令和3年度 食文化栄養学実習

山下史郎ゼミ■フードマーケティング研究室


ネオ・パスタの世界
ヘルシー志向のパスタを楽しむ

  家庭でも簡単に調理できる料理、パスタ。最近では社会の健康志向が高まり、小麦以外を原料とする商品が販売されている。小麦以外を原材料にすることで、小麦から形成されるグルテンを抑え、グルテンフリーとなる。そんな、「小麦以外を原料とする、新たなパスタ」を『ネオ・パスタ』と呼ぶことにした。
  ネオ・パスタの魅力は大きく3点あると考える。1つ目は健康食品であること。小麦を用いないグルテンフリー食品として注目を集めている。2つ目は原材料の特徴を楽しめる点。小麦では味わえない香り、舌触り、色合いなど、原材料のちがいを楽しめる。3つ目は原材料の違いが生む、新しいソースとの相性。特徴のあるパスタとソースの絡まりが相乗効果となり新しい美味しさを作り出す。これら3点の魅力を実際に感じられる食べ方を提案したいと考えた。そこで、「ネオ・パスタ」の魅力を具体的なメニューとして表現することにした。
  具体的には、「ネオ・パスタ料理」のポスターを作成してみた。
  今回対象としたネオ・パスタは以下の4つを原材料としたパスタである。(1)キヌアとアマランサス、(2)黄えんどう豆、(3)米粉、(4)とうもろこし粉。
  それぞれ合うソースを考案し作成、その魅力を合わせてポスターに表現してみた。通常のパスタでなくネオ・パスタならではの魅力(健康面での効果、一般的なパスタにはない特異性、見た目の華やかさなど)が伝わることを意図している。飲食店のメニューをめくるような感覚で楽しめるポスターを目指した。
  発表を通し、健康志向のパスタを食べたい、作りたいと感じていただくことが目的である。ネオ・パスタの情報発信から、パスタ自体の楽しさ、魅力を多くの人が再認識してくれることを願っている。

食べる香水
─香水の魅力を料理で表現─

  私は趣味で香水を集めているうちに、いい香りは落ち着きと安心感を与えてくれることに気づいた。香水などのいい香りがするものを嗅覚でしか感じ取れないのはもったいない。匂いを楽しみ、纏うものとして使用されている香水を味覚でも楽しみたい。もし香水が食べられるようになったら、今まで以上に香水の楽しみが増えると考えた。また、香水はつける量や場所が限られ、時には相手に不快感を与えてしまうものとなり、香水が苦手という人もいるだろう。しかし、香水が苦手と感じる人でも、存分に香水を楽しんで欲しいと思い、「食べる香水」を研究テーマとした。「食べる香水」とは香水の魅力を料理や飲み物で表現したもので、嗅覚だけでなく、味覚や視覚からも楽しめるものである。   自分が持っている香水についてその特徴をまとめ、特にその中でもよく使うものについては、どんな気分をもとめる時にその香水を使うのかを明確にした。また、「食べる香水」の類似商品を探した結果、多数の商品が発売されていることがわかった。(ふわりんかソフトキャンディやアロマドレッシング、お酒に振りかける香水「PUSH BITTERS」など)これらをゼミ生に試食してもらい、喫食時の味の感想や不快感、香水っぽさの有無などを調べた。その試食結果をもとに、自分が制作する「食べる香水」(飲料)の概要を設定した。   香水の匂いが苦手という人でも、味と香りを楽しんでもらえるものにする。それぞれの香水のコンセプトにそった外観にし、不快感のない味に仕上げる。また、コースターなど周りのものに少量の香水を添えることで、外観や味だけでなく実際の香水の匂いも楽しめるものにする。   香水の匂いが苦手という人も「食べる香水」を通して香水の魅力を再発見してもらえると幸いである。

