実践栄養学で新型コロナウイルス感染症に対する免疫力を改善

栄養科学研究所
所長 香川靖雄
副所長 香川雅春

新型コロナウイルス感染症の現状

 

2019年11月に中国・武漢で報告された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、1年半が経過した現在も日々感染者が増加しています。世界保健機関(World Health Organization:WHO)によると、これまでに世界中で342万人を超える死者を含む1億6千500万人以上が感染しています(2021年5月22日現在。https://covid19.who.int/)。日本においても12,152人の死者を含む709,527人の感染者が報告され、COVID-19による重症者や死者、そして1日の感染者数は連日過去最大を更新していることから、東京都、大阪府、福岡県、愛知県を含む10都道府県で緊急事態宣言が、神奈川県、愛媛県、熊本県など9県でまん延防止等重点措置が発出されています(5月23日現在。内閣官房HP:https://corona.go.jp/emergency/)。

 

緊急事態宣言などが発出されていながら感染者数が増加し続けている背景には、新型コロナウイルスが当初日本で広まった従来の型(原株)から感染力の強い英国型(イギリス変異株)N501Yやインド型(インド変異株)L452Rに変わったにも関わらず人の外出状況には変化が無く、5月の大型連休時には昨年と比べて2倍から4倍の人出があったためです。図1のようにSARS-CoV-2変異株が持つ突起のS蛋白質とその進入路となる受容体ACE2の結合を調べると、英国型のN501Yやインド型のL452Rでは結合量(図1B)も、親和性をしめすKD 等も(図1CおよびD)、感染力(図1E)も高いことが報告されています。

 

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SARS-CoV-2への免疫応答

 

SARS-CoV-2に対するワクチンには、毒性を弱めた病原体あるいは不活化させた病原体を体内に接種することで中和抗体を体内に作る獲得免疫を刺激する従来のワクチンと、体内でウイルスが持つ突起を形成しているS蛋白質を安全に合成する情報を持ったメッセンジャーRNA(mRNA)を人工的に合成したmRNAワクチンがあります。mRNAワクチンでは、mRNAが人体内で分解せずにヒトの細胞に取り込まれるように脂質で形成されている小胞に包まれています。このmRNAがヒトの細胞内でS蛋白質を作って放出することで、体内の免疫細胞はウイルスに感染せずとも特定のウイルスが持つS蛋白質に反応する中和抗体を産生でき、ウイルスに感染した際には迅速にそのウイルスに対応することができます。中和抗体は、大きなS蛋白質の所々にある短いエピトープ(抗原決定群)に反応する沢山の種類の抗体が集まってできており、このような抗体をポリクローナル抗体と言います(図2)。

 

mRNAワクチンの解説はこちら

(https://www.snohd.org/ImageRepository/Document?documentId=6074)

 

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図2

 

従来(原株)のSARS-CoV-2はエピトープを形成しているアミノ酸配列がNYNY*L*YRLFとなっていますが、インド型ではエピトープのアミノ酸配列がL(ロイシン)からR(アルギニン)に変わったNYNY*R*YRLFとなっています。そのため、もし抗体が原株のSARS-CoV-2のエピトープにのみ対応している場合はインド型のSARS-CoV-2に反応することができません。しかし、中和抗体は複数のエピトープに対応できるポリクローナル抗体のため、複数の変異型にも有効です(図3A)。実際にワクチンを2回接種した人では、英国型にもインド型にも有効で十分な中和抗体が証明されています。一方、中和抗体は細胞内に入ることはできませんが、細胞内に入り込んだウイルスに対してはヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antigen:HLA)が細胞膜でT細胞という免疫細胞の受容体(T Cell Receptor:TCR)およびその共受容体であるCD8という膜貫通タンパク質と結合することで、細胞を破壊するキラーT細胞にその存在を提示して「細胞性免疫」が発動します(図3B)。従来(原株)のSARS-CoV-2であれば、細胞内でプロテアソームという酵素で断片化されたエピトープをHLAが認識することで細胞の破壊につながりますが、インド型であるL452Rは日本人の6割が持つとされているHLA-A24というHLA型による細胞性免疫から逃避することが最近bioRxiv (https://www.biorxiv.org/)に掲載された論文で報告されており(Motozono et al. 2021)、インド型に対する免疫能の低下が指摘されています。

