令和6年度 食文化栄養学実習

竹内由紀子ゼミ■食文化研究室


ご当地チーズで四季を感じる

   フランスには「一つの村に一つのチーズ」という言葉がある。その土地の気候風土がチーズの特性を生み出し、地域ごとにそこでしか作れない特有のチーズが存在することを意味している。日本にも、漬物や酒、調味料など、地域に根づく発酵食品が数多く存在する。国土が南北に長く、様々な地形を有する日本では、その地域固有の食文化として、独自の発酵食品が生まれ受け継がれてきた。ところが日本ではチーズの歴史は浅く、日常的に食卓に並ぶようになったのは戦後のことである。その上当初流通したのは、安定した品質で長く保存できるように加工されたプロセスチーズであり、発酵の特性が現れやすいナチュラルチーズではなかった。需要増加に伴い、現在ではナチュラルチーズがプロセスチーズの消費量を上回っている。乳製品製造事業における新部門の設立や、酪農経営の6次産業化を目的に、小規模なチーズ工房は急増しており、2006年には106軒だった工房数は、いまや350軒を超える。全国各地で生産者こだわりのチーズが製造されており、国際的な品評会で高い評価を受ける商品も増えてきた。しかし、チーズ売場を見渡すと、スライスチーズやポーションチーズ、スプレットチーズ等の工場製プロセスチーズが数多く並んでおり、工房製のナチュラルチーズを見かけることは少ない。入手しやすく、使いやすい工場製のチーズに比べて、生産量の少ない工房製チーズの認知度は低い。消費者はチーズ購入時に、種類や価格、味を重視する傾向にあり、産地や生産者のこだわりを意識している人はいまだ少ない現状にある。そこで、地域ならではの特色あるチーズが、今後その土地を代表する発酵食品の一つとして定着していくことを目指し、オリジナリティに溢れたご当地チーズの普及拡大に貢献できる仕組みを作ることを研究テーマとした。
   工房製チーズの面白さは、そこにある自然環境を活かした作り方にある。草花や牧草等、原料となる乳を出す動物が食べる植物の種類によって味わいや色合いが異なり、気候や熟成させる場所によって食感や風味が変わる。そのような、そこでしか作れない独自性がご当地チーズの魅力である。2023年3月にチーズで初めて日本の地理的表示保護制度の認可を受けた十勝ラクレットモールウォッシュや、山地酪農を行いながら四季折々のチーズを生産する三良坂フロマージュのアカショウビン、自然豊かなあきる野市で季節限定のチーズをつくる養沢ヤギ牧場のTOKYO和CHABIなど、是非食べてもらいたいチーズを季節ごとにまとめ、チーズの旬カレンダーを作成してご当地チーズの訴求を図る。

グミの魅力を追究する

   近年グミへの注目が集まっていると感じる。コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどでは、毎週多彩な新商品が発売されている。SNS上やウェブサイトでは、多くの人がグミを紹介していたり、ソーシャルメディア上でグミについて同人活動している「日本グミ協会」という団体も存在したりする。
   しかし、グミとは、ゼラチンに味や香りをつけて、固めただけの食べ物である。そのものには本来、健康に必要な栄養素があるわけでも、身体に良い成分が入っているわけでもない。それにも関わらず、なぜこんなにも多くの商品展開がされているのだろうか。その解明のため、グミを多様な視点から分析し、魅力の発見、発信をすることを目的とし、研究を始めた。これまでには、市場のグミを可能な限り入手し、それぞれのグミがどのような特徴をもっているのか分類し、自分自身のグミへの理解を深める活動をした。そこで、なぜ私はグミが好きなのか考えたところ、噛み応えや、多種多様な味があるといった点が好きであることから、五感的な視点からグミを分析しようと考えた。パッケージ、形状、香り、味、手触りに着目し、「視覚、味覚、嗅覚、食感、触覚」の観点からグミの魅力を認識することができた。
   その後もグミの分析を継続して行いつつ、食文化の学生に向けたグミへの興味・関心についてのアンケートやグミを語る会“グミ会”を実施し、グミに対する他の人の意見を知り、グミへの理解を深化させた。
   この発表を聞いた後には、コンビニエンスストアやスーパーマーケットのお菓子コーナーのグミが陳列されている棚をぜひ見て欲しい。グミが好きな人も、今まで食べる機会がなかった人も、この発表が購入のきっかけになったら嬉しい。

