令和2年度 食文化栄養学実習

高島美和ゼミ■英語圏文化研究室


海賊の世界を旅する
―砂漠の島と空の島―


 皆さんは、自分の好きなものの世界に入ってみたい、そう思ったことはあるだろうか?私はそれを好きになってから常々自分が仲間になっている姿を想像している。実習では自分が理想とする、世界観を再現したそんなカフェを作ろうと考えた。私の理想とするカフェは、一緒に冒険をしているかのような空間をつくることである。例えば、船の中にいるような内装で小物を使い細かく演出をする。料理を見ただけでシーンを思い出し、入り込むことができるようなエピソードごとのセットメニュー。食文化栄養学科で学んできたことを活かして、カフェを提案できると考えた。
 私の好きな世界とは「ONE PIECE」である。海賊になった少年がひとつなぎの大秘宝を見つけ、海賊王になるという夢をかなえるため冒険する話。その話の中でも、砂漠の島と空の島での冒険エピソードにテーマをしぼった。島やキャラクターを表現したメニュー、シーンをイメージさせるメニューを考えた。また、それぞれのエピソードのあらすじを書いたPOP をメニューと一緒にテーブルの上に置くことで、麦わらの一味と冒険している世界観を感じてもらおうと考えている。さらに、小物を使い海賊の食事シーンをイメージしたテーブルコーディネートや内装を作り、店舗設計では船の中にいるようなデザインにすることで、砂漠の島と空の島を旅しているような、お客様がワクワクしたものになるように考案した。
 自分の理想を詰め込んだONE PIECE 好きによるONE PIECE 好きのためのONE PIECE をコンセプトにしたカフェ。食文化栄養学科で学んできたことを存分に出した、私にしか提案することのできないこのカフェの名は「麦わらstories」。私の集大成といえる実習をぜひ楽しんで聞いていただき、皆さんにも自分の好きな世界を自分の手で作ってもらいたい。



朝ドラ「ごちそうさん」食シーンの研究
戦時中の食シーンに映る時代背景の変化


 私は、連続テレビ小説「ごちそうさん」の食シーンの研究を行っている。日常を描いた物語は、必ずと言っていいほど食シーンが取り入れられている。それは食シーンから、その物語の時代背景やその人の心情、育った環境などいろいろなことを表現できるからだと思う。2013 年から半年間NHK 連続テレビ小説で、国民的人気であった「ごちそうさん」を題材に研究を進めた。その中でも戦時中の食シーンから時代背景の変化に伴う食文化の変化に焦点をあてた。
 昭和20 年、大阪大空襲の影響を受け、疎開が始まっていた。食材もない状況で代用品でお腹を満たし、若者たちの戦死の通達や赤紙が届くなど重たいシーンが多く描かれている。戦争が終わり、空襲によって被害を受けた大阪は見るも無残な姿になっていた。そんな状況の中生き延びた人々は今後の復帰に向け、闇市を開き、残った食材を工夫して利用し、食を通じて笑顔になっていくシーンがある。次第にアメリカの食材や物資が日本に入る中、敵国に対する不信感や嫌悪感をいだく人もいる中、食を一つのコミュニケーションのアイテムとして寄り添っていくようなシーンもある。
 このようなシーンから、大阪大空襲の被害の大きさや実際どのような代用品が使われていたのか、アメリカはどのように日本を支配していったのかなどを調査した。
 食シーンに表れていることを自分で調査することで、より日本の歴史や食の変化を知ることができる。また、その食シーンの食べ方や料理、食卓の場の会話から登場人物の心情や状況の変化を理解し、食文化以外にその時代の人々の生き様や関係性を知ることもできる。



