令和2年度 食文化栄養学実習

竹内由紀子ゼミ■食文化研究室


禅がある暮らし


 食事は生命を繋ぐだけの行為でなく、精神面にも大きな役割がある。食と精神のつながりがわかると食事をすることがさらに楽しく有意義なものになると考えた。精進料理を研究テーマにしのは、実際に精進料理を食べる機会があり、その高度な調理技術による色鮮やかな料理に感動したからだ。
 精進料理は、鎌倉時代に南宋で禅宗を学んだ留学僧によって日本に伝えられた。高度な調理加工技術をもたらし、後に麺類や羊羹、饅頭などの菓子類へも発展した。料理だけでなく、栄西が臨済宗とともに伝えた喫茶文化は、禅林(禅宗寺院)を中心として定着し茶道に発展した。  前回は、禅における食事の考え方や精進料理と茶道の歴史に注目して研究を進めた。食材を調理し食すということは、食材に対する敬意を持ち、整理整頓を心がけ道具を大切にし、食べる人の立場になって調理することが大切だとわかった。また、禅の考え方が溶け込む茶道では、心得にも相手のことを思いやる気持ちがおおいに反映されている。以上のことから、我々の日常にも禅の考え方が反映されているのではないかと考え研究を進めた。
 今回の発表では、食事の作法や食事のしつらえなど私たちの身近な禅からの影響について研究を深めた。例えば、食事をする前に「いただきます」、食後には「ごちそうさま」と言う。「いただきます」は、敬意を表する動作から生まれた言葉だ。食材の「命」を自分の「命」にすることへの感謝や調理した人への感謝や敬意を表す言葉だ。「ごちそうさま」の由来は、馬で走り回って用意することから「馳走」という言葉ができ、やがて食事などでもてなすことを指し、感謝の意味で「御」や「様」がついて「ごちそうさま」という言葉になった。さらに、食事の作法や食事のしつらえなどを禅の考え方から分析する。



日本の伝統しょく文化
~伝統色から伝統食を考える~


 私は「食」と同じくらい「色」について興味がある。「食」と「色」を組み合わせた研究がしたいと思い、このテーマに決めた。世の中にはさまざまな色があるが、日本の伝統色には食べものに由来する名前の色が存在する。私は色の名前から、人々の暮らしについて見えてくるものがあるのではないかと考えており、日本の色と食文化にどのような繋がりがあるのか分析することを本研究は目的としている。
 「日本の伝統色」とは日本人の色彩感覚に基づいた色であり、古代にはじまり昭和中期くらいに出典があるものをいう。日本の伝統色には植物や動物、自然現象からとられたものが多くあり、食に関係している色も存在する。たとえば、葡萄色や小豆色などのように食べものの名前がついた色が存在している。
 前回は、色の歴史に注目して研究を進めた。まず飛鳥・奈良時代では冠の色や服色の制度がつくられ、色がステータス・シンボルとして使われていた。地位の上下を色であらわしたことから、色彩にたいする関心が高まっていたことがわかった。次に平安・鎌倉・室町・江戸の各時代の色を示した。たとえば、平安時代では紫系の華やかな色を「めでたき色」として好んでいた。それにたいし、鎌倉時代では武士の世になり、男性的な藍染めの色が主流になった。そして、室町時代では茶色系の色を染める染料に、栗などの樹皮・胡桃の実などで煎じた液体を用いて染めていた。また、江戸時代では茶色を「粋な色」として用いていた。これらのことから、各時代ごとに流行した色や染料技術は異なることが確認できた。それと同時に、日本人は遠い昔から色を生活や文化のなかに活用していたことがわかった。
 前回の中間報告では、日本の歴史と色の関連について発表した。今回の発表では、各色名が成立した時代的特徴を把握し、日本の伝統色と食文化との関連を報告したい。"



京都舞妓の食文化


 現代において、ファストフード店やコンビニエンスストアなどを利用することは珍しいことではない。しかし、これらの利用を制限されている存在を知った。それが「舞妓」である。舞妓は独自の食文化を持つと言える。普段舞妓の姿ではファストフード店やコンビニエンスストアなどを利用することができない。そのため、彼女たちの食生活は共同生活をしている「屋形」での食事が中心となる。また、食文化のみならず、携帯電話を所持していない、所持金をほとんど持たないなど、現代においても独自の文化で生活していることを知り、関心を持った。実習のテーマはこの舞妓の食文化について実態を調べることとした。
 前回の報告会では、まず舞妓とはどのような存在であるかについて示した。「舞妓」の意味や舞妓になるまでの過程、舞妓・芸妓の姉妹制度について紹介した。また、舞妓の食文化として「ご飯食べ」について注目し、「ご飯食べ」に関するエピソードを紹介した。「ご飯食べ」とは、常連客である旦那衆がひいきにしている芸舞妓を連れて食事に出ることをいう。日々忙しく過ごす芸舞妓たちに息抜きをさせてあげたいという、旦那衆の心意気である。お客とご飯食べに行くことは、舞妓たちにとっては仕事でもあり、時には息抜きにもなる。舞妓たちが花街でのキャリアを築くうえで大切な仕組みなのである。
 このように、舞妓は仕事においても独特な食文化の中で過ごしていることがわかった。同時に、舞妓には仕事としての時間とプライベートな時間のそれぞれの時間で、独特な食文化があることに気づいた。
 今回の発表会では、この点を踏まえて、舞妓たちの仕事としての食文化とプライベートな時間での食文化、2つの視点から舞妓の食文化の実態を報告する。



