令和6年度 食文化栄養学実習

髙島美和ゼミ■英語圏文化研究室


歴史が物語をもっと面白くする?
イギリス伝統料理と児童小説

   ハリー・ポッターを観たことはあるだろうか。このイギリスの児童小説は今もなお世界中で愛し続けられており、私も幼いころにハリー・ポッターの映画を観て以来、その魅力に引き込まれた一人である。しかし一方で、有名であるが故になんとなく内容を知っていても実際に映画を観たことはない、小説を読んだことはない人が多く存在しているのも事実だ。そんな人たちに向けて、私ができる魅力の発信とはなんだろう。本研究では、このような思いから物語に登場するイギリスの伝統料理に焦点を当ててハリー・ポッターの新たな魅力を発見し、少しでも関心をもってもらうことを目指す。
   ハリー・ポッターには様々な料理が登場する。ローストビーフやトライフル、はたまた魔法界特有の突飛な食べものなど。その中でも、本研究で取り上げるイギリスの伝統料理は長い歴史をもっている。誕生した時代や背景を調査していくと、当時の人々にとってその料理がどのような存在であったのか、どのような思いが現在に至るまで継承されてきたのかを少しずつ理解することができた。そんな料理のもつ歴史から、物語の中でなぜこの料理がこの場面に登場したのかの意味を考察していく。二つの関係性を知ることは登場人物の心情など物語の内面的な理解に繋がり、ハリー・ポッターの物語をより楽しむための新たな魅力になると考えた。
   これまでハリー・ポッターシリーズの第一作目となる『ハリー・ポッターと賢者の石』に登場するイギリスの伝統料理からローストビーフ、ヨークシャー・プディング、トライフルについて研究を進め、考察を行なった。また登場している料理が著者J.K.ローリングの生い立ちに影響を受けている可能性を考え、彼女と関わりのある地域とその食文化について調査を行なった。
   本発表では、ハリー・ポッターシリーズ第二作品目となる『ハリー・ポッターと秘密の部屋』や第三作品目の『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』など、より作品全体をまたいで伝統料理の歴史と物語の関係性について調査を進めている。物語が進んでいくにつれてハリーたちも成長し、進化していく。そんな中で登場する料理がもつ歴史と場面の考察をしていきたい。

リキュール×お菓子
リキュールでお菓子をさらにおいしく!

【研究動機】
   昨年1年間香川調理製菓専門学校製菓科へ学園内留学していた。そこでは、基本的なスポンジケーキや様々なものを組み立てるなど、複雑な構成をしたお菓子も作り、新しい技術と知識を蓄えた。その中でも、お菓子における「お酒」の役割についても学んだ。元々、私はお酒の入ったチョコレートやケーキが苦手だった。そのため、お菓子やケーキを買う時に成分表を見て、お酒が入っていそうなものは避けていた。しかし、専門学校での学びを通して、お酒の中でも「リキュール」を使用したお菓子は食べやすく、好ましく感じられるということに気がついた。この経験から、私のように「お酒の入ったお菓子」を苦手としている人でも美味しく食べられるようなお菓子を作って、リキュール入りお菓子の美味しさを広めたいと考え、このテーマを設定した。
【研究内容】
   リキュールとは、ラムやテキーラ、ジン、ウォッカなどの蒸留酒に果物やハーブなどの副材料を加えて、味や香りをうつし、そこに砂糖やシロップを加えて作るお酒のことで、着色料を加えることもあり、果実か薬草の持つ有効成分で抽出した薬草酒から始まったとされている。酒税法では酒類と砂糖などを原料とした酒類でエキス分2度以上のものと定義されている。素材の風味を引き立たせ、お菓子にうま味やコクを与えるが、一般的に糖度が高いため使用する際には甘味のバランスを気を付けて使用しなくてはならない。
   本発表では、詳しいリキュールの特徴や、スーパーなどで流通しているカルーアコーヒーリキュールや、マンゴーリキュールなどを使用して作ったお菓子のレシピと、そのお菓子に使用したリキュールについて、使用方法やお酒が苦手でもおいしく作ることができる量などを紹介する。そして、リキュールを使用したお菓子の魅力を発信する。

