令和2年度 食文化栄養学実習

高橋勝美ゼミ■地域食産業学研究室


今日から薬膳
~地元の食材で元気の源を~


 薬膳という言葉を一度は聞いたことがあるのではないのか。薬膳は栄養、効果、色、香り、味、形などが全て揃った食養生であり、また、多くの食材を組み合わせてバランス良く身体の精気を補えるものである。今までは食べにくく、お金のかかるものと思っていたが、実際には身近な食材で作れるのではないのかと思い直した。そこで、私の地元である神奈川県大井町とその周辺地域の食材に注目し、私流の薬膳料理を作ることを計画した。
 前回は、春と夏の食材に注目して研究を進めてきたが、それに続き今回は、秋と冬の食材に注目したレシピ作成と調理、試食を行い、そこから薬膳料理のさらなる可能性を見つけたい。秋と冬は、夏からの季節変化で身体の不調が起こりやすいと言われている。また、秋は乾いた空気が原因により、肺や気管支に不調が表れやすく、冬は厳しい寒さによる臓器の冷えや浮腫、腰痛、足痛などを引き起こしやすくなる他、免疫力が低下し風邪をひきやすくなる。このような不調を予防するためには、身体を温め、体内を潤す食材を積極的に料理に取り入れることが今回のテーマである。
 以上のことを踏まえ、近くの直売所へ出向き、秋、冬が旬である野菜や果物、その他加工品を入手し、レシピ作成と調理、試食を行った。調理後、対象者に料理を食べてもらったが、以前から地元の食材を食べていたため、薬膳料理による身体への絶大なる効果を得ることは難しかった。しかし、サプリメントや化粧品に頼る生活を送っていた対象者が自ら、薬膳料理に対して要望をするようになったことから、食事に対する気持ちに変化をもたらすことはできたのではないのかと考えた。
 薬膳料理は身近な食材で誰でも作れる。今日から皆さんも薬膳料理を始めてみてはどうだろうか。



アカマンボウのコラーゲンの性質


 コラーゲンは動物の体内に最も多く存在するたんぱく質であり、そのペプチドは安全で安価な素材として化粧品や食品の分野など広く利用されている。国内におけるコラーゲンペプチドの市場推移をみると、2001 年の取引量は合計1088tであったのに対し、2018年度には合計5839tと、市場が急激に拡大している。その中で、食品用途は、市場全体の80%以上を占めており、食品に利用可能なコラーゲンペプチドを生産することは重要であると考えられる。また、コラーゲンは陸上の動物由来と魚類由来に大別されるが、牛のBSE や豚の口蹄疫などの伝染病が発生して以来、魚類由来のコラーゲンが注目されている。一方、海産魚として流通され始めているアカマンボウ( マンダイ) は、イミダゾール化合物のバレニンを多く含む魚として、加工利用性が注目されている。またその加工残渣には、コラーゲンの原料となる真皮や筋肉の結合組織が多く含まれるため、コラーゲンペプチドの製造は、食品廃棄物の有効利用となることが考えられる。
 本研究では、アカマンボウのコラーゲンを精製し、性質を調べ、食用とした場合のコラーゲンペプチドの特徴を明らかにすることを目的に研究を行った。初めにアカマンボウの皮と筋肉から、それぞれコラーゲンの精製を行った。精製は3 回行い、回収率から推定される利用可能なコラーゲンの含有量を調べた。次に、精製したコラーゲンの電気泳動分析やアミノ酸組織などを調べ、既知のものと比較を行った。
 今回の研究から、加工残渣である真皮にはコラーゲンが多く含まれていることが確認できた。こうした資源の有効活用は廃棄物の減少につながり、さらに食品素材として利用される可能性を十分含んでいると考えられる。