食べ物遊び、悪いこと?
〜ラテアートをきっかけに〜

  「食べ物で遊んではいけません」。子供の頃に誰もが言われたこのセリフは深く考えると本当に正しいのでしょうか。
  私はカフェでアルバイトをしており、コーヒーの上にミルクで絵柄を作るラテアートを施しラテを提供しています。発表テーマを考えている時、ふと飲食物に楊枝などで絵を書いていることに気がつきました。お絵描きという遊びに飲食物を使うのは良くても、粘土のようにぐちゃぐちゃにする遊びに飲食物を使っていたら世間一般の評価は悪いでしょう。実際に私は、小学生時代に同級生が給食に出た白米と牛乳を混ぜ合わせていたのを叱られた場面を今でも覚えています。また他の例として、スペインの伝統的な祭りのラ・トマティーナ(通称トマト祭り)はトマトを投げていても社会的な非難は少ないようですが、一昔前若者の間で流行した顔面シュークリームはSNSで大炎上しました。このように、食べ物を使っても世間に許容されることとそうでないことがあり、私たちは無意識に善悪を判断しているように感じます。食べ物遊びの例として、流しそうめん・スイカ割り・キャラ弁・闇鍋・子供向けの菓子など多岐に渡ります。飲食物を使った芸術・アクティビティ・食育・伝統の要素があり、最終的に食べられることは善と判断して、むしろ食欲を満たすだけではないことに価値を感じる人は多いのではないでしょうか。
  このように、食べ物で遊ぶことや食べ物で何かを作り上げることを深掘りしていくと、一概には「食べ物で遊んではいけません」と言えないと思いませんか?   この考察をもとに、今までにはなかった新たな食べ物遊びの価値を考え、より良い食事シーン・食べ物での思い出を増やしていける発表にしていきたいと考えています。

冷や飯は主役
─炊きたてに負けない冷や飯の魅力を考える─

  冷たいご飯と聞いて、どのような印象を持つだろう。
  「ぱさぱさ」「残り物」といったマイナスなイメージ。また「美味しいご飯は?」というと、「温かいご飯」が一般的であり、「冷えたご飯」と答える人はまれである。ご飯は温かいものが良いというのはなぜか、という疑問をきっかけにこのテーマを設定した。冷や飯の美味しい食べ方を伝えることで、上記のイメージを払拭したいという考えから「冷や飯の魅力を伝える」を目的とし研究に取り組んでいる。
  魅力を伝えるため、お米・冷や飯についての調査を行った。まず、保温機能がなかった時代の冷や飯はどのように食されてきたかを探るため、お米文化の歴史について調べた。そこから、それぞれの時代で美味しく食べるレシピが考えられ、つい60年ほど前までは冷や飯が中心であったということが分かった。また冷や飯の魅力を探るため、栄養面について調べた結果、「レジスタントスターチ」という健康に役立つ成分が含まれていることが分かった。加えて、冷や飯やお米を直に扱っている方からの生の声を聴くため、弁当メーカーやお米マイスターへの取材を行った。お弁当に使用するお米は歯触りがよくもちもちし過ぎないものの方が良いこと、冷めても美味しいお米の銘柄や炊き方、冷まし方の工夫などがインタビューを通して知ることができた。今後は、このインタビュー内容を元にレシピも考えていこうと思う。そして最終的には情報発信をすることで、冷や飯の魅力を伝えていきたい。まずはインスタグラムを使って栄養面やインタビュー内容、冷や飯料理の紹介などをしていく。ついで、より具体的なレシピ等を掲載したホームページを作成する。上記のように冷や飯に関する情報発信を積極的に行い、「冷や飯」といった新たなカテゴリーとして認識されるようにリブランディングすることを目指す。

