令和3年度 食文化栄養学実習

平野覚堂ゼミ■ビジュアル・コミュニケーション研究室


雑草食べたい
─丁寧に扱う雑草めし─

コンビニやスーパーで食材を手に入れることができる時代。これを当たり前と感じられる今の便利な時代で、「仮に」簡単に手に入れることができなくなったとしよう。そんな時に人は何を食材の代替として捉えるのか。ふとそんなことを思い、道端の雑草が目に入る。「これ、食べられるんじゃない?」人にとって普段余計なものとして扱われる雑草だが、それには一つ一つに名前がある。私は『丁寧に扱う雑草めし』として、雑草に価値を与えていきたい。今回の発表では、パスタを土台として数種類の雑草を使った料理を紹介する。あなたのすぐそばにも、案外食材は眠っているかもしれない。

駄菓子屋コミュニティ継承

駄菓子屋は地域のこども達にとって、一種のコミュニティを形成していた。こどもがおとなになり、そのおとながこどもと駄菓子屋に訪れていた。今や少子高齢化・核家族化・携帯電話の普及等の理由から、外に出て遊ぶこどもが減り、同時に駄菓子屋に足を運ぶこどもも、昔懐かし地域の駄菓子屋も減少している。そんな中、生き残っている駄菓子屋の存在を引き立たせたいと考えた。そこで、駄菓子屋をたずね、その特徴・様子を日記のように綴った本として残すことにした。これを見た読者が駄菓子屋に親近感を抱き、実際に訪れる人が増えると期待したい。最終的な目的は「駄菓子屋コミュニティ継承」である。

食から見るファンタジー

幼い頃は雲は「雲→綿飴」のように、当たり前に食からファンタジー(非現実的な風景)を連想していた。しかしそれは、子どもの想像力を養うために投げかける大人の模倣的想像であることがわかった。幼少期に形成される想像力は、目の前にないものをイメージし仲間とそれを共有するのに不可欠である。しかし、インターネットの普及により、現代の子供は以前と比べ感性や想像力が低下しているらしい。そこで、身近にある食から想像力を養うきっかけを作るため、自由な発想と結びつけやすいファンタジーと食を用いたイラストを制作する。日常でよく触れるものに対して、新しい視点や気づきを感じてほしい。

野菜ヲ贈ル

現在インターネットが発達し、ボタン一つで様々な商品が購入できる時代になった。ただ、世間では利便性が高まっているものの、その分人との関わりが減り、人との交流から感じられる“あたたかさ”が減少しているように感じる。私も実際通販サイトで商品を購入した際に、商品と小さい文字でびっしりとかかれた説明書のみが入った段ボールが届いた際に違和感を覚えた。そこで祖父と祖母が野菜を育てていることから、野菜のネット通販サイトを立ち上げ、販売の際には、メッセーズカードやレシピカーを添え、プレゼントのように梱包するなどの“あたたかさ”を感じることのできる工夫をし、配送をする。

夜な夜な亜菓子―丑三つ堂―

近年、和菓子の需要は減少傾向にある。需要減少の原因として考えられる和菓子の問題点を解決した 新しく定番となりうる和菓子を作成する。私はこれらの和菓子を「亜菓子(アガシ)」と名付けた。 「亜」には次ぐ、準ずるといった意味がある。和菓子に準じていながらも新しく、次なる定番となる ようにという思いを込めている。食べた時に「和菓子欲」を満たすという点を大切にしており、柔軟 な発想を取り入れながらも、むやみな洋風化などは行わない。「亜菓子」はあくまでも和菓子なので ある。発表では和菓子の問題点などの現状とともに、実際に制作した「亜菓子」について説明する。

これもあれもたべもの絵本

本実習で私は、食べられるのに捨てられてしまうといった食品ロスの現状の打開のきっかけ作りを目的としている。その方法として、食品ロスをテーマにした絵本を制作することにした。絵本によって、子どもたちに規格外の食べ物に対しての見方、考え方が養われることを目指している。絵本は野菜のシルエットとカラーの野菜の絵を繰り返し幼い子どもにも楽しんでもらえる構成にした。そして子どもが成長した際、店頭で規格外商品を見かけても、抵抗感を持たないことを長期的な目標としている。規格外野菜には一般に流通している野菜には無い魅力があり、この点を生かし少しでもマイナスイメージを取り去る。

アトピー性皮膚炎食事改善記録

「アトピー性皮膚炎が食事を変えることで治療できる」。この話を聞き、小さい頃から体中を掻きむしることが当たり前だった私は、自分も実践して少しでもよくなりたい、そう思った。そんな思いから除去食中心の食生活の改善をする日々がスタートした。使えない食品も使ったことがない食品も多く、料理を作っても失敗することもあり、おいしくないこともある。生活の改善だから、食べるものだけでなく睡眠時間など生活習慣も見直す。日記をつけながら、おいしく、そして、反復して作れたらレシピにして、ブログに掲載する。今回は、そんな今までの日々を、ブログに載せたレシピとともに話していく。

