今年は4年に1度のオリンピックの年。日本はこれまで最高の38個のメダルを、多くの種目で取ることができました。オリンピックに出場するようなトップアスリートは、厳しいトレーニングを行い、肉体的、精神的にも非常に鍛えられている選手が多いと思います。その身体作りや、トレーニングの基本となるのが「食事」です。今回のオリンピックでも、選手村の食事以外に、国として選手の食事をサポートしていました。 私たち女子栄養大学でも、いくつかのチームの栄養サポートを行っていますが、選手によく言うことは「食べることもトレーニングの一つである」ということです。食に対する意識の高い選手ほど、故障も少なく、良いコンディションで、いい成績を上げてくれます。 通常の練習時には、その目的に応じて食事の内容を工夫します。体重、筋肉量を増やすためには、エネルギーはもちろん、タンパク質の摂取にも気を配る必要があります。場合によってはプロテインなどを使用することもあるでしょう。コンディションを整えるにはビタミンやミネラルが必須です。これらを十分に摂取できるメニューが求められます。 試合期には、エネルギー源となる、炭水化物の摂取が重要になります。日本人の場合には「おにぎり」や「もち」など、非常に親しみやすいメニューがありますね。今回のオリンピックでも、「おにぎり」は活躍していたようです。いろいろな具と合わせて食べることで、ナトリウムなどの電解質の補給にもなります。 練習や試合の後には、できるだけ早くに食事を取ることが勧められています。食事までの間隔があく場合には、捕食として糖質とタンパク質を摂取することが勧められます。十分な水分補給も必要です。 オリンピックは、トップアスリートの競演ですが、その食に対する取り組みは、私たち一般の人も参考にできることがたくさんあります。でも、一番の基本は、「食べることもトレーニングの一つである」という意識を持つことです。練習メニューに対して好き嫌いは言いませんよね。それと同じで、食事に対しても好き嫌いはできるだけ少なくして、何でも食べること、これが大切です。 今回のひとことは、「食べることもトレーニングの一つである」。好き嫌いなく、いろいろな食品を食べること。これがバランスの良い食事につながります。 このコーナーを読んでいただけた人の中から、4年後、8年後のオリンピックに出場する人が出てきてくれるといいな。
脚気は日本では戦前は多くみられた病気で、亡国病と呼ばれ恐れられていました。江戸時代には「江戸患い」と呼ばれていました。もっとも患者数が多かったころには、年間で2万5千人もの人が脚気で亡くなっていました。長い間、原因も分からず、病原菌説、中毒説などの他に白米食説も唱えられていました。ソバを食べると脚気になりにくいということも知られていました。
その後、栄養学が進み、脚気の原因はビタミンB1の欠乏症であることが分かりました。この原因の究明には、海軍での食事の介入試験など多くの人体実験が貢献しています。原因がビタミンB1の欠乏と分かってからは、発生は減少、今ではほとんどみられることはありません。
しかし、現在でも、食生活の悪い偏った食事をしている若い人の中には脚気、あるいは脚気の予備群の人たちが存在しているといわれています。カップ麺やスナック菓子、アルコール飲料でエネルギーはしっかり摂取しているけれども、ビタミンやミネラルの微量栄養素が摂取できていない人がいます。身体がだるい、疲れやすい、そのような症状がある方、ビタミンB1の摂取は十分ですか?ビタミンB1は胚芽精米、玄米、豚肉、ウナギ、大豆、えんどう豆などに多く含まれています。
女子栄養大学は学校法人香川栄養学園が設置している学校の一つで、この学園を創立したのは香川昇三、綾夫妻です。夫妻は東京大学の医学部の医師として脚気の治療に関わってきました。そして、当時、籍を置いていた医局で胚芽米を用いて脚気治療に成果を挙げたことにより、香川栄養学園の前身である家庭食養研究会を発足し、予防医学の普及に力を注ぎました。今日でも女子栄養大学の学生食堂では「胚芽精米」が使用されていますが、これはその伝統です。
「食は生命なり」これは本学の建学の精神につながる言葉です。
香川栄養学園は今年(2013年)創立80周年を迎えました。
【脚気】かっけ、英語ではberiberi
水溶性のビタミンであるビタミンB1(チアミン)の欠乏症。末梢神経障害と心不全をきたす。正常では膝の下をたたくと下肢が上に動くが(膝蓋腱反射)、脚気の場合には反応しない。ビタミンB1の適切な摂取により予防、治療することができる。過去には患者数は非常に多かったが、現在では稀な疾患である。しかし、偏った食事を摂っていると発症することもある。