令和3年度 食文化栄養学実習

竹内由紀子ゼミ■食文化研究室


現代日本におけるヴィーガン

  このごろ、メディアや授業などで「ヴィーガン」という言葉を目にする機会が増えてきた。私は今までヴィーガンというと、どこか近寄りがたく、海外の文化であるとの印象を持っていた。しかし最近は、スーパーや飲食店などで代替肉<だいたいにく>という文字を目にするようになった。ヴィーガンと類似した文化が、一つの選択肢として私たちの生活の中に浸透しつつあるのだと考えた。そうして、思っていたより身近になりつつあると感じ興味を持ち研究テーマにした。ヴィーガンとは、肉類や魚類などのあらゆる動物性食品を避け、卵や乳製品も摂らず、蜂蜜なども食べないという特徴がある。
  前回までの報告会では、イギリス発祥の歴史、動物愛護や環境保護など思想的背景の違いからくるヴィーガンの種類について示した。また精進料理と比較をした結果、動物を殺さない事を目的として、動物性食品を食べないという共通点があった。しかしその背景には、時代、宗教、思想の違いがあると分かった。次に、日本でのヴィーガンについて情報を集めると、お惣菜の宅配サービス、専門のレシピサイトが存在していることが分かった。さらに、ヴィーガンに関する検定試験やそれに関連する5つの組織があり、それぞれ目的・用途・思想的背景の違いがあることを紹介した。現代日本では、ヴィーガンの新たな局面が発展していることが分かった。このようにヴィーガンは、発祥のイギリスから世界に人口を増やし、日本へとその文化が浸透しつつあることに気付いた。それに伴い、日本にもヴィーガン対応の飲食店や商品が増加していることが分かった。
  今回の発表では、現代日本において、ヴィーガンがどのよう生活に馴染みつつあるのかを示し、ヴィーガン料理を提供している飲食店について、大豆ミートなどのヴィーガン商品について報告したい。

私たちのテーブルマナー

  私は、自分のテーブルマナーに不安がある。特に綺麗なテーブルセッティングや雰囲気の良いお店での食事の際は、誰もが少なからず意識するのではないだろうか。本研究に至ったのは、私と同じ若い世代がテーブルマナーに対してどのように思っているのか興味を持ったからだ。
  目的は現代の若者のテーブルマナーを解釈することだ。そこから価値観の共有と今後への活用を期待している。本研究でのテーブルマナーの定義は周囲に不快感を与えない、スマートに美味しく食事するための社会人としての常識にあたる作法とする。これは、フランス料理のコースにおけるマナーのような定式化したものに限らず、日常の食事におけるものも含めて考える。
  前回は、16歳から25歳の若者を対象に食事マナーの意識に関するインタビューを行った。その結果、それぞれに食事マナーに対してある程度の関心・意識があることや、周囲の人間のマナーについても気にかけていること、男性・女性で価値観の違いがあることなどがわかった。全体的には、音や立ち振る舞いへの注目が強いという傾向にあった。それを踏まえ、今回は経験豊かな社会人へのインタビューを実施した。50代後半で会社内での地位も高い知人の男性からインタビューを行い、若者のマナーが大人から見てどう見えるのかに加え、飲み会でのマナーに関しても聞くことができた。大人と若者の間にマナーについての価値観に位相差があると一般に理解されているが、社会人が必要だと考えるマナーには、若者も意識している周囲への配慮に通ずるところが多くあることが確認できた。また、社会人独自のマナーについては、なぜそうするかということの背景を知ることで、大人と若者の価値観の溝も埋められるのではないかと思えた。今回は、飲み会や宴会でのマナーとそこから見えたマナーの二面性について、考察を報告する。

エディブルフラワーの魅力
食と花言葉

  私はエディブルフラワー(食用花)をテーマにしています。
  中間発表会では、実際に、エディブルフラワーを利用し、クッキーやハンバーグなどの料理を作って試食したことを発表しました。試食の結果、エディブルフラワーの味や食感、香りはあまり感じられず、「エディブルフラワー」として売られているものの多くは、見た目に華やかさを与えるだけの機能しかないように感じました。そこで、私は花言葉に注目し、エディブルフラワーの花言葉を料理に活かすことを考えました。花言葉は、一般的にはトルコの「selam(セラム)」という、小箱に入れた花や果物に意味を持たせ気持ちや言葉を伝えるという風習が起源だと言われています。また、花言葉は、花の見た目や特徴、その国の歴史や風習、神話・伝説などによるとされます。
  今回は、母の日のメニューを、花言葉を意識したエディブルフラワーを使用して、表現することにしました。母の日を選んだ理由は、気持ちや言葉を伝えるということを考えた際に、母への感謝が真っ先に浮かんだからです。メニューを考えるために、まず母の日に合いそうな花言葉を持っているエディブルフラワーを調べました。結果としては、13種類をピックアップしました。カーネーション(赤い花は母への愛、白い花は生きた愛情)やバラ(美、愛情)はもちろんですが、その他にも、コーンフラワー(繊細、優美)やナデシコ(純粋な愛、無邪気)、ビオラ(誠実)等があり、母の日にふさわしいと思いました。オリジナリティを出すために、ピンクや赤色だけではなく、様々な色の花を使うように意識して、これらを使用し、メニューを作りました。また、使用した花の花言葉が分かるように、説明を載せたメッセージカードも用意しました。

