食べていて、他にも納豆の食べ方がないかと調べたら、「生卵と納豆は食べ合わせが悪く、納豆の栄養素を取り損ねている。」という記事を見つけたことをきっかけに、「食べ合わせ」について改めて深く調べようと思いました。
 昔から言われている鰻と梅干しの食べ合わせには、栄養学的根拠はなく、実際に鰻と梅干しを一緒に食べる実験ではお腹を壊した人は居なかったそうです。他にも栄養学的根拠がなくても言い伝えられているものがありますが、発表では様々な食べ合わせについてより効率よく栄養素を摂る食べ方を栄養学的根拠を踏まえて提案していきます。
 例えば、納豆には、ビオチンという美肌効果のあるビタミンBが含まれます。生卵に含まれるアビジンというタンパク質がそれと強く結合する性質があるため、吸収を妨げてしまいます。この場合、アビジンが含まれない卵黄のみを使ったり、熱に弱い事から加熱をしたりすることで、栄養素を無駄なく摂ることができます。この他にも、きゅうりとトマトの組み合わせやわかめとねぎの組み合わせなど、普段当たり前に食べている組み合わせが食べ方によっては栄養素を取り損ねている可能性があるのです。このような「食べ合わせ」についてより効率よく栄養素を摂る方法をイラストとともにまとめます。みなさんも食べるなら栄養素を無駄なく摂りたいと思いませんか。



惚れ薬開発計画
料理で惚れさせる方法


 みなさんが考える“惚れ薬”とはいったいどんなものでしょう?小瓶に入った液体の薬?それとも風邪をひいた時に飲むような錠剤または粉状のもの?そしてこれらをこっそりの惚れさせたい相手に服用させること?こういったイメージを持つ人がほとんどでしょう。しかし、私が考える“惚れ薬”とはそんな怪しい薬ではありません。そもそもそのような薬が存在するならば飛ぶように売れていることでしょう。現実に“惚れ薬”と呼ばれる薬が存在しないのはどうしてなのでしょうか。
 一方で、“惚れ薬”が欲しいという需要は一定数存在しています。各種の調査で「恋愛はしたいけどできない」という現代の若者のニーズが分かっています。それを解決するひとつの手段として“ 惚れ薬” ばあればとても効果的だと考えます。
 私が“惚れ薬”にこだわるのはなぜでしょう。今まで片思いをしたこともあり、お互いの気持ちが離れそうになったこともあり、恋愛は難しいということが分かりました。好きな人に好きになってもらうということはとても難しいことです。そんなとき“惚れ薬があれば”と思いました。
 今まで惚れ薬効果のある食材や研究について調べてきました。多くの人がセクシーや色っぽいという意味でフェロモンという言葉を使います。しかしフェロモンとは動物の体外に信号として放出される化学物質のことです。人間にはフェロモンというものはありません。その役割をしているのが匂いと言われています。これまで、匂いやフェロモン、媚薬として使われていた食材などを調べてきました。そこで調べてきた食材を用いて「料理」としての惚れ薬を作りたいと思いました。
 今回の発表では私が考えた料理としての惚れ薬の作り方とその効果について説明します。



アニメシ!
アニメーションにおける食表現の研究


 自分の顔より大きなお肉にかぶりつく。腕一杯のばしてもまだまだのびるチーズ。
 アニメに登場する美味しそうな料理を見て思わずお腹を空かせてしまう、そんな経験をしたことのある人は多いのではないでしょうか。私が特に印象に残ったのが宮崎駿監督「崖の上のポニョ」のラーメンを食べるシーンです。具材はハム、卵、ネギとシンプルながら油の浮いたスープとふたを開けた時の湯気で、ラーメンの香りが伝わってくるようです。宮崎監督はほうれん草がのったラーメンを描こうとしましたが、うまく描けないためネギになったそうです。また、ラーメンの上にのっている2枚のハムのうちよりスープに接して熱くなった下のハムをポニョがとるよう修正しました。一シーンへのこだわりが感じられ大変面白いです。アニメは絵と音で表現されるもので、料理の味も香りも分かりませんし実写動画に比べてもその再現性は低くなります。それなのになぜ美味しそうに見えるのか?という点に注目しました。アニメーションで描かれる「ラーメン」のシーンを参考に見ていきます。
 アニメで料理を美味しく見せるには<料理の外観><料理の温度感><食べるシチュエーション><料理に対する言及><キャラクターのリアクション><音>の6 つが必要だと仮定しました。さらに冒頭に挙げたようなアニメーション的表現が重要であると考えます。調査資料としてアニメのラーメンが登場するシーンを100以上集めデータベース化しました。それをもとに比較・分析するとアニメっぽい絵もあればリアルのものに近い絵もあります。他にも湯気の表現の仕方など作品によって様々な違いが見られました。アニメっぽい絵とリアルに近い絵はどちらがより美味しさに繋がるのか、湯気の有無は?など栄大生へのアンケート結果を含め「美味しく感じる」アニメーションの食表現についてその要因を考えます。