今と昔のアフタヌーンティーを比較
日本の現代とヴィクトリア朝のお茶を楽しむ場の違い

   習慣的に飲んでいた紅茶が、アフタヌーンティーの場では華やかな印象となり、飲む空間の違いにより全く異なる印象をもたらすことに衝撃を受けた。そこからアフタヌーンティーの始まりや歴史に興味をもった。
   これまでの研究から、19世紀イギリスのアフタヌーンティーは女性の礼儀作法や教養を学ぶ場とされていたことがわかった。彼女たちは幼い頃からナーサリーティーと呼ばれるお茶の時間を通し、茶と礼儀作法や社交術を用いてもてなし方を学ぶ。18歳を迎える頃には自らお茶会を開くホステス役としての振る舞いを身につけていたということがわかった。
   本発表では、現代のアフタヌーンティーとヴィクトリア朝のアフタヌーンティーを比較する。アフタヌーンティーの始まりから約180年の時が経過している現代ではどのような違いが見られるのかいくつかの項目に分けてみていく。
   一つ目はアフタヌーンティーの利用目的である。現代のアフタヌーンティーは贅沢な空間での友人とのコミュニケーションや仕事での商談、SNS映えする空間として用いられている。一方で、ヴィクトリア朝は現在のように娯楽は多くなかったので、アフタヌーンティーは情報交換の場やお互いを知る時間として活用されていた。それぞれのアフタヌーンティーに求められている条件や空間の設えの違いなど、変化している部分を比較していく。
   二つ目は服装だ。ヴィクトリア朝ではティーガウンと呼ばれるドレスを着て、帽子と手袋を身につけてアフタヌーンティーに出席していた。そこで現代の女性たちの服装や意識している部分についてSNSの情報やアンケート調査をふまえて、現代のアフタヌーンティーの状況の調査結果を報告する。
   三つ目は提供されているお茶とお菓子である。アフタヌーンティーと聞き、まず想像するのは、華やかなたくさんのケーキがスタンドにのせて運ばれ、紅茶を飲みつつ優雅な時間を過ごす風景が浮かぶのではないだろうか。そこで、ヴィクトリア朝では何が食べられていたのか、メインとなっているものは何だったのかを見ていきたい。
   以上の内容をこれまで調査したヴィクトリア朝のアフタヌーンティーと比較し、現代のアフタヌーンティーと照らし合わせることで現在でも残っているマナーや文化と変化してしまったものについて考察する。

フィリピン セブ島における現地の生活
貧富の差を現地でのボランティア活動を通して実感

   セブ島と聞いて最初にイメージするのは何だろうか。リゾート地、南国などがよくイメージとしてあがるだろう。他にもマンゴーやバナナなどのフルーツの産地としても有名である。去年の留学前は前述したような観光地でキラキラした海とビーチだけがあるようなイメージだった。しかし、去年、約半年間の短期留学をきっかけに理想と現実のギャップを肌で感じることになる。様々な文化や歴史に興味を持ち、学校の寮に滞在し、週末にはセブ島内の施設や観光地に訪れ、五感で感じたセブ島。食べることが大好きなので、仲良くなった現地の友達と食事に行ったときにあることに気づいた。それは、食事内容が大きく違うことだった。何度も一緒に行くうちに、収入の違いが食事内容の違いとしてあらわれ、その差が歴然としていてことに興味が湧いた。様々な友達や先生と交流していくうちに庶民層より貧しい貧困層と呼ばれるスラム街の子達と交流する中で厳しい生活をしている人たちがいることも知った。
   留学終了後にも観光含め3度訪れ現地の友達や先生との交流を通して、本やインターネットでは知ることのできない現実や出来事に毎度驚かされた。メニューの内容や量だけでなく、食べる場所やシーンの違いが浮き彫りとなってきた。自分にできることはまず何かを考え、彼らのために何かをしたい、生活を改善していきたいと考えましたが、何から始めたらよいか分からなかったので、大々的に急激な改善は望めないが、まずはその地域で何が起こっているのかを把握し寄り添うことが大事なのではないかと考えた。
   中間発表では貧困層、庶民層と富裕層との生活や食事を中心に特別な食事を含め、日々の食事や文化を紹介した。
   本発表では今年の夏季休暇中にボランティアとして訪れた別の地域の生活や食生活を報告し、比較するとともに、二つの地域の相違点や共通点をもとに考察する。そして、今後何ができるか検討し、提案を報告する。