冷麺から盛岡冷麺へ
盛岡から全国へ

  「盛岡冷麺」は朝鮮半島の冷麺がルーツです。朝鮮半島には4つの種類の冷麺がありますが、咸興出身の青木輝人氏が日本人の口に合うように改良を重ねて盛岡冷麺のレシピを開発されました。
  中間発表では、朝鮮半島の4つの冷麺と日本の盛岡冷麺を比較し、それぞれ麺の製法、スープ、トッピングについて検討しました。その結果、釜山発祥のミルミョン冷麺が盛岡冷麺に近い麺と言われていることがわかりました。その後、盛岡冷麺が知られるきっかけは1986年の「ニッポンめんサミット」であったことを確認しました。また盛岡三大麺の一つである盛岡じゃじゃ麺についても調査しました。岩手県の特産名産と言えば、盛岡じゃじゃ麺・盛岡冷麺・わんこそばが盛岡三大麺とされています。盛岡じゃじゃ麺は、1953年に中国で生まれた炸醤麺から盛岡冷麺と似た状況で伝来し、盛岡で定着しています。中でも盛岡冷麺は全国各地に広まり、それぞれの地域でぞれぞれのアレンジによって進化しています。そのため盛岡の冷麺は、「盛岡冷麺」として全国に名前が知られています。そのきっかけとなった「ニッポンめんサミット」について新聞などを元に当時の状況を調査しました。このサミットが開催されるまで、全国で「盛岡三大麺」はあまり知られておらず、「盛岡冷麺」という名前は主催者側のアイデアで誕生したことがわかりました。また盛岡じゃじゃ麺は、NHK連続ドラマ「どんど晴れ」(2007年上半期)で主人公たちのお気に入りメニューとして使われたため、注目が集まりました。盛岡ではなぜこのように外来の麺料理が受け入れられたのか、そこには盛岡人の特徴があると考えられます。「おやれんせ」という言葉は「どうぞ、おやりなさい」という意味を持ちます。この「おやれんせ」が外来の麺料理とどのように結びついて展開していったかを追っていきます。

日常の中の幸せなおにぎり

  私にとっておにぎりは母や祖母を思い出す、癒しを与えてくれる食べ物です。私はご飯が好きですが、人の手によって握られておにぎりになると幸福感や元気を与えてくれるものに変わるような気がします。また、特別ではなく日常にある食べ物だからこそ食べるとほっとでき、幸せになれるのではないかと思います。そんなおにぎりを探求したいと思いテーマに決めました。中間発表会までは、おにぎりの歴史、形の違い、食べる機会などについて追究しました。おにぎりの歴史は古く、稲作とほぼ同時、弥生時代に始まったとされています。宗教的な意味合いを持ったと考えられていたり、貴族の饗宴で下級役人に対して振舞われたり、弁当にしたりと時代ごとに様々な場面で用いられてきました。また、昔の人々は保存性を高めるためや持ち運ぶために様々な工夫をしてきました。表面に塩をまぶしたり焼きおにぎりにしたりするのも保存性を高める知恵でもあります。時代の変化により形や具の変化はありますがお弁当にして持ち運ぶなど食べる機会や用途は変わらないと考えます。近年おにぎりは、テレビ番組で取り上げられたりSNSで話題になったりと注目されているように感じます。現在、おにぎりはコンビニエンスストアの主力商品となっており、様々な具や味が考案されています。さらに、おにぎらずなどおにぎりの進化系といえるものが登場するなど、多種多様になっています。このように、長い歴史のあるおにぎりが今の時代に注目される背景を考察したいと思います。また、私がおにぎりをほっとする食べ物だと感じるようにおにぎりに思い出を持つ人も少なくないと思います。そんな、おにぎりが持つ精神性についても追究していきます。おにぎりはシンプルで簡単に作れるものですが、握る人によって特徴があり、思い出が宿る食べ物だと感じています。専門店も多く存在しますが人の手によって握られたおにぎりを食べてほしいです。