心安らぐミルクティー
「茶葉×牛乳」そのペアリングを追求する

   カフェを訪れた際や紅茶を購入する際に、「自分好みの茶葉はどれだろう?」と悩んだことはありませんか?私は以前、紅茶専門店を訪れた際にメニュー表にずらりと並ぶ紅茶を見て、知らない茶葉ばかりで圧倒された経験があります。そこで、自分の好きな紅茶、特にミルクティーが好きなことから、「紅茶について知識を深めること」、「より美味しいミルクティーを見つけ出すこと」を目的に研究を始めました。
   中間発表までは、紅茶の歴史や茶葉の種類、製造工程などの文献調査をメインに研究を進めてきました。研究過程で、ミルクティーに向いている茶葉とストレートティーに向いている茶葉があることを知り、様々な茶葉のミルクティーを実際に飲んできました。また、種類にこだわるだけでなく、茶葉の形状や量、抽出時間、牛乳の種類や加える量、温度など様々な要因が美味しさに作用していることに気がつきました。そこで、どのような「茶葉」と「牛乳」を組み合わせたら自分好みのミルクティーを作り出せるのか、検討することにしました。
   茶葉は、ミルクティーの定番の「アッサム」、「アールグレイ」の二種類に絞りました。アッサムは、ミルクティー向きNo1と言われており、濃厚で力強くコクがあるのが特徴の茶葉です。アールグレイは、ベルガモットという柑橘類のフレーバーがつけられているフレーバードティーです。ミルクに負けない香りの強さと適度なコクと渋みが特徴です。抽出しやすい「ブレックファースト・アールグレイ」という細かいサイズの茶葉を使用しました。それぞれの黄金比を探るために、牛乳の種類や温度、量を調節し、何通りもの飲み比べを行いました。
   最終発表では、私が見つけ出した「最高においしいミルクティー」にたどり着くまでの過程を中心に、今までの活動の一部をご紹介します。

飲みニケーションを増やしたい

   私はお酒が好きだ。日頃から気になるお酒を飲み、楽しむことは私自身の趣味の一つになりつつある。そしてお酒は美味しいだけでなく、コミュニケーションを円滑にしてくれるツールとして捉えることもできるのではないかと考える。しかし、近年ではあえてお酒を飲まないことを指す「ソバーキュリアス」が日本でも急増し、私と同世代である若者の「お酒離れ」が進んでいると聞く。若者がお酒を楽しめる環境が全く無いわけではないだろうが、それは飲める人、飲めない人、その場にいる全員にとって居心地が良いと感じられる場所なのだろうか? そこで私は、お酒離れの現状について理解を深め、お酒が苦手な人でも気軽に楽しむことができる「カフェ」をお酒と関連付け、お酒を楽しみながら親睦を深めることを目的とした飲みニケーションに最適な選択肢の一つとなるコンセプトを提案したいと考えている。
   中間発表では、厚生労働省が推奨しているお酒の摂取量や実際にはどの程度の量なのか、市販のアルコール飲料を例に取り上げ、飲酒と健康について確認した。また、若者のお酒離れの実態を複数の調査データを元に、若者のお酒への向き合い方や、変化しているライフスタイルを確認した上で、飲みニケーションが弾む環境作りに必要な場所、ドリンクの種類などについて報告した。
   実際に「夜カフェ」と称されるような、お酒を提供しているカフェは多くなってきているようだが、夜カフェは東京の都心部中心に展開しており、夜カフェの地方への参入は、閑散としていたり集客が見込みにくかったりとまだまだ発展途上であるようだ。そこで私は、地元で飲みニケーションの環境作りを提案することが出来れば、地域活性化にも繋がると考え、私の地元である埼玉県深谷市をカフェ店舗の場所として設定し、深谷市の発展状況、周辺地域の飲食店の調査、前回に引き続きドリンクの検討などを行っている。
   そして今回の発表では、お酒離れや地域への理解を踏まえつつ、私が考える飲みニケーションを増やせるカフェコンセプトを提案する。

