所長挨拶

第47回APACPHと学術回復

 

副学長 香川靖雄

副学長 香川 靖雄

この度、インドネシアのバンドンのPanghegarホテルで開催された第47回APACPH(アジア・太平洋地区公衆衛生学校連合体会議)とその総会や学長理事長の会に女子栄養大学を代表して出席した。華やかな開会式と、西島千陽院生の菜食の報告が印象的であった(図1)。最近のアジアの科学の発展はAPACPHの抄録に800編もあることからも判る(図2)。アジアの学術、国際競争力の向上と反対に日本では、過去の競争力1位から27位に転落し、東大の国際順位が34位、京大は88位に低下したが(図3)、今の順位は主に過去の業績なので来年は更に順位が下がると予測できる。鳴り物入りの大学改革やゆとり学習が失敗して、論文数が日本だけ激減した(図4)。生命科学分野の国内誌と研究者の激減(図5)よりもさらに栄養学分野の研究の低下は著しく、栄養学雑誌、日本栄養食糧学会誌などは厚さ数ミリの薄さとなった。管理栄養士養成校が140校も増えたのに、それに伴う研究が皆無に近いためである。しかし、140校中、本学の研究発表、大学院生数は抜群である。栄養科学研究所設立以降の研究業績をデータベースSCOPUSで”Kagawa Nutrition University”を検索すると1984年から2011年2月末までに欧文誌364編を発表し、国立健康栄養研究の885編に匹敵する業績である。大学院栄養学の博士数(1991-2010)は実に88名で、徳島大学に次いで全国2位である。ただし、徳島大学は最近、医科栄養学として病院内の第三次予防を中心とする患者を治療する栄養学に特化したので、強く要請されている一次予防は行われない。全ての管理栄養士養成校は少子化に対して生き残りを競い、そのため本来は学術で社会に貢献すべき大学が、大学そのものの存続が自己目的化した。これでは大学が残っても日本社会は没落する。管理栄養士養成校は国試予備校化して100%合格校が46校、90%以上合格は104校となったが、米国のRDの試験に合格できる学生はほとんどいないであろう。学術の発展に不可欠な国際性も日本の大学から失われつつあることは留学生の激減から判る(図6)。現在のハーバード大学の日本人留学生は僅か13名、世界の工学の中心のMITでも僅か15名で、中国の400人余始め、多くの国に及ばない。その原因の1つは、これだけ教育改革が叫ばれて研究を犠牲にしているのに、英語の国際試験であるTOEFLの成績が世界最低である点にある(図7)。

このような学術の低下の現状に対して、現在の日本では厚生労働省の発表で要介護高齢者が530万人、認知症患者が555万人と軽度認知障害約400万人がおり、重複を考えても合計が千万人は越える。平成25年(2013年度)の国民総医療費は40兆円を越え、財政赤字千兆円をさらに悪化させている。特に団塊の世代が75歳を迎える2025年の超高齢者医療危機に、栄養学による予防研究が国家的重要課題となっている。しかし、これに対処する積極的な開発研究は停滞している。さかど葉酸プロジェクトのような予防医学への努力が140校の管理栄養士養成校で行われる必要が全国で必要とされているのである。

この驚くべき日本の科学、栄養学の現状を改善するには、各大学の利己的な生き残り策ではなくて、全国の大学の連携した研究と国際交流重視の政策である。これには、長い年月がかかるであろうが、資源がなく、高齢化が進む日本ではシンガポールのように科学を推進するのが唯一の賢明な方法である。

 

図1 図2 図3 図4 図5 図6 図7

 

    ■香川靖雄

昭和7年6月27日生。医師。医学博士。

昭和32年 東京大学医学部医学科 卒業。

昭和37年 東京大学大学院第二基礎医学 修了。

信州大学医学部教授、米国コーネル大学分子生化学生物学客員教授、自治医科大学生化学教授を得て、

平成10年から女子栄養大学医化学教授。

平成11年から女子栄養大学副学長。平成13年から栄養科学研究所所長を兼任し現在に至る。

平成28年にAPACPHからMedal of Meritを受賞しました。[記事はこちら]

 

業績の詳細は女子栄養大学の教員紹介をご覧ください。

 

【研究所の活動内容の紹介文献】

国際的な学術誌であるNutrition Reviewsの「創刊70周年記念 特別論文」として、本研究所の業績も含めた時間栄養学の総説論文が掲載されました。