令和6年度 食文化栄養学実習

山下史郎ゼミ■フードマーケティング研究室


フード・メイクアップ
美の移り変わりを食で表現する

   小学生からメイクをする現代、皆さんにとってメイクとはどんな存在ですか?私にとってメイクとはいつもと違う自分になれる「魔法」、自信のない気持ちを支えてくれる「鎧」、日常を少し色づけてくれる「エッセンス」のような存在です。人は自身の顔をより際立たせたいとき、あるいは小さく、見えないようにするためにメイクをします。この表現法次第で人に与える印象は柔らかくも強くもなりえる、まさしく「魔法」といえるのではないでしょうか。
   この「他者に与える印象の違い」というメイクの特性を利用して、メイクとは一見関与のない「食」に落とし込むことで、今までにない新しい食表現を生むことができるのではないかと考えました。メイクの特徴について時代背景を交えて考察し、時代の美意識にあったメイクの表現技法を食の演出技法に取り入れることで、今まで以上に自由な食表現を生むことを目的とします。ここではそれを、「フード・メイクアップ」と呼ぶこととしました。
   例えば1920年代、当時の女性のメイクは、欧米への憧れから、白い肌にたれ目を意識したシャドー、薄いおちょぼ口が流行の最先端でした。このメイクの背景には、大戦景気から洋服や文化が輸入され、社会における女性の地位が少しずつ変わり始めたことが挙げられます。ところが1930年代に入ると、トーキー映画の始まりから、多くの女性が銀幕女優へ憧れを持ちはじめます。その影響から、控えめで頼りないメイクから、つりあげた眉、大きな唇が特徴的な、明るく晴れやかなメイクへと移り変わります。このように日本人女性のメイクは時代背景を大きく反映し、現代も変わり続けています。
   本発表では、本研究に着手するきっかけとなったメイクアップの専門家への取材も含めて、おいしさだけにとらわれない、新しい食表現法の開拓をめざします。さて、どんな麗しい食の世界になるのか、ご期待ください。

火葬されても残る強い骨になりたい!!

   日本に生きている限り、ほぼ全ての人が最期には火葬にてお別れとなります。現在の火葬法では約1000℃の高温で1時間の加熱が行われ、その後収骨の儀へと進むのが一般的です。加熱後の遺骨はその人がこの世に存在していた最後の証となるのではないでしょうか。昨年、祖父の葬儀に参列し、火葬から収骨の儀への流れを目の当たりにした際に、火葬炉から出てきた祖父の骨がこうも崩れてしまうのかといった衝撃を受けたとともに、その小ささに虚しさを感じました。そして、自らの番になったとき、そう思われたくはない、そんな想いをさせたくないと思い、本研究に着手するきっかけとなりました。
   目的は「約1000℃の高温で1時間加熱されても形状維持が可能な骨になること」です。そのために、大きく分けて2つのアプローチ法をとることとしました。まずは、「骨を丈夫にする」というものです。骨粗鬆症予防をはじめとする、予防的な対策ではなく、積極的に骨を強化することは叶うのか、栄養学を用いた方法をはじめ、その他の側面からのアプローチについて調べ、それらを踏まえて当大学の先生、専門家の方にインタビューも行いました。栄養学的な面からのアプローチでは、牛乳に含まれるMBP(乳塩基性タンパク質)が骨密度の上昇に効果的であることがわかりました。加えて、骨粗鬆症治療薬に用いられることのある栄養素の補給も骨密度の向上に有効なのではないかとの結論に至りました。次に、火葬された際にも骨が形を保っていられるよう、高温に耐えられる骨にする方法を探っていきました。骨の成分であるコラーゲンは加熱によって完全に融解してしまいます。骨の弾力性に大きく関与しているコラーゲンは溶けてしまいますが、それでも尚圧力に耐えられる骨にする方法はあるのか、また、無機成分であるリン酸カルシウムに起こる変化について先行研究を中心に調べました。
   「火葬されても残る骨になる」という想いは、多くの人が潜在的に持っているニーズなのではないかと考えています。骨折予防のために骨を強くする方法でもなく、骨粗鬆症にならないための方法でもなく、火葬後に残る骨にするための方法、知りたくないですか?

