令和3年度 食文化栄養学実習

向後千里ゼミ■特任教授


御師まちの良さを広める
〜御師まちの町並み保存と食〜

  山梨県富士吉田市上吉田には、築400年以上の御師の家が並ぶ歴史的に貴重な御師まちと呼ばれる町がある。御師の家とは、かつて富士山を信仰の対象とし、富士登山のために町を訪れる「富士講」はじめ信仰登山をする人達の宿泊の世話から登山のサポート、祈祷などを行った「御師」の住む住居兼宿泊施設の事で、日本の伝統的な木造建築の立派な住宅だ。私たちゼミ生は、この御師の食文化の継承と御師の人達の支援と海外に紹介することを目標に研究をはじめた。本研究では、御師まちの町並み保存と町づくりを最終目標としている。そして、私は特に若者に富士吉田市の御師まちを訪れてもらい、町並みや文化に興味を持ってもらいたいと考えている。まず、町並みと文化保存にしっかり取り組み、若者に魅力をより伝えられるような歴史観光の提案をしたいと考え研究を進めた。今回の発表に際し私たちは、コロナウイルス拡大のため現地調査が難しくなっている中、予定を変更し10月に富士吉田に足を運んだ。そして、まず御師まちの町並みの良い点と課題について探るため、昨年おこなった御師住宅のある上吉田のファサード調査に追加し、昭和に栄えた下吉田の調査を行った。歩いて町をみてまわり、建造物、空地全てのファサードを撮影し(建物の正面からの撮影のこと)データにまとめた。加えて白地図上に御師の家、飲食店や商店、宿泊施設などをマークし、分析を試みた。そこからわかる町並み保存に向けての工夫点や改善案、町並み歩きをもっと多くの人に楽しんでもらえるよう、飲食店調査や宿泊施設調査を活かし、観光ルートの提案などをおこなう計画だ。まずは、御師まちを知ってもらい、興味を持ってもらえることが活性化に繋がり、御師の食生活文化の保存活動の一歩であると考えている。そのきっかけづくりに私の研究が役立つことを願っている。

フィッシュベジタリアンの食文化
御師料理の保存と継承

  日本が誇る富士山は、古くから信仰の対象であり、富士登拝のため、富士講はじめ多くの信徒が訪れていた。現在では活動が衰微していることを背景に、御師の家や御師料理の食文化の保存と継承を目標に地元でもプロジェクト活動が始まっている。御師料理は富士登拝をする人々を支える御師まちに根付く食文化で、御師により歴史的に形成された伝統的な食文化のことを指す。漆や江戸時代に発展した染付の器等を合わせた食膳で、江戸時代から大正に形成されており、基本献立は汁とごはん、香の物、三〜五菜の料理の組み合わせである。御師料理は信仰に基づき、精進料理がベースとなって形成され、主にひじき、昆布、干瓢、や魚が中心の食文化で、四足動物を使用しないのが特徴である。御師料理は御師の人が富士登拝をする方々へのおもてなしの心が現れており、御師の人はもてなし側、富士山を登拝をする人々はもてなされる側という関係性が歴史的に継承されている。
  日本は世界一の長寿国であるという特徴や、和食が世界から注目されていることから、今後の研究によって、御師料理は世界にも通用するのではないかと考察した。文献調査を通して、菜食主義は大きくは四つのパターンに分類され、その分類によれば、日本の精進料理は准宗教的、または栄養科学的であるということが考えられた。御師料理はどのパターンに分類されるのか、さらに深掘りを行い、世界各国の菜食主義の定義と比較することで御師料理の貴重性を確立したいと考えている。
   本研究を進める中で、栄養学的視点を持ち、精進料理と異なる御師料理の位置付けを追求したいと考えている。また、これらのことから、御師料理の独自性をさらに分析することで御師料理の貴重性を高められると考え、研究を進めている。

おもてなしの文化
御師料理の保存と継承

  私は「おもてなし」の文化の観点から御師料理の保存と継承の支援をすべく研究を続けている。御師料理については、研究に携わり、初めて触れた食文化だった。3年次にファサード調査に同行したことから、自然への感謝と共に神様へ捧げ物をする「神饌」の文化と、様々な行事を通して人と神が食を共にする「神人供食」の文化を知る。この2点はユネスコ無形文化遺産に登録されている和食文化の根底にある「自然の尊重」とも深い関りがあり、私は富士吉田の風土と信仰文化によって形成された御師料理について非常に強い関心を持った。 以後、日本の食生活全集の追加集計、先行研究の調査や、基礎資料の読み込みを経て、実地調査を行った。
  現地の御師住宅の視察や文献調査を進める中で、自然や季節との関わりや、空間を活用し多種多様な器で神様と人に、おもてなしをしていたと推察された。御師住宅をいくつか視察し、最盛期には多くの富士講の方々で御師の家は賑わったであろうことが推察できた。研究を進める中で、様々な歴史背景を追求することは、御師という1つの文化が成り立つにあたり、その文化の独自性を追求することに繋がり、それは御師料理の文化継承の支援となることを学んだ。
  本研究進めるうえでのキーワードをおもてなしとした理由は、御師料理が季節や祭事を取り込んだ膳で構成され、利用されていた器も特徴的で多種多様な食具を組み合わせて料理とのハーモニーを楽しんでいたことが明らかになっているからである。 文化の形成は民族や地域、時間をこえて特定の集団の人々に伝承されることが必要である。定着した生活様式を守るため、御師の文化を尊重しながら、食文化継承の支援活動を行った。