「料理の一個残し=遠慮のかたまり」を考える

  「遠慮のかたまり」(料理の一個残し)という現象が起こる原因の考察と、その現象自体を楽しんでもらう方法を提案することが本研究の構成である。
  「遠慮のかたまり」は、大皿料理などの最後の一口を全員が食べきらず皿の上に残してしまう現象のことである。なぜ「遠慮のかたまり」が発生するのか、まずその原因を考察した。ゼミ内での討議や文献などで検討したところ、他者の視線を意識して自分を良く見せようとしていることや相手との関係性によって発生の頻度が異なることが分かった。それほど親密ではない人と同席して食事をする場面では、大皿に盛られた料理を食べ切って良いかと質問するのもはばかられる。「遠慮のかたまり」が発生する原因として人の意思疎通が上手くいかないことがあると考える。 改めて考えてみると、「遠慮のかたまり」はちょっともの悲しく、滑稽な印象もある。ならば逆に「遠慮のかたまり」現象を前向きに捉えて食事を共にする人とのコミュニケーションのきっかけにできないかと考えた。
  食シーンをより楽しくするため、さらには美味しい状態で食べ切るためにも、大皿料理を前にした場でのコミュニケーションに工夫をすることで「遠慮のかたまり」現象の発生を抑制できるのではないかと考えた。そこで海外の事例を利用することを検討した。タイでは最後の一個残しは多くの人が争うように真っ先に食べることが多い。日本のことわざの一つである「残り物には福がある」に近い考え方だと解釈できるとのこと。このタイの事例を参考に「一個残しを食べ切るためのコミュニケーション企画」を考案した。飲食店の負担も配慮し、気軽で実現性が高いものを目指した。「遠慮のかたまり」現象の発生を抑制し、発生しても楽しいコミュニケーションが弾むきっかけになる企画になっていれば幸いである。

YAKUMI
薬味の可能性を広げる

  薬味をテーマしたきっかけは、好きなニンニクについて調べることから始まり、そこから薬味にたどりついたからである。日本人はなぜ薬味を使うのかと疑問を持った時、私は「ひと味を加えて、香りや味の変化を楽しむ傾向がある」と仮説を立てた。調べていくうちに、薬味には、料理の味を変える大きな力があることを再確認した。このことから、普段何気なく使っている薬味の魅力を知ってもらい、新しい薬味のあり方を提案し、さらに楽しい食事にしたいと考えた。
  まず、薬味の知識を深めるために薬味の歴史、あり方、日本料理ではどのように捉えられていたか、どんな効能があるかを調べた。そして、今回私は薬味を「食べている途中にひと味を加えて、香りや味の変化を楽しむもの」と定義づけた。
  さて、「ちょい足し」という言葉を聞いたことがあるだろうか。ちょい足しとは、ある1品にちょっと足して味をアレンジすることである。近年では、TV番組や食品企業のHPでも取り上げられる食べ方である。このことから、多くの日本人は1つの料理で何段階も楽しみたい傾向があるのではと考えた。西洋料理ではハーブのように薬味のような役割をしているものはあるが、それらは調味料として調理されてから提供されることが多く、食べている途中にひと味を加えることはあまりない。食べている途中にひと味を加えて香りや味を変化させ、一つの料理で何段階も楽しみたいというニーズが万人にあると仮定すると、西洋料理でも日本の薬味文化を取り入れることが可能ではないかと考えた。最終的には、西洋料理に日本の薬味をふんだんに使ったコース料理を考案し、新しい薬味のあり方を提案することを目標とする。
  この研究を通じて、WASHOKU(和食)の次に、YAKUMI(薬味)の魅力を広めるきっかけとなったら嬉しく思う。

推しパン!チャンネル
パンマニアへの情報発信

  皆さんには「好き」と言えることがありますか。
  料理・音楽鑑賞・旅行など、好きの種類は人それぞれですが、それらをSNSで共有して新たな仲間を見つけている人は多いのではないでしょうか。
  そんな「好き」を共有したい思いと、かねてから抱いている「料理家になりたい」という目標に近づくため、私は「食」をテーマにした情報発信をすることを決めました。特に関心の強い「パン」をテーマとし、パンマニアとパンのおいしさや楽しさを共有できる動画チャンネルの企画と作成を行いました。
  既存番組の調査や動画制作を行ったところ情報ツールには「一方通行の情報の流れ」があると感じました。出演者が視聴者に情報を伝える番組は「講師と生徒」の関係を生み出してしまいがちです。したがって、既存の番組には無い「双方向のやり取り」が出来るコミュニティ動画を作成することを決めました。
  チャンネルの立ち上げ後、実際にレシピ動画や食べ比べ動画を投稿したところ「参考になった」、「真似したい」との声が集まりました。しかし、このコメントから動画の内容が「教える」こととなっており、目標とする「双方向のやり取り」ではないと気付きました。また、視聴傾向を分析した結果、ターゲットであるパンマニアが取り込めていないことが分かりました。そこで、パンマニアの多くが情報源としているInstagramに動画に関連した投稿をすることでパンマニアに動画の存在を知ってもらいたいと考えました。加えて、ファンベースの考えを取り入れた企画を考案し、視聴者と「双方向のやり取り」ができる動画を作成するために研究を行いました。   推しパンチャンネルを通して、パンマニアとパンに対する「好き」の想いを共有出来たら嬉しいです。