日本の食文化を日本に広めたい


 私は様々な「食」について学んできたがその中でもいちばん日本の「食」が好きだ。日本の食文化は他にはない独自な文化が展開しており、季節・旬を生かした素材選択や調理方法など世界に誇るべき日本の食文化を衰退させてはいけないと考えている。しかし海外向けのPR が多く、日本の国内では十分に行われていないように感じていた。そこで、日本の食文化を日本に広めたいと考えた。
 現在まで四つのことについて調べてきた。一つ目は、日本の食文化をPR している機関・組織にはどのようなものがありどのような活動をしているのかについてだ。日本の食文化をPR している組織として「一般社団法人和食文化国民会議」や「NPO 法人日本食育協会」などが挙げられる。二つ目は、私たちが教育制度の中で日本の食文化を学ぶ機会にはどのようなものがあるのかを確認した。保育所、幼稚園、小学校から高校まで日常生活や授業などを通して食文化の教育を行っていることがわかった。三つ目は、国が日本の食文化に対してどのような政策を実施しているのかについて調べた。文化庁では食文化担当の参事官の新設や「日本博」(日本の文化を国内外に情報発信し次世代に伝えていく展示や体験などが行われる。)の運営を行っていた。農林水産省では郷土料理を紹介する「うちの郷土料理」のHP 運営を行っていた。文部科学省では「食に関する指導の手引き」の作成を行っている。四つ目は、日本人が食文化についてどう思っているか様々な報告書を確認した。こうした報告書からは食について関心を持っている人が多く、日本の食文化を次の世代に伝えていきたいと思っている人が多いことがわかった。しかし、実際に伝えている人は多くないということもわかった。この研究を通して、日本の食文化のPR は国内向けにもされていることがわかった。しかし認知度が低いため知ってもらうことから始めるのが良いと考えた。



アジアの朝ごはん
朝の外食事情


 私は海外の食文化に興味がある。アジア地域にも何度か訪れている。中でもベトナムが好きで三回訪れた。旅行をした際に、朝から賑やかな屋台がたくさん並び、独特のにおいと現地の言葉が飛び交っていた。日本では見たことのない光景を見たとき私は、「なんだここはー!!」とワクワクした。そこから同じアジアであるのに日本とは全く違う朝ごはんの文化に興味を持った。今回は、私が訪れたことのある台湾やベトナムに注目して検討する。
 「ホットペッパーグルメ外食総研」の調査によると、日本では朝から外食する人は約3割だという(全国20~59歳男女、期間2019年10月21,22日、有効回答数1032件)。一方台湾の業界団体の調査によると、台湾人の朝食の外食率は8割以上で、三食外食という人も少なくない(毎日新聞「日本発・世界のヒット商品」2013/9/22)。ベトナムも朝食を外食する食文化がある。ベトナムは朝が早く、6時には多くの屋台が開店する。ベトナムの気候は北部と南部によって違うが、日本に比べるとかなり気温が高く、一年を通して1 日の最高気温が30℃ほどである地域が多い。そのため、やるべき仕事は午前中の涼しい時間や、夕方からやろうという習慣がある。ベトナムの朝食を外食する習慣は長年に渡って培われたもので、要因を指摘することは簡単ではない。要因の一部は朝の活動開始時間がベトナム社会全体で早く、調理している余裕がないことが挙げられる。フォーやバインミーなどベトナム料理は日本人の口に合うものが多い。私は初めてベトナムに訪れたときはホテルで朝ごはんを食べたが、2度目に訪れたときは「朝食を楽しまないともったいない」と思い、早起きしてフォーを食べに行った。旅行に行けるようになったときはまだ体験のしたことのないアジアの朝食文化を体験したい。