うさぎモチーフのかわいいカフェにて
私だけのケーキ作り体験

   私は、小学生女子にもっとケーキ作りを楽しいものとして体験してもらいたいという願いから、「うさかふぇ!」というイベントの企画・運営に取り組みました。
   この企画は、「"かわいい”に包まれた世界観の中でケーキ作り体験を行い、かわいいものが好きな参加者のモチベーションを高めることで、今までにない楽しい企画ができるのではないか」という思いから生まれました。対象者は、かわいいものや服装に憧れを抱く小学校の中学年女子です。イベントの内容は、ショートケーキをベースにした「うさちゃんケーキ」の製作、ケーキを持った状態でのチェキ撮影とポスカを使用したチェキのお絵描き体験、製作したケーキの喫食体験です。
   イベントを企画するにあたって先行事例などを調べました。SNSで活躍するお菓子作りクリエイターの方々によるイベントや、既存の職業体験施設の仕組みなどを調べ、それらの良い点を取り入れながら企画内容(内装、メニューなど)を決定していきました。更に、自分の思う「かわいい」を出来るだけ具体的なイメージとして表現するため、ケーキ作りのメニューや内装などに反映させました。子供たちに作ってもらう「うさちゃんケーキ」には、チョコペンやトッピングのお菓子を用意して、一人一人の思う「かわいいケーキ」を表現できるよう工夫をしました。また、実施場所である「キッチン・ラボ」の内装には、ハートのバルーンやリボンの飾り付けを用いて、かわいさの演出を徹底しました。
   9月には前段階として本学学生を対象にしたテスト企画も実施。この参加者の方からの意見を元に、本番がより良いイベントになるようにオペレーションを見直しました。
   このテスト企画の実施は、私個人としては、どんな種類のイベントを開催する場合にも大切な事柄を学ぶいい機会となりました。
   本発表では、小学生女子を対象に本番のイベントを実施した成果を発表します。ご覧いただけたら幸いです。

心身が本当に整う「サウナ飯」を考える

   サウナが好きだ。とはいえ、サウナ後にカツカレーを食べて罪悪感や不快感をおぼえた経験から、「世間で言われているサウナ飯って心身によくないのでは?」と考えた。世の中で語られているサウナ飯よりも、より整う食事があるのではないかと考え、本当に「整うサウナ飯」とは何かを探っていくことを研究の中心課題にした。
   まず、サウナの歴史や日本におけるサウナブームの実態について調べた。
   次いで、サウナの身体に対する効果について調べ、サウナ好きが語る「整う」とは、どのような状態なのかについて文献調査を行った。一説には、「整う」とは身体はリラックスしているのに頭は冴えている状態であるといわれている。一方で、「整う」状態とは身体の中がどのような状態なのかについては詳細な定義が存在しているわけではないことが分かった。
   整うということを抜きにして、サウナの身体に対する効果についての先行研究は存在しており、それらによると、肉体疲労の回復や気分の落ち込み改善などを含めて、さまざまな健康効果が分かっている。一方で、サウナによる発汗で水溶性のミネラルとビタミンが失われるなどのマイナス面も指摘されている。
   このことから「整うサウナ飯」の設定の方向性として、以下の二つを設定した。
・サウナで失った栄養素を補給できることを整うサウナ飯とすること。
・サウナで得た健康効果をより高める食事であること。
   具体的には、中医学という観点から「整うサウナ飯」の食材や調理法を考案することにした。サウナ後の身体の状態が、中医学においてどのような状態に当てはまるのかを検討し、実際にサウナ後に薬膳料理を食して自分の身体の状態を観察することで、中医学から見た食事の効果を確認して、「整うサウナ飯」を提案する。