チャイ×アーユルヴェーダ
心身が健康になる飲み物へ

  私はチャイを頻繁に飲む理由の1つに、チャイのスパイスの効果により健康志向な飲み物であると認識していることが挙げられる。
  そこでチャイをより深く理解するために、インドの食の根源といわれるアーユルヴェーダについて調べてみた。アーユルヴェーダとは、インドの伝統予防医学のことであり、世界三大伝統医学として1977年に世界保健機構(WHO)より認定を受けている。
  私は、日本ではおしゃれな飲み物として扱われてきたチャイを、アーユルヴェーダを基にした健康にも良いドリンクとして商品企画できないかと考えた。しかし、アーユルヴェーダに関する文献には、体質に合わせた健康的なスパイスを使う食事法が紹介されていたが、スパイスティーであるチャイは、なぜか紹介されていなかった。文献調査や専門家へのインタビューを実施した結果、現在のチャイではアーユルヴェーダの健康ドリンクとはなりにくいことが判明した。その点を改善することで健康効果の高いチャイが企画できるのではと考えた。アーユルヴェーダを基にした体調に合う「チャイ・ベース」を作成すると同時に、体調に適合するチャイを見つけるための「診断ツール」を提案することにした。
  チャイベース作成にあたり、無農薬・無化学肥料の紅茶・チャイ作りを行っている静岡県静岡市の「梅ヶ島くらぶ」様のご協力のもと、試作を繰り返し、健康効果が期待できるチャイベースの基本レシピを作成した。また、診断ツールは、Instagramに掲載することで誰でも簡単に診断ができるようにして、チャイシロップの購入につながるように考えている。
  作成したチャイベースが、誰かの体調改善に繋がり、チャイの可能性に気づいてもらえるとうれしい。

ヤマガタ・ガストロノミー
山形蔵王の食の可能性を探る

  「山形って何があるの?というか、どこにあるの?」ある友達に山形について問いたら帰ってきた答えです。多くの方々が持っていた山形のイメージは、田舎でなにもなさそうなところ。しかし、わたしの出身地、山形県はどこにも負けないくらい食が豊かで美味しい県だと思っています。そんな山形県のまだあまり知られていない特有の食文化に目を向け、山形の新しい食の魅力を発信したいと考え、研究テーマとしました。
  対象とした地域、蔵王はスキー場や温泉地として全国でも名が知られている観光地です。しかし新型コロナ感染症拡大により、観光客の7割強を占める首都圏の都県民、外国人観光客の来訪がなくなってしまいました。そこで地元、山形県民に対して蔵王の魅力を再確認してもらうために何に着目し、活動すればよいのかを、蔵王温泉観光協会や蔵王で活躍する方々に取材を行いました。その結果、「蔵王ジンギスカン」に焦点をあてることにしました。その歴史は古く、蔵王はジンギスカン発祥の地ともいわれています。実食したところ、長い歴史をもつジンギスカンの味は間違いないものです。さらに取材を重ねるにつれて、蔵王に行って、蔵王ジンギスカンを食べることに価値があると強く感じました。
  当初予定していた実地でのPR活動は、感染症拡大により制限されることになったため、SNSなどネットメディアを通じて、ジンギスカンをより魅力的な観光資源にできるようにPR活動を実施しています。その中でも、蔵王温泉観光協会に公認頂いた「蔵王ジンギスカンの公式インスタグラム」では様々な反響もあり、情報発信することの大切さを日々感じています。わたしの活動をきっかけに、少しでも「蔵王ジンギスカン」の魅力が伝わり、蔵王の価値をより大きくすることが出来たら嬉しく思います。