海外映画における食事シーンの映像効果

   映画の食事シーンは会話の共有やコミュニケーションを表す場として用いられており、登場人物は食事をきっかけとして人間関係を深めていく。その意味で、食事とは個人と社会を繋ぐツールでもあるといえる。
   映画は常に変化を描いている。登場人物の感情や成長、時代や環境の変化等常に何かが変化している。そして、食事とは体内に異物を取り入れる行為であり、常に変化を描く映画には分かりやすい表現と言える。
   実際に映画の食事シーンを考察し、どのように表現されているか分析していく。いくつかの映画に同じテーマを設定し比較していくと食事シーンの使われ方に共通点などが浮かび上がってくる。相手を探るシーンや、信頼を深めるシーン、互いに信用していることを表すシーン等。食事シーンに焦点をあてて映画を見てみると、作品が映画は違っても、食事をするシーンが同じような使われ方がされていることがわかる。
   中間発表では働く女性をテーマに「マイ・インターン」と「プラダを着た悪魔」を取り上げた。どちらも社会に揉まれながら強く生き抜く女性の人生を描いた作品である。忙しない日常では食事に興味を持たず雑に扱うシーンは単に主人公の嗜好を表しているだけでなく、主人公の人間関係の変化を描く際にも用いられていることが興味深い。
   今回の発表では「最高のふたり」と「グリーンブック」を取り上げる。雇い主の富裕層と雇われている貧困層の2人組が主人公の作品である。ふたつの作品の共通点は雇い主である富裕層が社会的ハンデや差別を抱えている点である。互いに社会に対し生きにくさを感じており、歩み寄るきっかけにもなっている。食事シーンもそのひとつとして分析解釈していく。生活環境の違う2人が自分達の文化や作法を教えあいながら、食事を取るシーンからは社会的階級や人種の垣根を越えた友情を育む様子が伺える。

ウイスキー、見える化
魅力を“ZINE”に込めて

   ウイスキーと聞くとどんなイメージを思い浮かべるだろう。人は物事に対して何かしらのイメージを持っているが、それは時に知らないが故のネガティブな要素を持った偏見にもなり得る。私はウイスキーが好きだ。好みの味わいや香りであることや健康面での利点もその理由の一つである。世間的に見るとウイスキーに対するイメージには偏りがあると感じていた。周りの人々のウイスキーに対するイメージは飲みにくそう、苦そう、年齢層高めの男性が飲んでいそうなどであり、私はそれらにネガティブな要素を感じ、実際に飲んだり触れたりする体験がないことから来る飲まず嫌いのようだと感じた。
   3年生前期にウイスキーの本場とも言われるアイルランドへ留学をし、パブや蒸溜所、ミュージアムでの体験を通して歴史や起源、現地の人々にとっての役割などを学んだ。その後、映画の中でのウイスキーの登場シーンを調べ、観る人にどのような印象を与えるのかを探った。また20代から80代を対象にアンケートでの印象調査を実施したが、回答者の多くは女子大生であったこともあり、ウイスキーは苦手又はあまり飲んだことがないお酒として認識されていることが分かった。高度経済成長期やハイボールブームなどを経て歴史的に受容されていったウイスキーは、次第に本や映画、ドラマ、テレビCMなどによりイメージ付けがされ、その印象から若者を中心に飲まず嫌いされることが増えたのではないかと考えた。近年、低アルコールやノンアルコール飲料の種類が充実したことも後押しし、飲みの場においてお酒より雰囲気から満足感を得る人が増えている。酒は嗜好品であり、娯楽の一部である。私はこの研究を通して、ウイスキーの嗜好性の他に健康面での利点が日常を豊かにする可能性を秘めていることも知り、若い世代にもお酒を飲む際の選択肢の一つとして捉えてもらいたいと考えている。
   今回の発表では「ZINE(ジン)」というメディア形態を通して独自の視点からウイスキーを観察・表現する。ZINEとは個人が自主的に自由な手法やテーマで制作する冊子や印刷物のことである。ウイスキーの印象改善を研究目的としている為、若い世代にも届きやすく、今までの広告やレシピ紹介等にはないオリジナリティを生み出したいと考え、気付かれにくい魅力や制作者のより個人的な想いも乗せて伝えられる手法としてZINEを選択した。これを手に取った人がウイスキーのポジティブな要素に触れ、そこに新たなイメージを持つための一つ目の体験を生み出したいと考えている。