視覚からの食の輝き
1日のひとときに幸せ感を


 食べ物を見ているだけで幸福感や満足感が満たされるのを感じたことがあるだろうか?
 私は、初めてアフタヌーンティーに訪れたとき華やかで可愛らしく作られたお菓子たち見てとてもワクワクした気持ちやときめきを感じた。食から感じる幸せや、ウキウキとした気持ちなど、人の心を動かすのはどんなところからなのか明らかにできたらと思い、研究を始めた。
 前期では、オリジナルのブレンドティーを作り、1日を朝、昼、午後、寝る前の4 つのシーンに分けてそれぞれに合うお茶を生み出した。例えば、寝る前の一杯「Elegant sweet」。ラベンダーは、香りを嗅ぐだけでリラックス効果を得ることができ、ローズの香りで安眠効果や、優雅な気持ちを与えてくれる。そのため、1日の締めくくりにぴったりだと考えた。そして、ドリンクの商品名は重要であると考えている。なぜなら、店で注文するとき、ネーミングが気になったものにまず目がいくからだ。それはどんな味がするんだろう?どんな形で出てくるのだろう?と想像が膨らみ、目の前に出てきて、それを口にするまでワクワクした気持ちになる。その経験をふまえ、ネーミングにもこだわった。
 そして今回は、四季に合ったブレンドティーとハーブティー4つとそのお茶と一緒に楽しめるスイーツも提案する。スイーツは、今まで訪れたアフタヌーンティーで食べたプティフールやセイボリーをシーズンごとに何をテーマにしているのかを分析した。それらをもとに、春、夏、秋、冬に分け、それぞれ2品ずつ提案する。季節感を感じてながら、見た目も楽しめるものにした。
 普段の日常のなかで、食からのほんの少しのトキメキや幸せ感を感じてもらい、日々の生活に潤いを感じてもらえたらと思っている。



フランスのサロン・ド・テの魅力
~17世紀から伝承しているお菓子たち~


 私は素敵な街並みを眺めながら美味しいお菓子を食べてゆったりした空間を過ごせる、フランスのカフェに憧れている。そのパリと幼い頃から興味がある食と音楽を組み合わせ、研究していくうちに、フランスで美味しいお茶やお菓子を味わいながらゆったりと過ごせる空間のカフェのことをサロン・ド・テということがわかった。そのことがわかったことがきっかけでフランスのサロン文化の研究を始め、フランスと音楽をイメージできるサロンセットを作ることを目標とした。
 中間報告では宮廷サロンとサロン・ド・テについて紹介した。宮廷サロンは17~19世紀に若手音楽家の演奏を聴きながら紅茶やお菓子と共に会話を楽しんでいた場である。そのことから宮廷サロンは、お茶やお菓子を楽しみながらゆったり会話が出来る場所の現在のサロン・ド・テの元になっていたことがわかった。
 カフェはコーヒーからワインまで何でも飲め、さらに1日中サンドイッチなど軽い軽食や定食が食べることができる為、喫茶店、居酒屋、食堂を兼ねた存在である。フランスと音楽をイメージできるサロンセットを作る為にフランスのカフェの形態についても調べた。カフェのほかにも、カフェ,サロン・ド・テ,タベルヌ,キャバレー,ブラッスリー、レストランと6種類ある。パリで有名なサロン・ド・テはココシャネルも通ったといわれているアンジェリーナやマカロンで有名なラデュレなどがある。ラデュレはサロン・ド・テが作られたきっかけのお店であると言われている。私が訪れた日本にあるサロン・ド・テのお店、また、サロン・ド・テの知識を活かし作成したサロンセット、サロンセット作成の際に実際に音楽家が食べた料理も作ったのでそれも紹介する。