画欲食欲

飲食店は、店構えや内装、照明、客層、立地などのさまざまな要素からなる。私はそうした要素をまとめて店の雰囲気と定義した。現在、飲食店を知るきっかけは、たいていインターネットである。私たちがネットで頼りにする情報は、文字通りの数字や言語など再現可能な記号ばかりではないだろうか。しかし、店の雰囲気はインスタや食べログだけでは伝わらないことが多くある。そこで、インターネット上でも店の雰囲気を丸ごと伝えられるアニメーションを作成した。アニメーションは、誰にでも再現可能な記号ではなく、店内の動きも伝わり、今までとは違った共感や興味、予感を得られるのではないかと思う。

無彩色の世界でおいしさを表現する
─漫画の中の食を参考に─

ここに真っ黒なりんごがあります。さて、このりんごはおいしいでしょうか。 食べ物のおいしさを判断するとき、五感の中でも「視覚」の果たす役割は特に大きいとされています。青色は食欲減退色という話を耳にしたことのある人は多いのではないでしょうか。視覚から得られる情報の中でも「色」と「おいしさ」には密接な関係があることがわかります。では、「食」から「色」という要素がなくなったとき、そこにおいしさを感じることはできるのでしょうか。漫画の中にみられるおいしさの表現を参考に「無彩色の料理」を製作し、無彩色の世界でおいしさを表現する方法について探ります。

気ぬけたヴィーガンでほんのちょっと晴れてみる

あまりにも簡単に食料が手に入るこの社会では、食への考え方は多方面に分散されている。その中で食べるモノやコトに対して、疑問や違和感を抱く人が増えている。はたまた、食絡みで違和感が生まれていると気づいてない人もいるだろう。本来食というのは、自分が食べたいものを楽しく食べて幸せになる行為でいいはずだが、良い悪いのジャッジがあまりにも多い。それに惑わされないためには、食への歪んだ型にハマりすぎず、身体が本当に欲しているものに敏感になれるベースが私たちには必要だ。そのためにヴィーガンというライフスタイルを軸とし、食に関する澱んだ雲を追い払ってもらう方法を紹介する。

ふるさと民話膳

「地元には何もない」。人が多く訪れる目立った観光地がないことで、地元についてそう語る人は多い。しかし、どんな地域にも培われてきた人々の営みや歴史などの物語がある。そのような物語を知れば、何もないと思っていた地元にも愛着を持てるのではないだろうか。地域特有の土地の成り立ちから言い伝えまで、その地域で築かれてきた人の営みを教えてくれるものとして「民話」がある。本研究では、福島県福島市の民話を取り上げ、それを料理や菓子で表現する。ストーリーやモチーフが落とし込まれた料理を味わうことで、民話と人々の距離を近づけ、地元に愛着を持ってもらうことを目指す。

EARTHLINGS
─喰い、喰われる循環─

生物は基本的に喰い、喰われる循環の中に生きている。しかし、人間はどうか。その循環から切り離された存在ではないだろうか。このテーマでは、現代で一般的に考えられる“人間を頂点とする食物連鎖“の概念から離れ、循環の一要素として人間を捉えることで、本来の食物連鎖の在り方を示していく。研究では、閲覧者に対して効果的に「喰い、喰われる」という、概念を伝えるため、デザインやアートの側面から作品を制作する。中間発表では、人間を介する食物連鎖を描いた『身体を摂る』と、人間の死を中心に生物環境を描いた『Princess Colony』の2種をシリーズ作品として発表する。

紡ぐ、町中華。

現代、街に軒を連ねる飲食店は日々入れ替わる。一方、何十年と愛されてきた大衆食堂、町中華。そこでは、初対面のお兄さんとカップルだと間違えられたり、食べきるのに1時間もかかる山盛りの炒飯が出てきたりする。一般的なお店では見かけない光景や人が町中華にはあり、面白くあっても一瞬ためらうことがある。でも、何故か敷居は高くない。皆、人情に溢れているから空腹感だけでなく心も満たす事ができるのだ。しかし、後継者不足やコロナ禍で暖簾を下ろすお店も多い。そこで、zineを作成し身近に感じてもらえるコンテンツを通じて1人でも多くの人にそこに行くきっかけ作りを行った。

味わうカタチ
─新たな味、出現系─

同じ料理を食べても全く同じ感じ方にはならない。それは、一口目の位置、口に入る量、食べるスピードなどの「食べ方」が人それぞれだからである。さまざまな感じ方ができるのは料理の魅力でもあるが、「食べ方」をコントロールすることができたらどうだろうか。形・大きさ、盛り付けなどの料理の構造から、食べる順番や舌に触れる位置をコントロールすることで、食べた時に感じられる味わいも操作できると考えた。人間が食べ物を食べるときの動作や味覚の感じ方を利用し、「食べ方」をコントロールできたことで初めて仕掛けが成立するような計算された料理を提案する。