脚気は日本では戦前は多くみられた病気で、亡国病と呼ばれ恐れられていました。江戸時代には「江戸患い」と呼ばれていました。もっとも患者数が多かったころには、年間で2万5千人もの人が脚気で亡くなっていました。長い間、原因も分からず、病原菌説、中毒説などの他に白米食説も唱えられていました。ソバを食べると脚気になりにくいということも知られていました。
その後、栄養学が進み、脚気の原因はビタミンB1の欠乏症であることが分かりました。この原因の究明には、海軍での食事の介入試験など多くの人体実験が貢献しています。原因がビタミンB1の欠乏と分かってからは、発生は減少、今ではほとんどみられることはありません。
しかし、現在でも、食生活の悪い偏った食事をしている若い人の中には脚気、あるいは脚気の予備群の人たちが存在しているといわれています。カップ麺やスナック菓子、アルコール飲料でエネルギーはしっかり摂取しているけれども、ビタミンやミネラルの微量栄養素が摂取できていない人がいます。身体がだるい、疲れやすい、そのような症状がある方、ビタミンB1の摂取は十分ですか?ビタミンB1は胚芽精米、玄米、豚肉、ウナギ、大豆、えんどう豆などに多く含まれています。
女子栄養大学は学校法人香川栄養学園が設置している学校の一つで、この学園を創立したのは香川昇三、綾夫妻です。夫妻は東京大学の医学部の医師として脚気の治療に関わってきました。そして、当時、籍を置いていた医局で胚芽米を用いて脚気治療に成果を挙げたことにより、香川栄養学園の前身である家庭食養研究会を発足し、予防医学の普及に力を注ぎました。今日でも女子栄養大学の学生食堂では「胚芽精米」が使用されていますが、これはその伝統です。
「食は生命なり」これは本学の建学の精神につながる言葉です。
香川栄養学園は今年(2013年)創立80周年を迎えました。
【脚気】かっけ、英語ではberiberi
水溶性のビタミンであるビタミンB1(チアミン)の欠乏症。末梢神経障害と心不全をきたす。正常では膝の下をたたくと下肢が上に動くが(膝蓋腱反射)、脚気の場合には反応しない。ビタミンB1の適切な摂取により予防、治療することができる。過去には患者数は非常に多かったが、現在では稀な疾患である。しかし、偏った食事を摂っていると発症することもある。