音楽を飲み物で味わう
楽曲をイメージしたドリンク制作


 自宅で過ごす時間が増え、私は家での時間をより豊かに楽しくするコンテンツを新たに提案したいと考えました。そこで、「飲み物」と「音楽」の関係性に着目することにしました。飲み物は人々の生活の一部でもあり、音楽は年代を超えて多くの人が楽しめるものです。それらを組み合わせ「楽曲をイメージしたドリンク」という日常での音楽鑑賞時間をより楽しめるようなコンテンツを制作したいと考えました。
 「楽曲をイメージしたドリンク」は、楽曲の様々な要素を飲み物の色・グラデーション・フレーバー・グラス等で表現することによって、「聴いて」楽しむ音楽を「飲んで」舌でも味わい、曲の世界感を五感で楽しむことができます。また、目に見えない曲を見た目や味覚などで具現化することで、曲の情景や世界観をより深く感じ想像することができます。
 前回は、「音楽と飲み物について」のアンケート調査を50人に行いその結果を参考に、特に人気であったJPOPの中から楽曲4 曲を選び、それらの曲をイメージしたドリンクをそれぞれ制作しました。また、制作したものを評価してもらい、楽曲をドリンクで表現する方法の改善点を見つけることができました。
 今回は、それらの改善点を取り入れた新たなドリンクを提案します。楽曲は、アンケートでJPOPの次に人気であった洋楽から複数曲選択し、発表会の時期に合わせホットドリンクとして制作しました。例えば、温かみのある声は「寒い日に飲みたくなるようなカフェラテ」、さわやかな効果音の入る曲は「ハーブティー」で表現しました。飲み物を制作する際にはより曲を表現した見た目にするために、素材や注ぎ方にこだわり、飲み物の質量も糖分を加えることで調整し、層を作るなどの工夫をしました。このような、これからの家で過ごす時間を今までより少しだけ素敵に過ごせる、そんなドリンクを提案します。



お菓子の処方箋
カラダに嬉しいお菓子の提案


 立った時クラッとしたり、手先が冷たくなったなど経験はありますか?
 このような症状が出た時どのような対応をしていますか。医薬品やサプリメントを購入している人もいるかと思います。ですが私は、薬やサプリメントの服用に抵抗を感じています。その際行う方法の一つが食事療法です。薬を飲むほどではない、病院へ行くほどではない。だけど少しでも症状を改善したい!この時大好きなお菓子で解決できたらいいなと思い、この研究を始めました。
 貧血は鉄分不足、冷え性は血流の悪化などその原因のほとんどは「栄養素不足」によるもの。現在市場には機能性表示食品や栄養補助食品のお菓子があります。ですがその多くは子供向けや高齢者向けの商品です。もっと女子大学生が手に取りやすい商品、ショップを提案します。店舗調査を行った結果、漢方アイスクリームなどを扱っている店舗が存在していました。漢方にも甘いものや私たちに馴染みのある漢方があり、漢方とお菓子の組み合わせもいいことがわかりました。お菓子というと不健康な印象を持っている人が多いのではないかと思います。ですがお菓子の食材にもたくさんの栄養素、健康効果があります。
お菓子は過剰摂取すると体に毒ですが、適度な量は薬にもなります。20代女子大学生を対象としたアンケートで「薬やサプリメントに抵抗ある」と回答した人が多かった「肩こり」「頭痛」「貧血」「不眠症」「冷え性」の症状を改善するお菓子を提案します。同じ症状でも原因が異なっているため、食材や分量、味を試行錯誤し、実際に製作、試食を行いました。また診断シートを作成し、自分の症状の原因にあったお菓子の処方ができるようにしました。もちろん、自分でカスタマイズすることも可能です。
 体調不良でお悩みのあなた、もしかしたらお菓子で解決できるかもしれませんね!