伝統野菜「糠塚きゅうり」
~伝統野菜で地域活性化~


 私の地元である青森県八戸市(はちのへし)には、糠塚(ぬかづか)地区を中心に育てられている伝統野菜の「糠塚きゅうり」がある。昭和30 年代頃まで、八戸市できゅうりと言えば糠塚きゅうりを指すほど身近な野菜であったが、料理に使いやすい一般的なきゅうりの登場や収穫翌日には変色し見栄えが悪くなるといった理由から販売業者が敬遠し、生産者が減少した。また、近くに植えた他品種のきゅうりと自然交配してしまうという扱いの難しさから、種子そのものがなくなりかけていた。このような背景があることを初めて知り、糠塚きゅうりを通じて地元の活性化につながる活動をしていきたいと考えた。
 地元での流通状況を知るため、地元密着型のスーパーや直売所などで陳列状況の調査を行った。その際、売り場担当者のお話から、地元野菜を応援しているが生産者が少ないことに加え高齢化・後継者不足による収穫量・流通量が得られないという課題が挙げられた。
 生産場所による出来栄えの差の比較のため、八戸市農林水産部農業振興センターと女子栄養大学農園の管理者の協力のもと本学農園にて糠塚きゅうりの栽培を行った。8月にゼミ生中心に農園と八戸の実家の庭で栽培したものの試食会を行った。その結果、八戸の実家栽培のものよりも農園栽培の方が苦味が極めて強いことがわかった。また、八戸で販売されているものと農園栽培のものを比較しても同様の結果だった。そこで、八戸で栽培されたものを用いて糠塚きゅうりの独特の風味を活かしたレシピを考案した。
 今回の活動を通して新たな八戸の特産物を知ることができた。糠塚きゅうりを市民に広く普及し生産を守っていくためには、多くの市民の目に触れる場所にリーフレットなどの媒体を置くなどすることでおいしさと生産・流通の現状を伝えていくことが重要である。また、生産・流通に携わる人の連携も重要である。



ダサキャン
ソロキャンプ旅と手抜きめし


 昨年の夏の末、1人自由気ままに旅をしたいと、ふと思い立った。時間や身の回りの様々な関係性にとらわれることなく、移動も、食事も、料理も、行動の全てを自分の思うままにできたらどんなにいいか。思考を巡らせる中で、一番自由なバイクを移動手段に、旅に出たいと思った。積載量は限られるものの、その不自由さも魅力に感じた。憧れを胸に勢いのまま教習所に行き、バイク旅に向けての準備を進めていた。その後実習のテーマがキャンプ・アウトドアクッキングに決まり、春頃には都市近郊のキャンプ場を何軒か訪れ、夏には北海道をキャンプしながらまわる予定で、免許を取ってバイクやキャンプ用品を購入し、キャンプやアウトドアクッキングについて調べてきた。
 準備が整い、出発が目前になったところで、新型コロナウイルス感染拡大による全国的な自粛ムードの広がりにより、バイクによる長距離移動は断念せざるをえなかった。キャンプにはしばらく行けないと諦めていた中で、ベランピングという言葉を聞き、実際に家でやってみることにした。立地の問題で、野外で火を起こして料理をすることはできないため、自宅のキッチンで軽食を作り、庭で食事をした。当初考えていたような野外での調理や、キャンプの醍醐味である大自然を味わうことはできなかったが、風と陽の光を感じながらのんびりと食事を楽しむことはできた。
 その後新型コロナウイルスの感染状況を見ながら、実際にキャンプに行くことができたが、状況と安全性を考え、バイクでのキャンプは断念し車で行くことになった。今回の発表会では、自身の体験を通し、限られた道具、材料、環境等諸条件の中で料理をすることや、自然を感じながら食事をとることの楽しさ、素晴らしさを伝えたいと考えている。



深海魚を食べよう


 深海魚はグロテスクで、とても食べられないと思っていた。しかし、漁獲量の減少により、元来未利用魚として処分されていた深海魚が今、大変注目される食材になっているということを知り、深海魚の食材としての可能性について興味をもった。
 実際に食べてみると深海魚は美味であった。それは体の仕組みによるものである。深海魚は、体のなかに気体が入りにくい構造となっている。(気体が水圧に負けると潰れてしまう。)従って海中を上下動する際、通常の魚は浮き袋(空気)を使うが、深海魚は体内の脂を使うため、浮き袋の代わりに脂を蓄えている。そのため、食べると「脂が乗っていておいしい。」となるのである。
 日本有数の深海魚の漁獲高を誇る沼津港を訪れた。沼津港は日本で最も深い駿河湾に面しているため、深海の海流が上に向かって流れてくる。その海流に乗って深海魚が巻き上げられ、沼津港では深海魚が多く獲れるのである。
 沼津での一般家庭における深海魚の食べ方や調理方法を沼津の魚市場の方に伺い、自分で調理し、試食してみた。その日沼津港にあがって市場に並んでいたのは、ヒゲダラ(ヨロイイタチウオ)とアカカサゴであった。大変低価格であり驚いた。両方とも小さな魚で水分が多く身が柔らかく裁くのは大変であった。深海魚のイメージとは違い、油はのっていなかったが、臭みも、癖もなく美味であった。
 これらの魚のように高級魚とされているもの以外で、一般家庭で食べられるようにならなければ深海魚の消費、市場価値はなかなか上がってこない。まだまだ一般には知られていない深海魚の色々な価値を見いだし、どのような方法で広く多くの人が気軽に深海魚を食べられるようになるのかを考えたい。