令和2年度 食文化栄養学実習

根岸由紀子ゼミ■栄養科学研究所


自家製酵母パンの可能性


 近年個人の趣味または娯楽の一種として家庭でもパンを焼く人が増え、出版物も多く見かけます。また今年度の未曽有の事態コロナ禍の影響もあり自宅で多くの時間を過ごす人が増えたことにより、パン作りニーズの拡大からSNSを通じて「手作りパン」を作る人を多く見かけるようになりました。自宅でパンを作る人が増えているなか、私は家庭でお店のパンのような憧れのパンを作ることが出来たら!という想いからパンを作る際に必要な酵母菌を自分の手で一から育てる「自家製酵母」に着目しました。
 天然酵母の定義は自然界に生息している野生の酵母菌を指し、果実や穀物で自然に培養された天然酵母には、様々な種類があり、それぞれに特性や個性的な味わいが生まれます。しかし自宅で育てる自家製酵母は、市販のドライイーストと比べ発酵力が弱く、ドライイーストを用いたパンよりも発酵するまでに時間がかかってしまう難点もありますが、忙しい日々や雑念を忘れて没頭することができる落ち着いた時間を過ごすことができます。また自分で一から時間をかけて手塩に掛け作ったからこそパンに愛着も沸き、様々な手ごたえ、達成感が味わえるのではないでしょうか。
 今回の発表ではルヴァン種、小麦またはライ麦から起こす発酵種。中間報告にも使用したヨーグルトを使用してヨーグルトの乳酸菌が小麦または麦についている酵母を増やしやすい環境を作るということや乳酸菌の効果でほかの菌の繁殖を抑えカビが生えにくいことを利用し比較的簡単にルヴァン種のパンが作れるレシピを提案します。これを機会に自宅で一から酵母菌を育てパンを作ってみてはいかがでしょうか?手作りの楽しさは、売っているものには出せない味を作れることもあるため自家製酵母パンの可能性や酵母の奥深さや魅力に興味を持っていただけたら幸いです。



さつまいもを知る
川越老舗和菓子屋への商品提案と品種による加工の仕方


 料理にもお菓子にも使えて、日本に留まらす海外でも人気のあるさつまいも。そんなさつまいもについて、2つの研究を行いました。
 1つ目は、川越を拠点とする老舗和菓子屋紋蔵庵へさつまいもを使った商品提案を行っています。実際に商品提案を行ってみると、予想以上に多くの仕事があることがわかりました。1つの商品を提案するためにレシピ作成、試作、撮影等の作業があり、その中でも試作は、思うようにできあがらず失敗を繰り返しながら何度も行いました。更に提供するまでの調理工程、日持ち、衛生面と考えなければならないことがたくさんあります。また、コミュニケーション能力が必要なことも実感しました。1人の力だけではここまで行って来られなかったと思います。先生やゼミ生、紋蔵庵の方との意見交換はとても大事です。今回商品提案に携われたことは、新たなスキルも身につけられとても貴重な経験ができたと思います。
 2つ目は、品種に向く加工方法です。さつまいもの品種と言えば「安納芋」「紅はるか」などが有名ですが、「ジェイレッド」、「アヤムラサキ」、「コガネマサリ」これらの名前も全てさつまいもの品種名で、全部で約60品種存在し、色も白、オレンジ、紫等があります。さつまいもは品種ごとに個性が強くあり、ほくほくしていて料理に向いているものや、まるで1つのスイーツのように甘くねっとりした食感のもなど様々です。その中で今回は色別にいくつかのさつまいもを用意し、品種による加工の仕方、食べ方を考えてみました。加工することによって色や食感の変化を結果としてまとめ発表をします。
 今回の研究を通して、さつまいもの魅力や可能性を感じていただき、今後さつまいもを食べる際に役立てていただけるように、また、商品提案にも興味を持っていただけるように伝えられたらと思います。