高加水ハードパンの魅力追求

【研究動機】
   幼い頃からパン屋さんを訪れたときのお店中に広がる美味しそうな香りと様々なパンが陳列されている様子がわくわくして大好きだ。そんな私が様々なパンを食べ歩く中で、特にときめいたのがフランス発祥の高加水パン「ロデヴ」だ。ロデヴを作る中で、私は高加水のハードパンが好きだということに気がつき、「ロデヴ」だけでなく、「高加水のハードパン」にも研究対象を広げ、それらの可能性を広げたいと思った。
【目的】
   様々なフレーバーのロデヴを提案することで、ロデヴの無限大の可能性や魅力を伝える。また、一からパンを作ることは大変なイメージがあるかもしれないが、出来るだけ簡単に作れるようレシピ考案し、パン作りの楽しさをもっと身近なものにしたいと考えている。様々なフレーバーや作り方を知ることによって、「パン屋さんに行ってみよう」、「食べてみよう」、「自分で作ってみよう」というきっかけづくりをする。
【研究内容】
   「ロデヴ」発祥の地である南フランスの歴史やパンの特徴を知り、「ロデヴ」が非常に高加水のパンであることが分かった。高加水のパンとは、一般的なパンの加水率が65%程度に対し80%以上の加水率で作られたものである。水分を多く含むためもちもちしっとりとした食感が特徴である。また、日本に広まっている「ロデヴ」は南フランス発祥の「ロデヴ」にアレンジを加えたものであることが分かり、実際にどのような「ロデヴ」が日本で販売され食べられているのか調査した。さらに、既存のレシピを参考に「ロデヴ」を実際に作り、生地を扱う難しさを感じつつ、毎度異なる姿を見せる生地の魅力にはまった。
   今回は、「ロデヴ」から「高加水のハードパン」研究対象を広げ、高加水がもたらすパンへの効果や食感の魅力を追求する。また、前回の発表で報告したロデヴレシピをベースとし、様々なフレーバーや具材を組み合わせロデヴのアレンジレシピを提案する。「そんな組み合わせもあるのか!」、「どんな味がするのだろう?」など、興味のきっかけを与えたい。

焼き菓子における砂糖の違い

   砂糖には上白糖をはじめ、グラニュー糖や粉糖、黒糖など、数多くの種類がある。もちろんその数だけ違いや特徴がある。本研究では、砂糖の種類の違いはお菓子の出来栄えにどのように影響するのかを検証する。お菓子作りにおいて、使用されることが多い砂糖はグラニュー糖であることから、今回検証していく上で基本となるレシピにはグラニュー糖を使用する。前期はスコーンを用いてグラニュー糖、上白糖、粉糖、水あめという4種類の砂糖と甘味料による違いを検証した。結果として、仕上がりや食感、作る過程での違いに多少の変化はあっても、大きな変化は見られなかった。このことからスコーンではグラニュー糖以外でも代用できることがわかった。
   後期ではクッキーとメレンゲクッキーを用いて検証していく。スコーンでは砂糖を加えるのは工程の終わりの方だった。しかし、クッキーでは最初にバターと砂糖を混ぜ合わせるため、その後の作業性にどのような違いがみえるのかを主に検証していきたい。メレンゲクッキーでは、卵白を泡立てる際に、使用する砂糖によってメレンゲの状態がどのように変化していくのかを主に検証していきたい。使用する砂糖は前期にも使用した4種類に加え、黒糖、和三盆糖、はちみつを新たに追加した。洋菓子を作るときにあまり使用しない3種類ではあるが、黒糖では色味の変化、和三盆糖では風味の違い、そしてはちみつでは独特の香りが残るのかというところに着目している。7種類の砂糖と甘味料それぞれの特徴により出来栄えに違いが出るのかを検証していく。基本のレシピは昨年一年間、学園内留学で学んだことを活かし、アレンジしている。これは、砂糖のみを変えて数種類作る対照実験をするために作りやすい分量、大きさにするためである。そして、完成したレシピを元に使用する砂糖の種類を変えて、それぞれの特徴がどうでるのか検証していきたい。