韓国と日本のひとりご飯
日韓文化の違い


 わたしは、韓国が好きで以前から何度も訪れている。韓国は、日本と同じ東アジアでありながら、似て非なる食文化に非常に興味を持っていた。さて、わたしは年々ひとりで食事をする機会が増えている。日本でひとりご飯は珍しいことではなく、定着している。現在の日本は、ひとりで食事する人が多い国だと思う。ひとりで食事ができる場所がとても多く、カフェから焼肉までさまざまなジャンルをひとりで食べることが可能である。いっぽう、韓国では、ひとりで食事する習慣があまり無いように感じた。
 2019年8月に、現地調査を行った。市場や簡易的なカフェでは、ひとりで過ごしている人を見かけたが、しっかり食事する場所ではやはりひとりで食事している人はあまり見かけなかった。焼肉やサムギョプサルなどは1人前からは注文出来ない店が多い。ひとりでの入店を断っている店もあった。新大久保での調査でも、焼肉や鍋物は2人前から注文可能であった。韓国ドラマの食シーンに注目しても、集団で食事をするシーンが非常に多く、ひとりの食シーンは、ひとりであることを際立たせる演出がされていた。一方で、近年ひとりご飯は増えつつあるという。従来ひとりご飯の印象はあまり良くないものであったが、現在では見かけることも珍しくなくなりつつある。日本の「孤独のグルメ」の人気、自宅で“モッパン”(食べると放送を掛け合わせた単語)と言われるYouTube を見ながら食べるなど、“おひとりさま”を肯定する社会の流れが出来はじめている。
 韓国の飲食店では、基本的にひとりで食べることを想定していないことが分かったが、コロナ禍など今日の背景を考えると、韓国でもひとりご飯はもっと当たり前になっていくのではないか。



海外にルーツを持つ子どもの日本における食事情
日本の給食と海外文化


 私は、両親またはそのどちらか一方が外国出身者の子ども、いわゆる「海外にルーツを持つ子どもたち」が学校給食や日常生活、食育などの場面で、戸惑ったことや困ったことなどを知りたいと思い、研究のテーマにした。先行研究を探索しつつ、実際に海外にルーツを持つ子どもに対してインタビューしていく計画であった。しかし、コロナウイルスの感染拡大でこうしたことは困難になり、学校側や区の教育委員会等にもアプローチする予定だったが、こちらも中止せざるを得なくなった。
 そこで今できることを考え、コロナウイルスの感染拡大の状況下において海外にルーツを持つ子どもやその親が、どのような状況に置かれているのか、また今の状況をどのように把握しているかについて調べることにした。ニュースでは、支援機関や日本語教室が子どもたちへの思いを綴り、また子どもたちや親を対象にアンケートを実施し、生の声を聞いていた。また、食に関しても評価すべきニュースがあった。北区の保育園で給食が一部、イスラム教の子どもも安心して食べられるハラール認証に対応した給食を提供するという。ハラール認証とは、イスラム教で禁止されている豚肉やアルコールなどが含まれていないことを日本のイスラム教の認定機関から認められたものが取得できる認証である。全130人のうち 8人のイスラム教徒の園児のためにこうした取り組みを行うというのは、今までの日本における常識を覆し、同じ保育園に通う非イスラム教徒の子どもたちに対し世界や他者に目を向けるきっかけになったと思う。
 これら新しい情報等を交え、コロナウイルス危機の影響下の海外にルーツを持つ子どもの現状を整理する。今回の報告では、海外にルーツを持つ子どもの生活や新たな食に関する情報を資料により確認した。今後も、知り合いなどを通じて海外にルーツを持つ子どもの体験談をインタビューしたいと考える。



児童館Aのコロナ対応について
子どもの様子から見えたこと


 当初の研究テーマは「子どもと給食」であったが、コロナの感染拡大により、計画していた調査研究ができなくなった。そこで、私自身が以前からアルバイトスタッフとして関わっており、調査対象のひとつとして想定していた所沢市の児童館A のコロナ対応や子どもの様子について参与観察し、コロナが子どもの食や生活に及ぼした影響を報告する。
 平常時、児童館では、平日は午前に乳幼児は保護者と来て過ごしたり、行事を開催したりする。午後は学校が終わった後の小学生を預かる。放課後には遊びに来る小学生もいる。土日・祝日は、乳幼児も小学生も午前・午後関係なく利用している。コロナが日本で感染拡大したことより、小学校の春休みが長くなり休校になった。一日中子どもが児童館にいるので職員が多く必要になった。しかし4月7日の緊急事態宣言を受けて、所沢市が児童館の利用をなるべく控えるよう要請したため、私が最後に勤務に入った4月13 日では、利用者は9人まで減っていた。児童館Aでは、緊急事態宣言の前に会議で感染防止対策などが検討された。また、児童館の行事をす全て中止した。緊急事態宣言が延長され、当初よりも利用を控える期間を延長した。解除後は公立学校で分散登校が始まり、、児童館では午前・午後とも受け入れを再開した。以降、子どもの受け入れ方は以前に戻ったが、消毒や部屋の使い方などが変わり、子どもたちの意識も変わったように感じた。子どもたちは、消毒などを嫌がらずに丁寧に行うようになった。
 10月現在、社会全体で制限が緩和されてきている。児童館A でも遊びの制限などが緩和されてきたが、コロナ以前と同じ生活には戻れていない。しかし、感染対策を行い情報を判断して日々の生活を送ることで新しい生活を受け入れることが、子どもたち・保護者・児童館にとって大切になっていると考える。