令和4年度 食文化栄養学実習

守屋亜記子ゼミ■食生活文化研究室


酢で身体の中から美しく
~ビネガードリンクから見る日韓の嗜好の違い~

 【実習背景】近頃、食料品店でビネガードリンクの品揃えが豊富になり、中でも韓国産の商品の陳列が一気に増えた。美容大国と言われる韓国からも商品が出ているがゆえに、より健康・美容面に効果的であると人々が注目するのではないかと考え、日韓の間で酢の認識や嗜好は違うのかという疑問を持った。
 【目的】日韓の食文化の比較から酢に対する認識や嗜好の違いを明らかにすることを目的とする。最終的に、酢を飲料としての形で摂取することの魅力を分析し、考察する。  【実習内容】中間報告では、文献調査から酢の定義や日本の歴史、ことわざについてまとめた。酢は、酒を原料とし酢酸発酵することで造られることから、酒と同様に世界各地の食文化や歴史を形成する重要な役割を果たしてきたと分かった。また、日本人の酢に対するイメージの変遷を知るために江戸時代のことわざを分析し、当時の人々が酢に対して必ずしも「身体に良い効果を与える」といった肯定的な意味で認識していたわけではないと推測できた。そこで、いつ、何をきっかけに酢が身体に良いというイメージが定着したのかという疑問が生まれた。
 中間報告後は、さらに文献調査を進め、ビネガードリンクの販売元へ問い合わせを行った。その結果、酢を飲むという認識の薄い世の中に向けて、とにかく「薄めるだけで飲める」「飲む用の酢」であることを説明し、酢飲料の営業活動を行っていたということが分かった。このことから、食酢企業の販売法や宣伝文句が人々の酢に対するイメージの転換に大きく影響している可能性が考えられる。
 今回の発表では、文献調査とインタビューで得られたことをもとに、日韓における酢に対する認識や嗜好の違いを分析・考察し、酢をドリンクとして取り入れることの魅力を明らかにする。

日常生活における郷土食と伝統工芸品の活用
木曽漆器と松本の郷土食を例に

 [実習背景・目的]私は、伝統工芸の技術や美しさに興味がある。しかし、伝統工芸品と聞くと日常生活では扱いづらい、敷居が高いと感じる人が多いのではないだろうか。また、ライフスタイルが変化するなかで、郷土食は家庭で作り、食べ、継承する機会が失われつつある。本研究では、地元である長野県の木曽漆器と郷土食を例に日常生活における伝統工芸品と郷土食の活用法を提案する。
 [実習内容]中間報告では、木曽漆器の歴史や扱い方、製品の開発についてと郷土食の定義についてまとめた。文献調査から木曽漆器は、室町時代から農業や林業に従事する人々の弁当箱など日常雑器として使われてきた歴史があることがわかった。また、フィールドワークを通して、日常雑器として使われていた背景から、現在はガラス製品や食洗機対応のものなど現代の生活でも使いやすく、馴染みやすいデザインの製品開発に取り組んでいることがわかった。郷土食に関する文献調査から、郷土食とは、その地方の自然と生活から生まれ、作り、食べ伝承されてきた郷土料理・伝承食品であり、その地域の農産物・畜産物が十分に使われているものであることがわかった。
 中間発表後は、長野県松本市の気候と郷土料理を含む郷土食の調査を行った。大きい寒暖差と水捌けのよい土壌の特性から、農業や畜産が盛んに行われており、夏野菜と信州味噌を使った「鉄火なす」など旬の食材をふんだん使った料理が存在することがわかった。今回の発表では、季節ごとの旬の食材を使用した郷土食を、現代の生活に合わせて開発が行われている漆器に盛りつけたり、伝統的な漆器への盛り付け方を工夫したりした私自身の食事記録から、郷土食と伝統工芸品を日常生活で取り入れた料理とコーディネートの提案を行う。

