令和3年度 食文化栄養学実習

守屋亜記子ゼミ■食生活文化研究室


日本におけるキッチンカーという食空間の可能性
~韓国の屋台との比較から~

  【実習背景】以前韓国に旅行した際、都心部に日常的に多くの屋台が出ていることに驚いた。また、韓国ドラマでもしばしば屋台が登場する。一方、日本では、屋台は日常的なものではなく、博多など一部の地域にしか見られない。日韓の屋台文化の違いに興味を持ち調べることにした。
  【目的】文献調査とフィールドワークを通じて日韓における飲食関連の屋台を中心に食と人の関係性を比較し、韓国の屋台の魅力を分析した上で、日本で存続できる屋台の形を提案する。
  【実習内容】中間発表では、屋台の定義や韓国と日本の屋台の歴史について調べ、屋台を「屋根があり物を売る台を備え、店を構えない移動が可能な露店」と定義した。韓国の屋台は高麗時代に地方で生まれた市に起源を持ち、朝鮮王朝時代になると都にも拡大し、現代ではビルと屋台が共存している。一方、日本の屋台は奈良時代に天秤棒でものを売る振売が増加し、江戸時代から屋台が出現し始めたが明治時代には一部の地域を除く屋台への規制が厳しくなり、屋台は衰退した。
  中間発表後は、日本の屋台の変遷についてさらに文献調査を進めた結果、屋台が衰退した後にそれに代わる食空間としてキッチンカーが生まれたことが分かった。また、地元越谷周辺のキッチンカーを対象とし店主へのインタビューや利用者へのアンケートを行った。その結果、キッチンカーはコロナ禍で需要が高まり、店舗数が急増し扱う料理も多様化した事や、出店地域や時間によって販売する料理が異なることから利用目的もそれに応じて変化する事が分かった。
  今回の発表ではフィールドワークと文献調査で得られた結果をもとに、求められている食空間を分析し、現代日本における新しい食空間の形を提案する。

食と美肌の関係性
~韓国食で美肌を目指そう~

  【実習背景】あるテレビ番組で、韓国には食べることで体の内側から健康になるという考えがあることを知った。私は、これまで化粧品や美容器具などで体の外側から美肌を目指してきたが、韓国の食事を取り入れることで体の内側からも「美肌」を追求することができるのではないかと考えこのテーマにした。
  【目的】本研究は、文献調査やフィールドワークを通じて「美肌」とは何か、肌に良い影響をもたらす韓国の食事は何かを明らかにし、自分自身の食事に取り入れることで美肌を目指すことを目的とする。
  【実習内容】中間発表では、「美肌」の定義や歴史について文献調査を行い、自身の肌状態について調査した。その結果「美肌」の定義は、歴史的に変遷し未だ確立していないことがわかった。しかし現在の日韓の美肌指標を比較すると、日本はシミ・シワなどマイナス面を指標にするのに対し、韓国ではツヤ・弾力などプラス面を指標にするという傾向があった。機械を用いた自身の肌調査からは、インナースコアが悪く、肌の老化スピードが速い状態にあることがわかった。そこで本研究における「美肌」の定義を「美白・綺麗な素肌」とし、インナースコアを改善し「美肌」を目指すことにした。
  中間発表後、「薬食同源」という韓国の食文化に着目し、文献調査・食事調査を行った。文献調査から「薬食同源」とは、多様な副食を通してバランスの良い栄養を取り込み、食べることで健康になるという意味があることがわかった。食事調査の結果からも、韓国人の食事は、自分の食事に比べ野菜の食べ方が多様で、野菜料理の品数が多いことがわかった。
  第2回発表会では、肌によいとされる韓国の食事の特徴を明らかにし、それらを自分自身の食事に取り入れることにより、自身の肌がどのように改善され「美肌」に近づいたのか発表する。

発酵食品の力
〜食事改善と発酵食品を取り入れて冷え性緩和!〜

  【実習背景】私は冷え性で、特に冬場は手や足先が氷のように冷たくなってしまうことが長年の悩みであった。これまで厚着をするなど、さまざまな方法を試してきたが改善されなかった。そこで食事で改善できる方法はないかと考えた結果、体温を温める機能がある発酵食品に着目することにした。
  【目的】本研究は、発酵食品を自分自身の食生活に取り入れることにより冷え性緩和を目指すことを目的とする。最終的に冷え性に悩む人達に向けて、毎日の食生活に取り入れやすい発酵食品を取り入れたレシピを考案する。
  【実習内容】中間報告会では発酵食品及び発酵食品と冷え性との関係性について文献調査を行った。その結果、発酵食品には腸内細胞を活性化させ、免疫力を強化する役割があるといわれており、身体を温める、保温効果があることが分かった。さらに冷え性の原因を探るため、自身の食事記録を取り、分析した。その結果、自身の食事には熱源となる2群(魚介・肉・豆製品など)・4群(穀類・砂糖・油脂など)が不足していることが分かった。そこで、発酵食品の中でも体温の上昇が見込まれるショウガ麹に着目し、自身の食生活に取り入れることに加え、2群・4群を意識した食生活を心がけることにした。
  中間報告会後、ショウガ麴についてさらに文献調査を行った。ショウガ麹は、あまり一般的に知られていないこともあり、これを使ったレシピが少なく、私自身食生活に長期的に取り入れる難しさを感じていた。そこでもっと日常的に取り入れられるように、食材として、また調味料としてショウガ麹を使用したレシピを考案することにした。最終的に冷え性に悩む人達に向けて、日常的かつ長期的に継続しやすいレシピを考案し、発表する。