岩国寿司の魅力

  山口県の郷土料理岩国寿司について研究しています。母の故郷が岩国市で、その郷土料理である岩国寿司について知る機会があり、深く調べてみたいと思いました。本研究では、岩国寿司を様々な視点から研究し、岩国寿司の魅力を伝えることを目的とします。
  岩国寿司は山口県岩国市の郷土料理で、冠婚葬祭時に家族・親戚が集まって食する押し寿司です。しかし、近年では核家族化の進展、冠婚葬祭の様態の変化等により作る機会が減りました。そのため、身近な郷土料理であった岩国寿司を知らない世代が出てくるという変化がありました。
  こうした状況への対策として、岩国市の老舗旅館で近隣の小中学生を対象に岩国寿司を実演し、見学を行っていることを知りました。また、次世代に郷土の味を伝える活動をしている岩国生活改善実行グループが、市内の小・中学校や地域の集まりにおいて岩国寿司を伝える普及活動を行っていることがわかり、中間発表で紹介しました。その後、岩国生活改善実行グループの方にインタビューする機会があり、以下のことが新たにわかりました。岩国寿司は元々「殿様寿司」と呼ばれていましたが、岩国生活改善実行グループがより身近な郷土料理にするために「岩国寿司」と呼び始め、現在は「岩国寿司」の名前が普及していること。農業祭などで一度に大量の岩国寿司を作る必要があり、わかりやすく簡単に作れるように岩国寿司のレシピを統一したこと。レシピを統一する前は、地域や作る人によって、寿司飯が甘い、酸っぱいなど味に違いがありましたが、開発されたレシピは多くの人に評価され、岩国寿司の販売を新たに始める人や、家庭で作る際に参考にされることが多いそうです。
  発表会では新たにわかったことの詳細をお話したいと思います。

絵本の中のおいしさ
─食表現の魅力と時代による変化─

  トラのバターでつくったホットケーキや、こんがり焼けた山盛りのドーナツ。子どもの頃絵本を読むのが好きだったが、その中でも食べ物が出てくる絵本を気に入り、繰り返し読んでいた。絵本の中に描かれる食には、絵本そのものの魅力と深くかかわり、読者を惹きつける力があると思い、その魅力を明らかにしたいと考えた。本研究では、絵本の中に描かれる食の魅力と、描かれ方の時代による変化を分析する。
  まず絵本の定義や特徴を調べた。絵本には他の媒体にはない特徴がある。「めくる」という動作により、人が能動的に関わって楽しむものであるということだ。次に、日本の絵本の歴史や現状を調べた。活動が本格的に始まったのは戦後からで、1960年から70年代に絵本ブームがあった。また、1990年代には文化のひとつとして認識されるようになり、絵本表現の多様化が始まる。現状については、「出版不況」の状況下でも児童書の分野は唯一売り上げを伸ばしている。
  そして、絵本に描かれた食の魅力を分析するにあたっては、「絵本ナビ」という絵本試し読みサイトを参考にした。その中の「美味しそう!な絵本」というテーマの人気ランキングの絵本を対象にした。ランキングをみて、気づいたことがある。1位の『しろくまちゃんのほっとけーき』をはじめとした上位3作品には、食べるだけでなく、作るシーンが描かれているということだ。そこで私は、絵本を読む子どもにとって、食べ物を作る過程に魅力があるのではないかという仮説を立てた。また、1990年代以降の絵本の多様化によって、食の表現も変化しているのではないだろうか。10月にフィールドワークの一環として神保町の絵本専門店「ブックハウスカフェ」を訪れ、絵本作家の方とお話をする機会にも恵まれた。発表会では、仮説をもとに得た絵本に描かれた食の魅力や、その変化についての考察を発表する。

昆虫食の可能性

  最近、昆虫食について様々な媒体で目にする機会が多くなりました。
  日本には昆虫食の伝統があり、大正時代の記録にはハチ、カミキリムシ、カイコなど50種類以上の昆虫が日常的に食べられていたことが確認されており、現在でも一部の地域ではイナゴの佃煮などが生産、販売されています。しかし、時代とともに伝統的な昆虫食の文化は衰退していき、昆虫を食べることが怪訝な目で見られるようになりました。そこに転機が訪れます。2013年にFAO(国際連合食糧農業機関)が昆虫食を推奨し、昆虫を食材や飼料に活用することは多くの利点があると発表したのです。近年では新たな昆虫食の可能性に注目が高まっています。
  都内周辺では昆虫食関連のお店がオープンしています。合同会社TAKEOでは2018年に日本初の昆虫食専門の実店舗兼飲食店を開業しました。タガメエキス入りの「めっちゃタガメサイダー」では、タガメの卵をタピオカ、水草をレモングラスで表現するなど、飲食店ならではの実験的な商品を展開しています。YouTubeチャンネル「バグズクッキング昆虫食&虫料理」ではタレントの井上咲楽さんと昆虫料理研究家の内山昭一氏が美味しい昆虫料理を紹介し、昆虫食の魅力、昆虫の活用方法などを発信しています。また昆虫食のイベントも行われています。栃木県なかがわ水遊園では昆虫を扱った料理体験講座を開催しています。水族館らしい料理を体験してほしいと水辺の生き物や魚を材料にしたメニュー考案しています。これまでに毒サソリのピザやタガメマリトッツォなどの講座を開講しました。
  昆虫食に興味はあるものの実際に食べるきっかけがないという方に、身近に感じてもらえるような発表になればと思っています。今後、さらに昆虫食の可能性を探っていきます。