文豪たちの食卓
~小説と食事、時々お酒~


 「文豪」―それは近代に新たな文学や思想を生み出し、世に大きな影響をもたらした非常に優れた文学者に与えられる称号のようなもの。夏目漱石や芥川龍之介、太宰治といった現代でも作品が残る作家は「文豪」と呼ばれる。
 後世に残る作品を生み出した文豪たちのその偉大さは、まるで遥か彼方の存在のように感じられるが、彼らも私たちと同じ人間であることに変わりない。食べていかなければ生きていくことはできないし、非常に優れた作家と言われても、良い生活を送っていたかというとそういうわけでもない。むしろ厳しい生活を送っていた文豪たちは多い。そういった生活の中で書かれた作品には彼らの食への考え方が表れているかもしれない。そう考えた私は小説から彼らの食への関心を考察することにした。
 このテーマのきっかけとなったのが、文豪たちを主役とした漫画やゲームが人気を集めていると感じたためだ。それらの作品の中では、本人の姿とは全く異なる姿や個性を持っていることがほとんどだが、その容姿の良さからキャラクターを好きになり、実際に本人の作品を読む人もいるという。しかし、そういった人たちの脳裏にあるのはキャラクターの姿の文豪だろう。私はそれがもったいないと感じる。キャラクターはあくまで漫画の世界に合わせたイメージであり、現実の文豪とは異なっている。例えば、『人間失格』で有名な太宰は現実でもお酒が好きでいつも持ち歩いていたという。『吾輩は猫である』で有名な夏目は胃腸が弱いにも関わらず甘い物やこってりしたものが好きだった。
 キャラクターだけに留めることなく、実際の文豪たちがどんな人物で、どんな生活を送っていたのか。それらを食の視点から掘り下げていくことで、より文豪たちを知っていくきっかけになればと思う。



聖なる夜にケーキが運ぶ幸せ
~知られざるクリスマスケーキの魅力~


 12月になると、街中はイルミネーションに彩られ、洋菓子店には様々なクリスマスケーキが並ぶ。日本では、イチゴと生クリームで飾り付けたデコレーションケーキが一般的だが、昨今、多種多様なケーキが販売されている。ショーケースの中にはその店オリジナルのケーキに紛れて、世界各国のクリスマスケーキが並んでいる。その光景からクリスマスにケーキを食べる文化は同じだが、食べるケーキに違いがあるのはなぜか疑問に思った。調べてみると、日本に浸透しているクリスマスケーキはごく一部でまだまだ知らない世界のクリスマスケーキがあることが判明した。そこで、世界のクリスマスケーキから食文化の違いやそのケーキの情報発信を目的にこのテーマを掲げた。
 前回作成した資料では、クリスマス文化が生まれたドイツを中心にヨーロッパ各国と日本のクリスマスケーキの比較・分析など情報収集とその整理を主に行った。
 今回は、前回得た情報を元に世界のクリスマスケーキを日本人向けにアレンジしたレシピの提案を行う。日本人向けのアレンジとは、食べやすい味にするだけではなく、手に入りやすい材料に変えることや調理工程を工夫することなどを意味する。例えば、諸外国にはアドベントというクリスマスの準備期間に長期間の熟成が必要なクリスマスケーキを準備するが、これを日本人向けにアレンジし、短期間で仕上げられるレシピを提案する。また、ゼミ生や友人に試食してもらい、味の好みがどのように分かれるかを把握し、SNSで情報発信方法の検討をした。
 発表では、世界各国のクリスマスケーキのアレンジレシピの詳細やレシピを考える難しさなどを伝えたい。この発表がクリスマスにいつもと違ったケーキを食べるきっかけになることを目指す。



ある可能性の話


 今から一つの可能性の話をしましょう。私たちは日々勉強をしています。それは学校で習う学問に限らず、職場での体験や人と接する中で得る感情などのことです。皆さんはそれらが自分のものになるのはいつだと思いますか?「勉強した、教えてもらったその瞬間でしょ」って?本当にそうですか?学校で食品自給率の授業を受けた時、自給率だけでなく、その背景が頭に残りますか?試験のためにパーセントの数字だけが頭に残ると思います。もし、習ったものをその場限りの情報にせず、今後の生活に反映できるようになれば将来の夢や今やりたいことが見つかる、つまり自分の人生が変わると思いませんか?
 では、どうすれば実現できるでしょうか。私は映画や本の物語りにその適性があると考えます。ただ勉強するだけでは他人事だったことが、映画や本だと身近に感じられ、その後も頭に残り続けた経験はありませんか?勉強するものが物語りや登場人物に反映されることで感情移入ができるため他人事と捉えず、共感が得られます。この共感が “ 情報” から“ 自分のもの” へ変化させ、今後の生活に反映できると考えます。そして、ゲームは映画や本の物語り以上に適性があると私は思います。ゲームは本や映画とは違いその世界の住人として自らが選択し、行動します。つまり、その世界の疑似体験ができるため、映画や本と比べてより登場人物と世界について共感が得られると考えるからです。
 私は食品ロス問題でこの経験をしました。経験後、日常のあらゆる場面で食品ロス問題を考えるようになりました。食のように日常に馴染みすぎてその大切さが忘れられがちのものにこそ、この考え方が必要だと思います。だから、食にスポットをあててこの研究を進めています。



