令和8年度 食文化栄養学実習

髙島美和ゼミ■英語圏文化研究室


食とファッションの選択にみる社会的意味
映画「プラダを着た悪魔」より

   映画『プラダを着た悪魔』には、登場人物たちの服装や食事、仕事での過ごし方を通して、ファッション業界の価値観や、そこで働く女性の生き方が描かれている。私は本作を通して、普段は個人の好みや自由な選択だと考えられている「何を着るか」「何を食べるか」という行動にも、社会や周囲の人々からの評価が関係していることに興味を持った。そこで、映画に描かれる食とファッションに注目し、それぞれが持つ社会的な意味と、仕事を通して変化する価値観について考察した。
   物語の序盤では、主人公のアンディはファッションに関心が薄く、ファッション誌の編集部の同僚たちとは異なる服装をしていることから、職場で浮いた存在として描かれている。しかし、仕事を続ける中で服装が洗練され、周囲からの見られ方も変化していく。
   一方、食事では、アンディが好きなものを自由に食べたり、恋人や友人と食事を楽しむ場面がある。食事は自分の好みを満たし、人とのつながりを深めるものとして描かれている。しかし、ファッション業界で働くうちに、アンディは忙しさから食事を十分に楽しめくなる。また、食べ物と体型が結びつく会話も見られる。このように、食とファッションは、一見すると個人の自由な選択に見えるが、仕事や周囲の価値観によって、その意味や選び方が変化する。
   物語の終盤で、アンディは仕事での成功だけを追い求めるのではなく、自分が大切にしたい生き方を考え、別の道を選択する。この選択は、仕事や社会の価値観をすべて否定することではなく、それらと向き合った上で、自分にとって何が大切なのかを見極めることの表れだと考えた。
   以上のことから、本作は、何を着て何を食べるかという日常的な行動を通して、社会に適応することと自分らしさを大切にすることの間にある葛藤を描いている。食とファッションを手がかりに作品を読み解くことで、私たちの日常的な選択も、自分が属する集団や身を置く環境の価値観に影響されている可能性について考えるきっかけとなる。

花を食べるという選択
花食文化と食用花に対する人々の意識

   私が働いている居酒屋では、サラダにたくさんの花が飾られる。メニューの写真には花が写っていないが、実際にお客さんにサラダを提供すると、見た目を褒めてくれる。全部食べる人たちもいるが、一方で花を食べずに残す人もいる。また、お刺身に添えられた菊も、食べる人と食べない人がいることに気づいた。この経験から、食べられる花であるにもかかわらず、人々が食べない選択をしている点に疑問を持った。そこで花を食材として利用する食文化に着目し、その歴史的背景や文化的意味、さらに花を食べることに対する人々の判断基準や価値観を考察する。
   花食文化の歴史や地域による違いを知るため、文献を用いて調査をした。マヤ文明に関する資料やメキシコやイタリア、ベトナムなどの花を使った料理についても調べ、山形県で食べられている「もってのほか」という食用菊は実際に試食した。これらの調査から、花は地域や文化によって様々な形で食材として利用されていることがわかった。日本にも食用菊や桜の塩漬けなど花を食材として利用する文化がある。しかし、現代の日本では「花を食べる」ということに馴染みのない人もいると感じる。このことから、花を食材として捉える意識の違いについて疑問が生まれた。
   現代の人々が花を食べることをどのように捉えているのかを明らかにするため、アンケート、インタビューを実施する。食用花を知っているか、食べた経験があるのかに加え、食べたいと思うものはどんなものなのかを実際の料理の写真を例に質問する。これらの回答を通して、食用花への認識、印象などが花を食べることへの意識にどのように関係しているのかを考察する。本研究では、世界各地の花食文化に関する調査を踏まえ、花が食材として受け入れられる場合と食べることに抵抗を感じる場合の違いを考察する。