神楽坂の魅力を食を通じて発信する

   「神楽坂」をご存知だろうか。テレビや雑誌等で見たことや聞いたことがある人、訪れたことがあるという人もなかにはいるだろう。神楽坂とは、江戸城城門であった牛込見附から西へ上がる坂の名で、この周辺地域のことも指す。メイン通りとなる「神楽坂通り商店街」は、坂を挟む両脇に、神楽坂のイメージに欠かせないケヤキ並木やレストラン、カフェ、ブティック、小物屋など、多くの店がずらりと並んでいる。しかし、一歩路地に入るとメイン通りとはまた違う、石畳の敷かれた昔ながらの雰囲気を味わうことができる。神楽坂という街は、この坂を中心としたメイン通りと、そこから延びる無数の路地に展開している。
   このような特徴を持つ神楽坂は、私の生まれ育った場所であり、曽祖父の時代、つまり4代が住み続けている愛着のある場所である。
   私は中学・高校時代に学校の課題「生まれ育った場所の歴史」で神楽坂を調べたことがあり、その際にこの街には話題性のある飲食店が多く見られ、神楽坂という街は「食」に対して敏感な街であると感じた。時代の変化と共に進化する「神楽坂の食」に強く興味を引かれた。そこで、自分が生まれ育った街がどのような場所なのか探求を深め、なかでも神楽坂の「食」に重点を置いて情報を整理し、自分が思う神楽坂の魅力を発信し少しでも多くの人に街の魅力を知ってもらいたいと考えた。
   曽祖父の時代から住んでいるからこそ知ることができることがある。祖母に昔の神楽坂について詳しくインタビューをしたり、長年神楽坂に住み飲食業を営んでいる方にインタビューをしたりすることで神楽坂の変遷を確認し、既成の情報ではわからない神楽坂の変遷について調査した。また、神楽坂が江戸時代以来の歴史を持つことから、同様に江戸情緒が守られた浅草や、江戸時代以来の雰囲気と現代的な雰囲気を共に持っている川越に足を運び相違点を探し、神楽坂と比較することで神楽坂の魅力を鮮明にしたいと模索する最中である。
   神楽坂の「食」について雑誌や食べログなどを使い調べてみると、ミシュランの星が付いた料亭やフランス料理の店が多くあることを知り、なぜ面積としては狭い神楽坂にこうした魅力を持つ飲食店が集まってくるのか分析していく。

アリーナグルメによる地域振興
日本男子バスケットボールB.LEAGUEを中心に

   野球やサッカー会場のスタジアムグルメの知名度は高い。しかし、バスケットボールやバレーボールの会場であるアリーナで提供されるグルメはあまり知られていない。そのため、アリーナグルメの認知度上昇を目指し、各アリーナによって変わるグルメの特徴や、地域との関係性と連携の実際について調査することでバスケットボール・バレーボールのアリーナグルメを探究する。
   スポーツのジャンルによって観戦客の動きや提供されるグルメに違いがあることが判明した。そこで、飲食物の種類が多く、各地でアリーナが増設され始めている、公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(以下B.LEAGUE)を中心に研究している。
   中間までは、B.LEAGUEクラブの各アリーナやスポンサーについて調査してきた。その中で、各アリーナにおいて地域飲食店のキッチンカー出店や地域の名産品の飲食物販売が多くあることが判明した。スポンサー事業者の動向も、アリーナ内でのイベントの企画から、アリーナ外での飲食物販売まで様々なグルメが展開していることがわかった。
   次に、地域との関わりについては、自治体との関係性を調べることや、会場で販売を行っている地元飲食店への実地調査を行った。調べているうちに、B.LEAGUE(法人)は、バスケ・地域・企業、三位一体の成長を実現するビジネス改革を行っていることを知った。その中で、2026年までにバスケットボールを通じて地域を盛り上げる「地域創生リーグ」を目指していることがわかった。取り組み例には、広告貸し切り列車や、小学校の副教材の製作と提供、地域の清掃活動などがあった。地元飲食店についての実地調査では、クラブと連携して、ファンクラブ割引を行っている店舗や、バスケットボールの試合観戦客が多く訪れる店舗もあることがわかった。
   この研究を通じて、バスケットボールのゲームが開催されるアリーナの多くは、エンタメイベント会場や、日常的、教育や防災等にも利用可能になり、多機能拠点になっていくことがわかった。今後発展していく中で、街づくり=社会課題の解決の中心となりえるだろう。

中国出身の私が日本の抹茶を探求する

   私は日常的にカフェやコンビニで抹茶デザートや飲み物をよく利用しており、抹茶について興味を持った。抹茶は、茶葉を使用して淹れる現在一般的なお茶とは異なり、粉末状である点が特徴である。この形状を活かして、抹茶はさまざまな食品に添加されている。抹茶の味や香りは複雑で、抹茶を添加したスイーツは単純な甘みではない、魅力的なスイーツとなっている。
   日本の抹茶は長い年月を経て茶道として発展したが、それにとどまらず、現代では抹茶味の商品が多々開発されている。多くの店舗から次々と抹茶味のスイーツが登場する現代において、抹茶を使用した菓子の歴史や、商品化されて成長するまでの発展過程について調べている。
   中間報告までに、日本の抹茶文化と中国・宋代の点茶法について調査した。また、市場で流通している抹茶の品種、認定制度、製造過程や歴史に関して調査した。
   その後、現在販売されている抹茶を使用した菓子や店を調べた。抹茶専門店やスーパー、コンビニで購入できる日常的な抹茶味の菓子を確認する作業をしている。
   日本と中国の茶文化は、かつては繋がっていたが、その後、両国で異なる発展を遂げた。中国の点茶文化は宋の時代以降に姿を消したが、国際化の進展により抹茶が再び中国市場に流入し、現地の既存商品と融合することで新たな商品が登場していて、抹茶商品も現在は人気を博している。
   両国が現在販売している抹茶菓子の味・香りやデザインなどの相違点をまとめ、抹茶の魅力を追求したい。
   調査を進めた中で、両国の茶文化がそれぞれ「茶」という一つ共通の食材を使って発展してきたという歴史の一端を垣間見た。自分はこの研究を通して、抹茶を媒介にして両国の食文化を繋げてみたいというのも一つの目標となった。異なる国が同じ食材を使って異なる食文化を発展させていることに、面白さを感じてもらえたら嬉しい。