癒しのハーブスイーツ
~香りを活かしたスイーツの考案~


【背景】現代の私たちの生活には、便利で快適に過ごせるためのもので溢れている。一方、それと同時にストレスを感じる要因になっていることもある。例えば、通勤通学の満員電車。SNS はいつでも人と繋がることができるが、その言葉を受け取る人によって感じ方が違い誤解を生み出すこともある。医療の進歩で平均寿命が長くなったが、日常生活で感じるストレスが原因で精神的な病気にかかる人もいる。このようにストレスを避け続けることが困難な世の中で、それと上手く付き合っていくためには溜め込み過ぎないよう発散することが必要だ。
 人それぞれストレスを解消する方法は違うが、私にとってスイーツを食べることが一番の方法である。そこで、香りの癒し効果に着目し、ストレスを解消できるスイーツを考案しようとテーマに選んだ。
【目的】20 代前半は就職や引っ越しをする人も多く、実生活において環境が大きく変わるタイミングである。そんなストレスを感じやすい23 ~ 25 歳の社会人女性をターゲットに、日常生活で感じるストレスを癒すハーブの香りを活かしたスイーツを考案する。
【内容】洋菓子店に売られるスイーツと想定し、タイム、カモミールなどを用いて4 種類考案した。食べるシーンを想定し、ハーブが持つ香りの効果に触れていく。また、味や見た目でもハーブを感じられるよう試作を繰り返してレシピにまとめた。私と同じようにストレスと上手く付き合っていくための方法として、スイーツを食べることがストレスの解消となっている人も多くいる。お茶を淹れて大好きなスイーツを用意し、ハーブの香りに癒されながら緩やかな時間を過ごす。そんな時間こそ、気持ちをリフレッシュさせて心に余裕を持たせてくれるのではないだろうか。



YOU ARE WHAT YOU EAT
世界中の人が囲めるサスティナブルなテーブル


 ヴィーガン、ベジタリアン、食品ロス、食料自給率、フェアトレード、オーガニック、これらについて考えることはサスティナブルな未来をつくるきっかけとなる。この中でも日本ではあまり浸透していないヴィーガン。身体のためと思う人が多いが、世界中の人がこの食にシフトするきっかけはサスティナブルな未来を意識し環境や動物のためであることも多い。生まれた瞬間から、人間のための動物とラベリングされ命絶たれるまで言葉にできない動物たちの声に耳を傾けることに対し、どう考えるか。ヴィーガンやベジタリアンが身近なものとして感じづらい日本だが、動物や地球、人に素直に優しくありたいと思う人たちを普通とは違った、特別な人と考える風習を変えたいと思った。しかし、人はそれぞれ考え方が異なり、食生活を変えなければいけない義務感から心地よくないと感じてしまえば、サスティナブルとは言えない。ヴィーガンを身近に感じ多くの人が生きやすい環境を作るために、少しでも多くの人がヴィーガンフードを知り、作ったり、食べたりするきっかけを作りたい。そこでヴィーガンフード、サスティナブルなキッチンを提案する。
 YOU ARE WHAT YOU EAT“あなたは食べたものでできている”これは食べたもので身体が作られるという意味だけでなく、それよりもっと大切な意味をもっているかもしれない。それは食の選択は環境や動物や人、様々なものに影響し、心や内面を映すということ。この言葉はEAT にフォーカスを当てているが、食材や調理法の選択、廃棄物の処理など環境に影響する料理についても同じことがいえるだろう。動物性食品の生産がもたらす環境や動物などへの影響を考慮し選択した食材で料理や食事をすることは、私たちが何気なく過ごす日常での楽しみ、生きるために必要な生活を守る一つのアクションになる。