 

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図3

 

また、期待がされているワクチン接種そのものも、現在のままでは恐らく今年末までかかるのではないかと予想されます。その間、すでに秋に第5波が到来するとの予測がシミュレーションから出されており、私たち一人ひとりが適切な感染症予防対策を行うことが求められています。

 

栄養学見地からのCOVID-19予防

 

免疫能を高める対策として、私たち一人ひとりが適切な栄養状態を維持することが大切です。最近、「COVID-19の予防と緩和のための栄養学的展望」と題する論文が栄養学的見地からの科学的根拠が最良のNutrition Reviews誌(和訳誌は女子栄養大学出版から発行)に掲載されました(図4)。この論文では様々な栄養素が免疫能に果たす役割について包括的に記述されています。

 

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図4

 

例えばビタミンDは46報もの無作為化対照試験(Random Control Trial:RCT)の結果から上気道感染の予防に有効であることが報告されており、ビタミンD不足はCOVID-19による感染および死亡率に対する大きなリスクであることが知られています(図5)。また、44万人を対象にしたPCR検査の結果と総合ビタミン剤やビタミンDの内服状況の関連を検証した研究では、PCR検査で陰性になった者は陽性になった者と比べて総合ビタミン剤やビタミンD剤を摂取している割合が有意に多かったとの報告もあります(図6)。

 

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図5

 

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図6

 

今回発表された論文では栄養素による免疫能の活性化を通じたCOVID-19の改善(図7)や炎症による酸化ストレス予防(図8)が確定しており、情報に厳格な欧州食品安全機関(European Food Safety Authority:EFSA)も「ビタミンA、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、葉酸、鉄、亜鉛、銅、セレンは免疫系の正常な機能に寄与する」と表示を許可しています。

 

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VA:ビタミンA、VB:ビタミンB、VC:ビタミンC、VD:ビタミンD、VE:ビタミンE、Cu:銅、DHA:ドコサヘキサエン酸、Fe:鉄、Mn:マンガン、Se:セレン、Zn:亜鉛

 

図7

 

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図8

 

日本には感染栄養学の研究が乏しく、感染時には健常時よりも多量のビタミンC等が必要となりますが、国は判で押したように栄養バランスだけを唱えています。しかし、実は大部分の日本人で免疫細胞の分化に必要なビタミンAや上気道感染の予防効果が報告されているビタミンD、そして抗炎症・抗酸化能があるビタミンCの摂取量が不足している状況です(図9、図10)。また、栄養状態は感染予防のみでなく感染後にその症状を緩和するうえでも重要です。国内には現在6万人もの方が感染していても直ちに病院に入院できない状況にあり、在宅での療養を余儀なくされています。栄養状態が悪く免疫力が弱いとすぐに重症化して生命の危険に晒されてしまいます。このような十分な医療が提供できない在宅患者に対しては、感染栄養学に加えて、運動栄養学や時間栄養学を考慮した包括的なアプローチを通じて個々人の栄養状態の改善と維持を促し、COVID-19の感染リスクに対応することが望まれています。

 

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図9

 

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図10

 

厚生労働省は手洗いやマスク着用などの個人衛生に加えて、「密閉・密集・密接」の「3つの密」を避けることを推奨して手引きを作成しています。「3密の回避」とは3つの密がそろっていなければ良いということではありません。私達はインド型、英国型の強い感染力を自覚し、ワクチンが普及して集団免疫を獲得するまでは、密になることも含めて感染しうる状況を可能な限り避けることが求められていることを理解し、それに向けて努力しましょう。そして常に高い免疫能と健康を維持できるよう日常の生活習慣を見直し、十分なエネルギーと栄養素の摂取、適度な運動、そして休養を取ることを意識して過ごしましょう。

 

厚生労働省参考サイト:

1) 国民の皆さまへ 関連情報((新型コロナウイルス感染症)|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

2) 3密解説_01 (mhlw.go.jp)