皇妃エリザベートの美へのこだわり

   19世紀オーストリア皇妃エリザベートが行なっていた美容法に着目した。彼女は、さまざまな美容法を大いに活用し自分を磨き続けていた。特に、美容では食材や植物などを様々な形で活かし実践していた。19世紀ヨーロッパで、どんな食材をどのような形で実践したのかに興味を持ち、研究を進めることにした。本研究では、エリザベートが実践した美容法の特徴を整理し、彼女の美意識や皇妃としての生活との関係について考察する。
   エリザベートが実践していた美容法には、ブランデーの一種のコニャックやビールを取り入れたシャンプーなどのヘアケア、イチゴとチーズを組み合わせたフェイスパック、生クリームと蜂蜜を使用した入浴法などがあった。これらの美容法には、乳製品や果物、お酒などを中心とした食材を多く使用していた。肌荒れ防止や美白など若さを保ち続けるケアを重点的に行い、髪の手入れにも力を入れていたことがわかった。あらゆる材料を用いて美容を行っていたため、自分の国では入手しにくい希少材料を取り寄せるなどして材料にもこだわっていた。また、現代の医薬品に関わる役割を果たす宮廷薬事部門を設け、エリザベートの美容に携わっていた。さらに、専用の酪農園をもっており動物を飼育させ、いつでも新鮮で健康によい材料を利用するようにしていた。 このように、エリザベートの美容法には、使用材料や方法の多様さだけでなく、それらを支える特別な環境があったことも特徴として挙げられる。 エリザベートは専門家をつけ、厳選した食材を用いた徹底的な美容を行っていた。また、美白や若さを保ち続けるケアを念入りにおこなっており、美しい皇妃として名高かった彼女の肖像画でも、肌が白く描かれている。 皇后という国民から衆目を集める立場にあったエリザベートはその美貌と品格を損なわないために体操や食事管理、身体のケアなどにも力を入れていた。皇后という立場ならではの時間と経済的な環境を存分に活用した美容を用い、彼女は生涯にわたり美を保ち続けるために多くの努力を重ねていたことがうかがえる。

小説の食描写の役割と魅力
作中の料理を通してさらに物語を楽しむ

   小説を読んでいると、物語の中で料理や食事の場面に出会うことがある。本研究では、児童小説における食描写に注目し、作中に登場する料理を通して、物語をより深く楽しむことができるのではないかと考えた。小説に描かれる食事場面は単に登場人物が食べ物を口にする様子を描くだけでなく、登場人物の心情や日常生活、物語の舞台となる国や地域の文化を伝える役割もある。また、食べ物が出来事のきっかけとなったり、登場人物同士の関係や物語の展開に関わったりすることもある。このように、食描写は物語の世界や登場人物を理解するうえで重要な要素であると考えた。小説では、読者が文章から料理の味や香り、見た目を想像するため、実際の料理との比較も読書の楽しみ方の一つとなる。
   本研究では、「ハリー・ポッターと賢者の石」、「赤毛のアン」、「アルプスの少女ハイジ」という3つの児童小説を対象にして、作中に登場する食べ物や食事の場面を取り上げ、登場人物の心情や物語の展開、作品の舞台となる国や地域の食文化との関わりについて分析する。さらに、作品の時代背景や地域の伝統的な食文化を知ることができる料理、登場人物の心情や物語の展開に関わる料理を選び、再現する。
   料理の再現にあたっては、原作の描写を参考にするとともに、作品の舞台となる地域の食文化や料理の歴史について調査し、料理の特徴や作品との関連性を踏まえてレシピや食材を選定する。本研究では、食描写の分析と料理の再現を通して、文章だけでは想像しにくい料理の見た目や味を実際に体験することが、作品の理解や楽しみ方とどのようにつながるのかを考察する。そして、料理を作り、味わうという体験を通して、児童小説の世界をより身近に感じる新たな読書の楽しみ方を提案する。