フード・イミテーション・グッズ
グッズ化した食べ物の新たな価値


 皆さんは食べ物をモチーフにしたグッズを手に取ったことはありますか?
 私が小学生の頃は、食べ物の形をした消しゴムやお菓子の香りが付いているペンが流行り、休み時間に友人たちと見せ合ったり、交換したりして、一生懸命集めていたのを思い出します。現在では、食品パッケージがプリントされたポーチや、にんじん、餃子など、食べ物そのものの形がそっくりそのまま再現された筆箱を実際に購入したり、目にしたりする機会が増えました。昔に比べて、食べ物をモチーフにしたグッズは増えていて、段々と需要が高まっているように思います。それではなぜ、私たちは食べ物をモチーフにしたグッズが欲しくなってしまうのでしょうか?食べ物グッズを購入する人々は、このような商品に美味しさではなくどんな魅力を感じて購入に至るのか疑問を抱いたため、「食べ物グッズが多くの人々に愛されている理由」を掘り下げて考えることにしました。
 前回の報告ではヒアリング結果を元に、食べ物グッズを購入する理由について考察しました。人々にとって食べることは日常的であるため親しみやすく、共通認識を持っていることから、食べ物グッズは「コミュニケーションツール」としての価値があるのではないかと考えました。日頃から食べ物を購入するとき、美味さや栄養機能が購入のきっかけになることが多いと考えます。しかし、食べ物グッズに求めているのは、それ以外の新しい価値です。今回はその新しい価値を探るため、キーホルダーやポーチなど様々なグッズの比較を行い、年代別、カテゴリー別にまとめ、食べ物グッズの魅力を深掘りしていきます。また、食べ物をモチーフにしたグッズの価値を追求し、仮説を基に商品提案を行います。食べ物という枠を超えて食の新たな可能性を生み出し、新たなポジションを確立している食べ物グッズの魅力に迫ります。



『食べる実況』を観てしまう理由
~素人食ビデオの魅力~


 皆さんは『食べる実況』を観たことがありますか?『食べる実況』とは、YouTubeで自分が料理を作ったり、食べているシーンを動画に撮り投稿しているコンテンツのことをいいます。
 私が『食べる実況』動画を観るきっかけになったのは、大食いを題材にしたバラエティ番組でした。全国の大食いの猛者たちが大食いで競い合う模様が放送され、嘘のようにお皿から料理がなくなる光景は見ていて圧巻です。そこから、類似したコンテンツを調べているうちに『食べる実況』のことを知りました。
 実況者は無名の人が多いです。しかし、中には何十万人というチャンネル登録者数を持ち、まるで芸能人のような人気を誇る方もいました。ではなぜ、私達は一般人同然の人が、ただ食べているだけの動画を観てしまうのでしょうか?  一般人同然の実況者がなぜ、インターネット上でそこまで人気を出しているのかに疑問を抱きました。そこで、「『食べる実況』を観てしまう理由」について考えることにしました。
 前回の中間報告では、主に二つのことを発表しました。一つは、『食べる実況』動画は主に、「大食い」「料理を作って食べる」「ASMR」の三つのカテゴリーに分けられました。もう一つは、それぞれの特徴やドラマ、バラエティ番組との魅力の違いについて調べました。ドラマやテレビ番組のプロが作ったものと比べたところ、素人感が視聴者に親近感を持たせることや、食べ始めから食べ終わりまでが観れること、いつでも自分の見たい時に観れることなどが考えられました。今回は、視聴者が具体的に『食べる実況』の、どこを観て楽しんでいるのかを深堀していきます。
 そして、食べる実況の魅力をわかりやすく理解してもらうために、小説の形にしてまとめます。