嚥下障害児に向けたおいしいレシピ提案
~まとまりマッシュを活用して~

 【実習背景】特別支援学校に勤務する母から、味が薄いなどの理由で普段の給食の時間を楽しみにしている子供たちは少ないという話を聞いた。そこで、発達期の子供たちに向けておいしく食べられることはもちろん、楽しんで食事をしてもらえるようなレシピを考案しようと考えた。
 【目的】本研究では、嚥下障害を抱える発達期の子供たちとその家族に向けた”おいしく”、”楽しく”そして”簡単に”つくることができる「まとまりマッシュ」を用いたレシピの提案を行う。
 【実習内容】中間報告では、文献調査から嚥下食の歴史と、まとまりマッシュの概要を調査し、嚥下食は以前から存在するにも関わらず、子どもの嚥下食は近年になって認知され、検討されるようになったことを明らかにした。また、まとまりマッシュは、粒のある不均一な形態を立体的に成形しなければならないことから、見た目にも配慮が必要となることが分かった。インタビューからは、一緒にマッシュする食材を検討すること、私たちが普段食べているものと大きく味を変えないことが重要だと明らかになった。
 中間報告後、まとまりマッシュに関する文献調査とフィールドワークを再度行った。その結果、子どもは味がはっきりと分かるものや、口に入れた時に冷たい、辛いなどの刺激を感じにくいものを好むことが分かった。また、保護者はなるべく健常者の子供と同じものを食べさせたいという思いがあること、離乳食や介護食とは異なり嚥下食はレシピ数が少ないため、自宅で手軽に作ることが出来るレシピが求められていると明らかになった。
 今回の発表では、文献調査とフィールドワークを通して得られたことを基に、まとまりマッシュの基本的な調理方法と使用する調理器具、作るうえでの留意点や実際に考案したレシピを発表する。

観光地の銘菓と類似菓子の比較
北海道銘菓白い恋人を例に

 【実習背景】日本では、コミュニケーションの一環として土産を購入して相手に渡すことが多い。私は土産を通して相手との関係を築くという日本特有の行動に興味をもった。そこで、銘菓から地域性が薄れているにも関わらず、なぜ観光土産として売れ続けているのか疑問に思い、このテーマを選んだ。
 【目的】本研究では、文献研究やフィールドワークを用い、土産の歴史・変遷や、本研究で銘菓の代表として取り上げる、白い恋人について調査をする。その結果から、銘菓と類似する菓子の比較をし、銘菓の存在価値と今後の在り方について考察する。
 【実習内容】中間発表では、土産の歴史と、北海道の土産と産業の関連性についてまとめた。土産は伊勢参りに始まり、その後社会情勢や世の中の流行に合わせて内容が変化し、高度経済成長期以降の国内旅行ブームがきっかけとなり銘菓が誕生した。また、北海道土産に乳製品を使用した商品が多くあるのは、明治2年に開拓使が設置され、酪農が定着したことが関連している。さらに、明治時代後期から大正にかけて工業が発達したことで、北海道産の原料を使用した菓子が誕生したと分かった。
中間発表後は、北海道銘菓白い恋人の製造元、石屋製菓株式会社へインタビューを行った。その結果、銘菓は味だけではなくパッケージや商品名などからもその土地を連想させる商品づくりと希少性が重要だと分かった。またフィールドワークにより、銘菓は個包装になっているなど配りやすく、さらに裏面に細かい成分表示をするなど、もらった人への配慮もされていることが魅力であると分かった。
 発表会では、これらの調査をもとに、現在の銘菓の存在価値と、私が考える銘菓の今後の在り方について発表する。

伝統的包装材料「経木」のこれから
~プラスチックとの比較から考える~

 【実習背景】近年、プラスチックごみによる環境汚染が問題になっているなかで、環境にやさしい資源として「経木」が見直されている。プラスチック製の包装材料が普及している現代において、経木は馴染みの少ない存在であるため、その価値や使われ方に興味を持ち調査することにした。
【目的】近年のプラスチックごみ問題を踏まえ、伝統的な包装材料である経木が現代の食品包装材料として持つ価値を明らかにするとともに、未来に向けた経木の可能性について考察する。
【実習内容】中間報告では経木の定義、薄経木とプラスチックの歴史、フィールドワークの結果についてまとめた。文献調査から、薄経木は江戸時代に竹皮が不足したことを契機に考案されたが、昭和時代の流通革命により衰退したことが分かった。また、経木店で行ったフィールドワークの結果、経木産業はプラスチック製品の普及によって斜陽化したため、経木が見直されている近年では現存するわずかな経木店に注文が集中し、供給が追い付いていないことが分かった。
 中間報告後の文献調査では、廃プラスチックの輸入制限により、日本国内で資源を循環させる必要性が高まっていることが分かった。また、森林所有者へ十分な利益が還元されていないため、整備が進まないという日本の林業の課題も明らかになった。さらに、林業家へのインタビューから、林業の持続的な発展のためには、物を処分する際の環境負荷を考慮した価格設定が必要で、この場合木製品はプラスチック製品よりも低価格になると予想されることが分かった。
 今回の発表では、プラスチック製の包装材料が普及した現代における経木の価値をまとめるとともに、資源の循環や人間と森林の共生が求められるこれからの時代において経木が果たし得る役割を考察する。