旅の食事はどう決まるのか?
外国人観光客の食選択と情報収集

   近年、日本では物価が上がっている一方で、外国人観光客からは、比較的安い価格で質の高い食事を楽しめる国として、日本の食が注目されている。ラーメンや寿司、焼肉だけでなく、コンビニエンスストアの商品など、日本では身近な食べ物も外国人観光客にとって魅力の一つとなっている。特に、InstagramやTikTok、YouTubeなどのSNSでは、日本の料理や飲食店に関する写真や動画が多く発信されている。そのため、日本を訪れる前から「これを食べたい」と決めている外国人観光客もいると考えられる。
   私も、海外旅行をする時、SNSやインターネットの情報を参考に食事を選ぶことが多かった。しかし、SNSには広告やステルスマーケティングなどもあり、情報の受け取り方や見極め方について考えるようになった。もちろん、事前に調べた店だけでなく、現地で偶然見つけた店を選ぶこともあり、食事の選択にはさまざまな要因が関係しているのではないかと考えた。そのため、外国人観光客が日本でどのように食事を選んでいるのかに興味を持ち、本研究を行うことにした。
   観光客は実際に日本で食事を選ぶ際には、SNSだけでなく、価格、味、見た目、口コミ、店の雰囲気、場所、日本らしさなど、さまざまなことが関係していると考えられる。また、宗教やアレルギー、ベジタリアン・ヴィーガンなどの食習慣によって、食べられるものや選べる店が異なる場合もある。そのため、外国人観光客が日本でどのような基準で食事を選んでいるのかを知ることは、日本の食を観光の魅力として考える上で重要である。
   本研究では、外国人観光客を対象にアンケート調査を行い、日本旅行での食事の選び方について調べる。旅行前から食べたいものを決めていたのか、旅行中に何をきっかけに食べるものを決めたのかを明らかにするとともに、SNS、口コミ、価格、味、見た目、日本らしさ、店の場所など、食事を選ぶ際にどのようなことが影響しているのかを分析する。さらに、日本での食事が旅行全体の満足度や日本への印象、旅行の思い出にどのような影響を与えるのかについても調べる。これらの結果から、外国人観光客にとって日本の食が旅行の中でどのような役割を持っているのかを明らかにすることを目的とする。 

クルエラで味わうファッション
1970年代の英国社会とコース料理で紡ぐ世界

   ディズニー映画「クルエラ」は、1970年代のロンドンを舞台に、圧倒的なファッションセンスと反骨精神を持つ主人公クルエラの成長と変貌を描いた作品である。当時のイギリスは、中東戦争によるオイルショックの影響を受け、劇的な経済不況に陥っていた。そんな暗く停滞した社会情勢の中で、若者たちは既存の価値観に反発し、音楽やファッションを通して強烈な社会的メッセージを発信した。この時代に流行したパンクロックや独創的なパンクファッションは、社会に対する強い自己表現の手段のひとつではないかと考えた。
   同時に、1970年代は白人女性の本格的な社会進出が始まった時期でもある。しかし、女性に与えられた仕事は男性とは異なり限られていて、女性同士の間でも職種や賃金における大きな格差が生じていた。映画に描かれるクルエラの葛藤や野望には、こうした社会の不条理や性別や階級による制約に抗おうとする時代精神が色濃く反映されている。    1970年から約50年以上経った現在、大学進学者が増え、イギリスにおいて階級意識はうすれつつあるといえる。最近の日本でもみられるが、服のレンタルが普及し、誰でも高価な服やアクセサリーを身に纏うことができる。そのため、服装における階級差はカモフラージュされ、階級が不可視化されつつある。一方で、態度や言葉遣いといった内面的な部分では隠しきれない場合もあり、そこから階級が判断される場合もある。また現代の階級社会では、単純な経済格差だけでなく、幼少期の家庭環境を含めた格差によって階級意識ができているとも考えられている。
   本発表では、中間発表に引き続き、劇中で印象的なファッションや、クルエラの反骨精神、そして強烈な自己表現のエネルギーを「食」という媒体へと落とし込み、作品の持つメッセージを再現・表現することを目的とし、舞台となっているイギリス料理で表現する。さらに、前回考案したサマープディングを含めたコース料理として構成することで、この作品を見たことがない人であっても、ストーリーをコース料理の順序に沿わせ、作品の世界観と背景を直感的に感じ取れるよう工夫した。食を通した作品の再現に加え、1970年代イギリスにおけるファッション文化の変遷や、若者文化と女性の社会進出に関する社会学的考察も併せて深めていく。