大食いの食文化

   皆さんは、大食いを競技として行っているいわゆる“フードファイター”たちを見て、「どうしてこんなにたくさん食べることができるんだろう?」と思った経験はありませんか? 私は不思議に思うと同時に、「私もこんなに食べることができたらいいな」と思っていました。また、私は大盛りを完食したときの達成感や、多くの品数を食べることができる、食事を長く楽しめるという理由からたくさん食べることが好きです。そこで、大食いに関する知識を深めると共に、その知見を多くの人に知ってもらい、大食いの楽しさやエンターテインメント性を広めることを目的とし研究を進めることにしました。
   中間発表までは、大食い大会の歴史や、全国に、祭礼行事としておこなわれる大食いがあることを調査し、「地域が発展しますように」「豊作になって山盛りご飯が食べられますように」といった開催するに当たり込められた思いを知りました。他にもYouTubeで人気のある大食い動画を再生回数ごとにまとめ、大食いをする上で人気のある食べ物は何か、視聴者たちは何を求めて大食い動画を視聴しているのか考察を行いました。また、医学・生理学的な側面からは、胃の容量や幽門、食べ物が胃の中に入ったときの動きなどが関連していることについても理解を深めてきました。
   最終発表では、中間発表で全国各地の歴史ある大食いの調査を踏まえて、現在まで継承されており、かつ体験しやすいことから、自分自身が「わんこそば」を体験してみることにしました。本格的な体験をしたかったので、わんこそば発祥の地とされている岩手県盛岡市へ赴き、老舗のそば店でチャレンジをしました。目標としていた100杯を超えると証明手形が贈呈されるのですが、惜しくも届かず、悔しい結果に終わりました。発表では、体験時の身体感覚やお店の雰囲気など、細かい情報もお話しします。

私のお気に入りを探す旅
水族館を訪ねて

   中間発表では、比較的身近な場所でお気に入りを探し、紹介しました。地元川越の魅力的な場所や、秩父地域の新鮮な空気感を伝えることができたと思います。
   ところで、私にはお気に入りの写真集があります。それは、『日本の美しい水族館』という、全国44か所の水族館を美しく幻想的な写真で綴られ、まるで旅に出かけたような気分になれる写真集です。これは、「水族館写真家」と称される銀鏡(しろみ)つかささんという方が、写真集を開いた人が水族館に行きたくなるようなものを意図してこの本をつくったそうです。この写真集を見て、私も心安らぐ気持ちになるのです。この食文化栄養学実習を好機として、自分も実際に水族館に足を運び、私自身が自分の手で写真を撮り、改めて水族館の魅力を見つけようと試みました。
   池袋のサンシャイン水族館は、都心のビルの屋上にあるとは思えないほど開放感がありました。サンゴ礁をイメージした水槽は、手前を明るく、奥を暗くすることで、奥行き感があり、空間がとても広く感じられて、時間を忘れるようなひと時を過ごせます。
   横浜・八景島シーパラダイスは、広い敷地を贅沢に使い、その空間を活かした水族館で、中に水族館が4棟あるので、とても見応えがあります。シロイルカをはじめ、様々なイルカが繰り出すショー、また8mある巨大水槽はとても迫力があります。順路を進むと、巨大水槽をドームにエスカレーターで登れますが、魚と同じ目線になっているような気がして、とても幻想的です。また、その他にもカワウソに餌やり体験ができたり、海で食育を学ぶ機会として設けられたブースがあり、魚を釣って食べたり、魚と触れ合えるコーナーがあるのも魅力です。
   葛西臨海水族園は、クロマグロが泳ぐ水槽が特徴的です。そして、東京湾の環境を展示しているところも独自な試みです。海に捨てられたゴミは環境的に良くないものとはされますが、それを住処として暮らしている魚たちの様子も知ることが出来ます。屋外のエリアでは、海の波を再現した水槽があり、浅瀬で泳ぐ魚、少し深いところで泳ぐ魚の様子を見ることが出来ます。
   そして、数ある水族館をさらに魅力的なものにしているものが、水族館で販売されているフードだと思います。それぞれの水族館の売りにしている生きものたちをデザインに取り入れた目を引くフードや可愛いフードなどを紹介したいと思います。