おいしさを連想させる食品広告の魅せ方
かつお節を例に

  【実習背景】 チラシやテレビCM 、SNSにおける食品広告を見ると、食べ物が目の前に存在しなくとも「食べたい」という気持ちになる。食品広告が、消費者の食欲をかき立て購買意欲を高めるのはなぜか?興味を持ったため、調べることにした。
  【目的】 本研究は、五感を刺激し食欲をかき立てる効果がある「シズル」表現を用いて、かつてかつお節を削っていた人が、もう一度かつお節を削りたいと思える広告動画の制作を目的とする。
  【実習内容】中間報告では、シズル表現やかつお節について文献調査やフィールドワークで得た知見についてまとめた。文献調査からは、シズル表現にはヴィジュアル・言葉・音があり、特にテクスチャーを具体的に表現できる言葉は他言語と比べるとその数が多い事や、時代と共に意味や用途、人に好まれる表現が変遷していることが分かった。フィールドワークでは(株)にんべんにインタビューを行い、かつお節の食品広告について調査した。しかし、シズル表現を用いた広告はほとんど見当たらなかった。
  中間報告後は、かつお節(削る前の節)の消費者と販売者(メーカーやかつお節専門店)双方にインタビューを行った。その結果、かつお節は削り節に比べ高価であり、削るのに手間や時間がかかるため敬遠され、削り節に比べると売り上げが減少する傾向にある事が分かった。
  今回の発表では、かつお節を削る魅力とかつお節が削られなくなった背景を分析し、これを踏まえて制作した広告動画をご覧いただく。かつお節を削った経験のある人に共通する思い出として、幼少期のお手伝いの情景がある。削りたてのかつお節の香りやおいしさ、削る楽しさを思い出し、もう一度削りたくなるような動画を制作したので、ぜひ見てもらいたい。

日本の食文化から考えるサスティナブルな食
〜精進料理を食卓に〜

  【実習背景】最近、「サスティナブル」という言葉を頻繁に目にする。「持続可能な」という意味を持ち、世界各地で様々な取り組みがなされている。私たちが学ぶ“食”の観点での「サスティナブル」とは何か疑問に思い、実習を通して調査することにした。
  【目的】レスミート(肉食を控えること)の活動に焦点を当て、人々の健康とサスティナブルな地球環境の実現のために「何をどのように食べるか」という問いへの回答を探る。そして、精進料理という日本版レスミートの実践により、食を通してサスティナブルな社会実現を追求する。
  【実習内容】中間報告会では、各国のサスティナブルな社会実現に向けた取り組みとフィールドワークの結果についてまとめた。文献調査から、肉の消費と生産は地球環境に大きな影響を与えており、レスミートはSDGs達成に資するとの考え方があることが分かった。植物性食材を使った料理を提供する飲食店でのフィールドワークを通し、市販のプラントベースフードは馴染みのない食材であることに加え濃い味付けを要することから、日常の食生活に取り入れることは難しいと感じた。そこで、日本の伝統的食文化の一つであり動物性食材を用いない精進料理に着目し、日本版レスミートの実践を行おうと考えた。
  中間発表会後、日本における肉食の歴史や精進料理について文献調査を行った。その結果、日本の食の歴史において長い肉食禁忌の時代があり、そのため鎌倉時代以降、精進料理が日本の食文化に深く浸透したことが分かった。さらに、精進料理研究家の方に調理法などについて伺った。
  今回の発表では、文献調査やフィールドワークから得た結果をもとにサスティナブルな社会実現に資する精進料理のレシピ提案を行う。

椿油と美
~“食”と“ケア”から見る椿油の魅力~

  【実習背景】私は美容に興味があり日々化粧品を使用するなかで、美容成分に油が使われていることに気がつき、内面的にも外面的にも取り入れやすいオイルに着目することにした。日本人に馴染みのあるといわれている椿油だからこそ、もっとその魅力を知り日常生活に活かしていきたいと思った。
  【目的】本研究では内面的に摂り入れるものを“食”、外面的に摂り入れるものを“ケア”として捉え、“食”と“ケア”の両面から椿油について調査し、その魅力について明らかにする。
  【実習内容】椿油は古くから日本人にとって身近なケア用オイルでもあったにもかかわらず、現在ではあまり注目されていない。中間報告では、文献調査から椿油の歴史、インタビューを通して明らかになった椿油のイメージや特徴、活用方法についてまとめた。椿油は希少価値が高く、また用途の幅も広く、“継続的” に使用することにより効果が期待できることが分った。また、オレイン酸が豊富で美容や健康に役立つなど椿油独特の良さがあり、幅広い世代の方が安心して使用することができる。
  中間報告後は、さらに文献調査を進め、椿油を食用として取り入れている方々にインタビューを行った。その結果、酸化されにくく保存性が高いなど他の油にはない特徴や魅力があることが分かった。そこで自分自身の生活にも食とケアの両面から取り入れてみた。非加熱/加熱調理に用いたところ、口当たりがよく易しい味で、料理の味を引き立てることが分かった。また、ケアオイルとして取り入れたところ、肌なじみが良く保湿力の高さから肌荒れ防止につながっていると感じている。
  今回の発表では、文献調査とフィールドワークを通して得られたことを基に、内面的な”食”と外面的な”ケア”の両面から見る椿油の魅力について明らかにする。