毎日おいも
さつまいも100g/ 日を達成するための菓子提案


 私の研究の目的は日本人のいも類摂取目安100g/日を達成することである。今日の日本人の1日の平均いも摂取率は64gといわれおり、食品群別摂取量の目安の100g/日より36gも少ないことが分かった。不足する原因は2つ考えられる。1つ目は、いも類の調理はお米やパンに比べ時間がかかり、面倒だという意識があること。2つ目は、忙しい家庭が増え、それに伴い調理時間の短縮が求められており、手間のかかる調理が厳しいことである。中間報告では、1日100gを目指し、日常の食事にさつまいもを手軽に取り入れる料理と調理法を提案した。そこで最終発表では、手軽に作ることが出来るさつまいと栄養バランスの良いすいおうの葉茎を使った菓子も提案しようと思う。そして、考えた菓子を多くの人に提供出来たらより多くの人々がいも類1日100gを達成できると考えたため、さつまいもの菓子専門店である川越の紋蔵庵さんの協力を得て考えた菓子の提案もした。私が提案したさつまいもの菓子の欠かせない条件は以下の2つである。1つ目は、1袋100g以上であること。2つ目は、すいおうを使っていること。この条件を満たすため、さつまいもとサツマイモの葉茎である栄養豊富なすいおうを使ったスイートポテトを提案した。
<材料>・さつまいも(坂出金時)250g・甜菜糖50g・卵黄1個・バター30g・すいおう(粉末)15g・生クリーム150ml<作り方>1、さつまいもの皮を厚くむき、輪切りにし、電子レンジ600Wで7分加熱する。2、熱いうちにマッシャーでつぶし、残りの材料を合わせるうら濾す。3、鍋に移し、余分な水分を飛ばす。4、好きな形に成形する。5、200℃の予熱をしたオーブンに入れ、180℃で5分焼く。6、焼いている間に、ホワイトチョコレートを湯煎で溶かしておく。7、6に5をつける。



自宅の生米で作る軽食
小麦アレルギーの人のためのレシピ


 突然だが、もし自分が小麦で作られた食品を食べられなくなったら、どういう気持ちになるのかイメージしてほしい。恐らく多くの人が「なぜ自分だけ食べられないのだろう。自分も他の人と同じようなものを食べたい」と考えるだろう。このような悩みを抱いている人は大勢いる。それを解決する為にこの実習では、自宅にある生米を使って小麦アレルギーの人でも食べられる軽食のレシピを提案することにした。米粉で作った方が良いのではと疑問を持つ人がいるだろう。だが、市販の米粉は強力粉や薄力粉に比べて量が少ないことと、使用後の余った量の処理に困るなどの問題点が出てしまう。
 その点、生米では必要量だけ作り出せる為余らせてしまう心配がないことや、一度に買える米の量が多い為買いに行く手間が省ける。そして、普段食べ慣れている米なら安心して食べられる利点がある。
 米粉は小麦粉と違い、グルテンがない為膨らみにくい欠点があり、利用する幅が限られてしまう。
 しかし、それを覆せるように、学園内留学で培った知識と技術でレシピを提案する。
 具体的に、どのように作るのか少しだけ紹介すると、レシピで使われている共通の物は二つある。
 まず一つ目は、米である。そのままの米を使うと硬くて加工できないため、1~2日間浸水させておく。ここで大切なのは、水を変えておくことである。
 二つ目は、フードプロセッサー(ミキサーでも可)である。この器具を使用することで、浸水した米を砕いて様々なレシピに対応させてきた。以上の二点を使って食品を作り出すことにした。
 12月の発表では、中間発表で例として挙げていたサンドイッチやケーキなど、普段から食べる機会が多い軽食の作り方を紹介する。



野菜の食べられる廃棄部位について


 野菜を調理する際に種やわた、皮を取り除いて捨ててしまう人は少なくないだろう。それらの部位は七訂食品成分表でも廃棄部位(「通常の食習慣において廃棄される部分」) として扱われている。( 香川、2017、P3) しかしそれらは食べられないわけではない。食べたからといって健康を害することはなく、むしろ普段食べている部位よりも栄養価が高い部位があるにも関わらず捨ててしまうのは非常にもったいない。そのため廃棄部位が食べられることを周知し、自然からの恵みを最大限に活用してもらうこと、ひいては食品ロスの削減を目的として実習に取り組んだ。
 まず始めに廃棄部位とされる野菜の部位およびその部位の栄養成分と特徴を調べた。それにより普段食べている部位よりも甘みがある、苦味成分を含まない等の特徴を持つ部位があることが分かった。また、廃棄部位とされている部位でも国や地域によっては食べるのが当たり前のところもあることが分かった。
 次に廃棄部位を活用してもらうため、家庭で作れる廃棄部位を使った料理レシピの考案および作成を行った。その際には手間と時間をさほどかけないことを意識し、実践してもらいやすくした。考案したレシピはインスタグラムにて公開している。また、川島町のブロッコリー農家様ご協力のもと、通常は出荷される前に取り除かれるブロッコリーの葉を乾燥粉末にしたものを用いた商品考案も行った。
 「いくら栄養があって味が良くても、今まで捨てていたものを食べることに抵抗や違和感を抱く」という声が中間報告会では複数寄せられ、廃棄部位の利用を高めるのは難しいと改めて感じた。しかしかつて廃棄部位だった鮪のトロ、鳥獣肉の内臓が現在では食べるのが一般化していることから、野菜の廃棄部位も廃棄されないのが常になる可能性があると考える。